砂漠の王族たち①
読んでいただいてありがとうございます。
いつも通りリアが侍女たちと屋敷に飾るための花を採っていると、大きな影が日を遮った。
リアが顔を上げると、見たことのない男性と目が合った。
「お前がファイサルが連れ込んだという女か」
影の主は体格が良く、いかにも戦士といった風情の男だった。
「ふん、まぁ、そこそこだな。あいつはお前みたいなのが好みだったのか」
値踏みするように見られて、リアは気持ち悪さから軽く身震いした。
こんな不躾な目で見られたのは久しぶりのことだ。
だって、いつもは……いつもは?
……そう、いつもは、リアの大切な優しい人が庇ってくれていたから。
『大丈夫か?………、私の後ろに隠れていろ』
ふわりと香る匂いさえも思い出せそうな気がする。
……名前……その名前、は……。
「ジャファル殿下!何かご用ですか?」
メラの声に、リアははっとした。
メラが急いで近寄ってきて、リアを背中に庇うようにして男性に話しかけた。
正直、ほっとした。
メラが見知らぬ男性を『殿下』と呼んでいるのだから、おそらくファイサルの兄弟だと思うのだが、ちっとも似ていない。
「ファイサルが仕事中に女を連れ込んだと聞いたんでな。見に来ただけだ」
「連れ込んだなどと……。リア様はあくまでもファイサル殿下が保護しただけの方です。何方からお聞きになったのか知りませんが、リア様はお客様です」
「ふん!なら、この屋敷では客に仕事をさせるのか?こういうのは、侍女の仕事だろう?それとも人手が足りないのか?」
少し馬鹿にしたようなその言い方に、リアは気持ち悪さからくる震えが止まった。
そして背中からそっとメラの肩に手を置いた。
「リア様」
「大丈夫だよ。庇ってくれてありがとう」
メラの礼を言うと、リアはジャファルの前に立った。
「仕事をしているのは、私の趣味のようなものです」
「趣味?はは、仕事が趣味なのか!」
「そうです。動いていた方が調子が良いので」
ジャファルはさらに馬鹿にしたような態度を取ろうとしたが、リアと目が合って舌打ちをした。
「つまらん女だな。もっと着飾って媚びてこれば、まだ可愛げもあるだろうに」
「あなたに媚びても、いいことはなさそうですよね」
「はぁ?」
「え?何かいいことがあるんですか?」
こくりと首を傾げたリアに、ジャファルは顔を歪めた。
けれど、リアは本気でこの男に媚びる意味を見いだせなかった。
だって、同じ殿下と呼ばれる存在でも、ファイサルはリアに気を遣ってくれていてそれなりに自由にさせてくれている。でも、絶対ジャファルはリアのことなど気にもせずに自分のやりたいようにやって、リアの自由を奪うだろう。
雁字搦めにされても嬉しくないリアとしては、こういう、所謂オレ様系は嫌いだ。
一方通行の想いだけをぶつけてくる男に興味はない。
「リア!」
大声で名前を呼ばれたので振り向くと、ファイサルがすごい勢いで走って来た。
「ファイサル様」
「ジャファル兄上!勝手に入らないで下さい!」
リアを背中に庇うと、ファイサルはジャファルを睨み付けた。
「はッ!兄として弟が連れ込んだ女の確認をしにきただけだ」
「ならもう十分でしょう」
「お前、ずいぶんその女に誑かされてんな」
「失礼なことを言わないでください。リアはそんな人ではありませんよ。兄上こそ、お気に入りの踊り子たちに騙されないように気を付けてください」
「はいはい。お前の女より、あいつらの方がよっぽど可愛い」
「でしたら、リアにちょっかいをかけるのは止めてください。放っておいてください」
「はいはい。口うるさいなー、お前、イスハークに似てきたな」
「イスハーク兄上に似てきたのなら光栄ですよ」
「あんな陰険野郎のどこがいいんだよ」
興味を失ったのか、ジャファルは不機嫌そうな様子を隠しもせず、そのまま帰って行った。
完全にジャファルの姿が見えなくなってから、ファイサルはほっと息を吐いた。
「大丈夫だったか?リア」
「はい。ファイサル様、あの方は?」
「二の兄上だ。と言っても異母兄でね。昔っから一の兄上に懐いている俺たちのことが気にいらない人なんだ。俺のとばっちりを受けてしまったな、すまない」
「いいえ、ファイサル様は悪くありませんよ」
「もしジャファル兄上が何か言ってきたら、すぐに俺に教えてくれ。あの様子だとリアのことはもう興味を失ったと思うんだけど、あの人の行動はよく分からないから」
「はい」
返事をしながら、リアは何だか嫌な予感がしていたのだった。




