第三十二話 お別れです
ミール様と拠点に帰ると、ヒース団長とニーナが私を待っていた。
私はジーニアス殿下との面会の報告がてら、ふたりと話をする機会を設けてもらった。
「そうか……王太子は、そんなにお前のことを……」
「フリッグはそれでいいの?王子様への気持ちと、現実とのギャップに悩んでいるって言っていたじゃない」
心配してくれる二人に、涙腺が緩んだ。
「私……怖いの。殿下は私が国民に受け入れてもらえるように配慮してくださるわ。でも……分からないの。私、ここを出て、国へ帰るべきなのかな?どうしたらいい?ふたりは、いつも正解を知ってるわ。教えてよ」
「フリッグ……」
ニーナは優しく私を抱きしめた。
「ここにいたいなら、いればいい」
ヒース団長は静かに声を絞り出した。
「でも、お前は王太子のところへ行きたいんだろう?怖くても、自分の心に従うんだ。お前は、自由な傭兵なのだから」
「自由な、傭兵……?」
「そうだ」
ふたりは頷いた。
「たとえ王太子妃になっても、フリッグはフリッグだ。お前は貴族の娘でもあるし、俺たちの大切な仲間でもある。そこに矛盾は生まれない。なにがあっても、お前の心は、お前が望む限り、傭兵だよ」
「大好きなフリッグ!もしなにかあったら、立場なんて捨てて、いつでも戻っていらっしゃい。ここは、いつでも、あなたの帰る場所よ」
ニーナはお別れを間近にして、涙を浮かべていた。
突然市井に投げ出された私にとって、親代わりだったヒース団長とニーナ。
私も、ぎゅっとニーナを抱きしめる。
「……今までありがとう……私、みんなが、この傭兵団が、大好き!」
話しを終えて部屋を出ると、ミール様が待っていた。
私は、決意を込めて彼に頷いた。
ミール様も、同じように返す。
「荷物をまとめます」
「……ありがとうございます」
私は、その足で広間のほうへ行く。
マリン、ノア、一緒に暮らしてきた仲間たちに、さよならを言うために。
マリンとノアは、私を祝福してくれた。
「よかったじゃん。これでむさくるしいこの場所とおさらばだね」
わざと皮肉っぽく言うノア。
黙り込んで、眉を下げるマリン。
「今まで本当にありがとう。ふたりのおかげで、私……ここまでこられたよ」
「……さみしくなる」
マリンはそういうと、懐刀を取り出した。
「これ、餞別。魔よけの加護があるから、きっとフリッグを守ってくれる」
「いいの?大事なものなんじゃ……」
「うん。フリッグに持っていてもらいたいんだ」
「……ありがとう」
私たちはお別れの握手をする。
マリンの、私と同じ、ガサガサした傭兵の手。
成り行きを見ていたほかの仲間たちから、ぱちぱちと拍手が生まれてきた。
「おめでとう!」
「いつでも戻ってこい!」
部屋の入り口で、ヒース団長とニーナも笑っている。
ミール様が、使用人に私の荷物を運び出す指示を出しているのが見える。
「……ありがとう!……いってきます!」
私は、涙と笑顔にまみれて、晴れ晴れと拠点を後にした。
振り返ると、傭兵団の拠点が夕日に染まっていた。
私のもう一つの家が、そこにあった。




