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第二十二話:エンド・オブ・アメリカンキングダム

岩原は、宋からトロワ族の娘を奪い返して形勢逆転したかに見えたが、少しの油断を見せたすきに再び宋の仲間に奪い返され、娘を助けるか国民を助けるかの二択を迫られていた。



 宋は、悔しそうにふるまう岩原を見て優越感に浸っていた。

 

 「宋、俺の負けだ・・・。」


 宋は、自分の耳を疑った。聞き間違いの可能性もあるため、もう一度言うように指示した。


 「完全に俺の負けだよ。俺は、人質の方を選ぶよ。」


 宋はニイッと笑って、岩原の判断をほめたたえた。


 「素晴らしいよ!君は宇宙人より、故郷の星の住民を選ぶんだね!最高にいい判断だよ!」


 「そりゃどうも。」


 トロワ族の娘は、絶望と悲しさで半べそを掻いていた。だが、そんな悲しみに打ちひしがれる彼女に追い打ちをかけるかのように岩原は、とんでもないことを宋に提案した。


 「そこで、降伏の白旗代わりといっちゃなんだが、俺にあの娘を射殺させてくれないか?」


 「そ、そんな・・・日本人のあなたならと信じてたのに・・・。」


 トロワ族の娘は、いままでためてきた感情が岩原の突き放すかのような言葉で勢いよくあふれ出してきた。


 「黙って天高く飛べ。実際、俺も恨みがあるからな。」


 トロワ族の娘はひとしきり泣いた後、岩原をキッとにらみつけた。だが、岩原の目は何か別の目的があるかのような目をしていた。


 「宋、すまないがカメラを貸してくれないか?」


 「ええ、いいわよ。」


 岩原は、宋がカメラを設置したのを確認すると、今度は娘を捕まえている大男に向かって彼が装備しているしびれ銃を要求してきた。


 「よろしいのですか?宋同志。」


 「構わないわ。もう彼も我々の同志ですもの。」


 宋は油断しきっているのか、鞄から少し離れたところで腕を組んで待機していた。


 そして、カメラのスイッチを入れた岩原は目一杯の悪人顔で自分の拳銃と大男のしびれ銃をちらつかせて状況を解説した。


 「やあ、こんにちは親愛なる地球人のみなさん。私は岩原治でーっす。今日から私は、自由警察署長をやめて宇宙人ぶっ殺し隊の隊長になりまーす。今から、このやかましい小娘をこの二丁の拳銃でじわじわと殺していきたいと思いまーすぁ!」


 トロワの娘は、先程よりももっと苦痛に歪んだ顔で岩原に抗議した。


 「お願いもうやめてください。岩原さん・・・。どうしてこんなことをするの・・・?」


 その様子は、踊通部やニヤニヤ動画で瞬く間に拡散していった。


 もちろん、木暮や大金も各々の携帯電話や卓上個人計算機でこの動画を視聴していた。


 「あのボケ何やっとるんだ!?共産主義者の味方なんかになりおって!!」


 正義感が強い木暮は、岩原の裏切り行為に憤慨していた。


 「でも、木暮さん。岩原さんは彼なりに考えがあるかもしれないですよ。」


 大金がなだめても木暮の怒りは収まる気配を見せなかった。


 風呂上がりでバスタオルとパンツだけのあられもない姿になっているアーシャも、缶コーヒー片手に携帯で動画を視聴しており、この岩原の不可解な行動に首をかしげていた。


 「岩原さん。助けるべき拉致被害者を殺してどうするつもりなのかにゃ?・・・まさか。」


 その頃廃墟では、死へのカウントダウンが始まっていた。


 「いいか、娘さんよ・・・もう一度だけ言うぜ。俺が拳銃を撃ったら、空高く飛んでいけ・・・。」


 その意図をくんだトロワ族の娘は涙目になっている目を静かに閉じた。


 「再見さようなら。」


 そう言うと岩原は、しびれ銃を娘ではなく宋の右胸にめがけて放った。それと同時に、自分が元から所持している拳銃を娘に向かって放った。


 次の瞬間、トロワ族の娘は勢いよく上へとジャンプした。


 そして、娘に向かって放たれた弾丸は大男の股間に命中した。


「ンンッ・・・マ゜ッ!あ“ッ!↑」


 大男は、血まみれになった股間を抑えつけてのたうち回った後、泡を吹いてショック死した。


 あとで聞いた話だが、この瞬間に股間を抑えて気絶した男性視聴者が続出したという。


 その頃、一部始終を見ていた木暮たちは歓喜に沸いた。

 

 「さすがは岩原君だ!我々をも欺くとはさすがだよ。ハハハハ!!」


 木暮は、自分たちをも出し抜いた岩原の頭脳にただ感心するしかなかった。


 「よし、大金君!我々も金門橋へ向かうぞ!岩原君のように善良な市民を一人でも多くを救い出すのだ!」


 「ハイ!」


 「あ・・・カハッ・・・ゲホッ。」


 宋は、右の肺をしびれで動けなくされたため床をはいずりながら、鞄の元へ向かっていった。


 岩原は、そのすきを見て呆然と立ち尽くすトロワ族の娘を片手でお姫様抱っこして、ダッシュで鞄を奪い取り、そのまま窓を突き破って落下した。


 「え?ちょっ、待ッ、キャアアアア!!」


 岩原は、背中で駐車していた彼らの車に着地すると彼女を抱えたまま全速力でその場から逃走した。


 宋は、激痛に耐えながらも、今までの一部始終をぼーっと突っ立ってみているだけの一人残った浮浪者に命令した。


 「何ぼーっとしてるの!?早く仲間を呼んで追いかけなさい!!」


 「ハ、ハッ!了解です我が同志!!」


 我に返った男性は、慌てて携帯を片手にどこかへ指示を出した。


 「宋同志の命令だ!今すぐ娘を抱えたパワードスーツの男を追え!!」


 その頃、岩原は木暮のところへ向かって全速力で走っていた。途中、何度か自動車と接触しそうになりながらも、それを間一髪でよけて走っていった。


 数か所目の交差点に差し掛かった時、信号待ちをしていたタクシー、バス、自動車を蹴散らして大きなトレーラートラックがこちらに迫ってきた。ちなみにトラックのドアにはあのダサい馬の絵が描かれていた。


