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雨の収蔵庫(The Rain Archive)  作者: テレン


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7/7

雨上がりの朝

朝の光が、白いカーテンを透かして差し込んでいた。

部屋の空気はしっとりとしていて、

昨夜の雨の名残りがまだ漂っている。

窓を開けると、遠くの街路樹から金木犀の香りが届いた。


その香りに、胸の奥がわずかに疼く。

けれど、それは痛みではなく、

やさしい呼吸のような感覚だった。


机の上には、封筒の束。

どれも乾いて、色が少し褪せている。

その横に、小さなガラス瓶。

中の花びらはほとんど溶けて、

金色の影だけが残っていた。


陸はその瓶を手に取り、

朝の光にかざした。

光が屈折して、虹のような帯を作る。

まるで、昨夜見た観覧車の輪のようだった。


「おはよう」


誰に向けて言ったのか、自分でも分からない。

でも、言葉を口にした瞬間、

胸の奥がふっと温かくなった。



出勤の準備をしながら、

玄関の鏡に映る自分の顔を見た。

少し変わった気がする。

表情が柔らかく、目の奥に光がある。


郵便館へ行く道を歩いていると、

猫が足元に擦り寄ってきた。

灰色の毛並み、濡れた尻尾。

見覚えのある猫だった。


「お前、また来たのか」


猫は小さく鳴いて、

陸の足元にくるりと丸くなった。

金木犀の花びらが、その背中に一枚落ちる。


陸は笑って、手を伸ばした。

猫の毛の温もりが、

どこか懐かしいものを呼び起こす。



坂上郵便館の扉を開けると、

カウンターの上に一枚のメモが置かれていた。

新しい筆跡。

けれど、その癖はどこか見覚えがある。


MNEMO-POST 再起動完了

管理者:R-12

※本日より運用再開


陸はしばらくその紙を見つめて、

小さく頷いた。


館内の照明をつけると、

光が壁一面のポスト口を照らした。

そこに一通だけ、新しい封筒が入っている。

白く、何も書かれていない。


陸は封筒を取り出し、

ペンを手に取って、ゆっくりと書いた。


宛先:未来の誰かへ

題名:また来い、また恋


そして、ポスト口にそっと投函した。

カチリという音が、

静かな館内に響いた。



外へ出ると、空は澄んでいた。

雲の切れ間から差し込む陽光が、

濡れた街を金色に染めている。


風が頬を撫で、

どこかで小さく金木犀の花が揺れた。


陸は立ち止まり、

空に向かって小さく呟いた。


「また来い」


そして、もう一度。


「また恋」


その二つの言葉が、

光の中でひとつに重なった。


朝の光の中、陸は歩き出す。

足元の水たまりに空が映り、

世界が静かに息をしていた。


金木犀の香りの中で、

どこかで誰かが、

また新しい記憶を始めている気がした。

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