私と友達
遅くなってごめんなさい!
13
朝、目覚めると少年がそこに居る。
今まで考えられなかった光景。安心感。
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数日前に街で出会った少年はどこか不思議な雰囲気を持っていた。
その街で少年は私の住処としている酒場で、大人に囲まれていた。
私はそれを見た瞬間、少年の前に飛び出した。私はあるスキルを身につけている。下克上という名のスキルだ。弱者を強者がいじめている姿を見ると、自然と弱者につき、強者に立ち向かってしまう。まあ、その瞬間自分の勇気が10倍になると思っていただけたらいい。使えないスキルだという奴もいるだろうが、私は満足だった。私を見て「動くゴミがいるぞ!」と罵った奴はそいつの耳を噛んでやったし、「ネズミちゃん、このパンあげるからこっちに来て」と、私を下に見た奴はそいつの持っていたグラスをひっくり返してやった。非力なハムスターには充分過ぎるスキルである。
「わあ、何すんだよバカ〜。もうちょっとだったのに〜。」
私が前に出ると少年はこう言った。
私は思わず目を見開いた。しかし、体は反応してしまう。私は前にいる大柄のリーダーらしき男の顔に張り付き、鼻を噛んだ。男の手が顔に来る前に、隣の奴の耳に齧り付く。
「わ、わぁ」
情けない声をあげたそいつは持っていたグラス手放し、さっき鼻を噛んでやった男に酒をぶっかけた。
「何してくれトンジャーーー!俺の一張羅どうしてくれるんじゃーーー!」
かけられた男が大声で叫んだ瞬間、私は何者かに捕まえられた。
しまった!私としたことが。人生の終わりを感じた。何者かは私をポケットらしきものの中に入れた。ガタガタと揺れて痛い。必死に出ようと、外に頭を出すと、ほおに冷たい風があたる。地上が揺れている。私は現状を理解できずに、見上げると、そこには先程の少年の顔があった。
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裏路地に走って入った少年は、周囲を警戒していた。
辺りに誰もおらず、追っても通り過ぎたことを確認すると、その場に座り込む。
私をポケットから取り出して、自分の立てている膝の前に置いた。
「あははは、あははははは、あ〜面白かった。あはは。」
何が面白いのだろうか。しばらく少年は笑っていた。私はというと、そんな少年をただ呆然と彼を見つめるばかりである。
「疲れた〜。こんなに走ったの久々だよ〜。
あ、そうだ君、僕の出番奪わないでよね。せっかくいい作戦思いついたのにさ〜。まっ、いっか!」
君?誰であろうか。敵が周囲にいないことは先程確認済みである。私は辺りを見回してみる。
「何しらばっくれようとしてんの?君に言ってるんだよ?下克上使いのハムスターさん。」
少年は急にわざとらしく微笑み、声のトーンを落としてそう言った。
この時の私の驚きったら無いと思う。自分のスキルがバレたことは初めてであったし、しかしそれよりも、少年は私のことを、君、と呼んだのだ。
初めてだった。誰かから対等な立場で話されたのは。
初めてだった。
そうだ、私は初めてだったんだ。
あいつとか、ネズミちゃんとか、ネズミ野郎とか、ゴミとか、そんなんじゃなくて。
親の顔なんて知らない。友人もいない。
物心ついた時から私は一人だった。
同族であるハムスターはもちろん時々会うネズミや、ヤモリはみんな私を気味悪がった。自分より強者に向かって行く私を見て、巻き込まれたくないと何処かへ行ってしまう。
出会った人間はみんな私を下に見た。それでも良いと思っていた。仕返しできて、私は満足だった。
そう、満足で、こんなスキル持ってるなんて幸せ者で、、、私は、、。
気づいてしまった。これまで突き続けてきた嘘に。
本当は、、、
凄く、、寂しかったんだ。
私は、私は、、、何で、。
そっと誰かが私の頭に手を置いて、撫でた。
「そんな顔すんなよ。冗談だって。
あのさ、えっと、その、、、守ってくれて、ありがと。」
俯きがちに少年は言った。耳が赤くなっている。少年が本心で言ってくれたことは容易に理解できた。
私は素直に嬉しかった。私の今まで抱えてきたスキルに対する負の感情がなくなったように感じた。
「ね、僕と友達になろうよ」
さっきの悪そうな顔でなく、無邪気な笑顔を向けて少年は言った。
* *
私は少年が好きだ。ちょっと童顔で、無地の茶色いポンチョいつも羽織って、癖毛なのに寝癖を気にしてるところが。会話はできないのに話しかけてくれるところが。私を友達だと言ってくれるところが。
一緒いると心地いいんだ。
私の初めて出来た友達だから。