 「なに、あれ?」


 「ラッキーホース派の大型牽引車だ!!」


 岩原が叫んだと同時に、トレーラの荷台部分のサイドが左右それぞれに作動して、中からミサイルの発射口と思わしき穴が何十個もあいた。


 「噴射式誘導弾が来るぞ!娘さん頭を伏せてしっかりつかまってください!」


 岩原は、ミサイルが発射すると同時にあらかじめ着弾する位置を予測して、数十発のミサイルを何度も体をひねって宙がえりをしてこれをすべてよけた。


 「すごい・・・。これが死神の弾丸の実力。」


 その頃トレーラの社内では、中国人の女性運転手が流れ弾によって宙を舞う車に注意しながらも、すべての弾をよける岩原に驚きを隠せないでいた。


 「あの男、なかなかやるじゃない。宋同志が苦戦したのもうなずけるわ。」


 「感心しとらんで早くやっつけんか!ボスが首を長くして待っておられるんだぞ!」


 隣で運転手に銃を突きつけて大声を張り上げるのは、ラッキーホース派のナンバー2である。


 「言葉に気をつけなさい。あなたたちのボスは、我が同志・・・蒋介岩殿の能力のおかげで競馬での賭けに連戦連勝したのだから。下手な真似をしたらあなたたちは、どうなるかわかっているでしょうね。」


 「グッ・・・。」


 彼は、そう言われてしまうとそれ以上強く出ることはできなかった。


 岩原は、右へ左へと狭い路地を走り抜けながらも、パワードスーツに内蔵されている通信機能を使って木暮に連絡をした。


 「木暮さん!聞こえてますか?どうぞ。」


 「いやはや・・・でかしたぞ岩原君!トロワ族の娘さんも爆破装置もまだ無事かね?どうぞ。」


 「ハイ!今、どこにいるんですか?どうぞ。」


 「金門橋の近くで、ほかの警察官とともにゴリラ人間と居座りを続けている連中の対処を検討中だ!どうぞ。」


 「わかった。俺もそっちに行く。終わり。」


 岩原は、道案内機能を作動させて金門橋に向かって走り出した。


 その直後、ひどい腹痛が彼を襲った。


 「いつつつ・・・・。」


 あまりの痛さに、岩原はうずくまってしまった。


 「どうしたのですか?」


 「わりい・・・こんな時に腹痛が・・・さっき背中を二回も打ったから腸が刺激されたっぽい・・・。」


 「心配しないで。私も、腹痛持ちだから気持ちは解るわ。えーっとたしか・・・。」


 そういいながら娘は、セーラー服によく似た国民服の上着のポケットを探った。


 「あったわ!これを飲んで。」


 「こ、これは?」


 娘の手には小さな瓶があり、中に白い錠剤が十粒ほど入っていた。


 「パパには内緒にしておいて。市販の医薬品に頼らない体にしろとか言われていて、腹痛の時も飲ませてくれないの。医薬品店で売られていたお腹の調整剤と似たものがパパの研究所に置いてあったから、こっそり持ってきちゃった。」


 宇宙人からもらった得体のしれない薬だったが、腹痛の岩原にとっては疑うなどの判断力はすでになく、二つ返事で秘密にすることを承諾して一粒飲んだ。


 すると、みるみるうちに腹痛が収まり青白かった顔が通常通りの薄橙色に戻った。


 「ありがとう。よーし!金門橋までもうすぐだ。しっかりつかまってくださいね!」


 元気になった岩原は、娘を今度は背中に乗せて再び金門橋に向かって走り始めた。


 娘は、振り落とされないように岩原の肩をしっかりとつかんだ。


 しばらく行くと、ショートカットしてきたのか、またあのトレーラートラックが追いかけてきた。

 

 「しつこいわね・・・でも、このスピードであれば大丈夫ですわ!」


 この発言がフラグとなったのか、急にまた岩原がうずくまり始めた。


 「え?ちょっと・・・どうしたの?」


 岩原の顔を覗き込むと、先程よりも顔が青白くなって脂汗も出ていた。


 「や、やばい・・・今度は・・・でそう。」


 一瞬、二人の間に沈黙が流れた。


 「ハアー!?え?ちょっと待って!あの薬は地球時間で二十四時間も続くのよ!地球人でもかなりの効果があるって・・・。」


 そういいながら、娘は必死にコンビニを探したが運の悪いことに、岩原がうずくまった場所にはコンビニが一件もなかった。


 「悪いが、娘さん・・・ちょっと前を向いたままにしてもらえるかな?腸の中であれが増え続けているような感触がしてもう我慢できねえんだ。」


 若干早口で話す岩原の顔は、すでに顔面蒼白を超えておしろいを塗ったかのごとく真っ白になっており、目は焦点が合っておらず、薬物でもやったかのような状態になっていた。


 娘は何をしたいのかを察し、顔を赤くして言われるがまま岩原の背中から降りて彼の姿が視界に入らないようにした。


 岩原は、トレーラートラックに尻を向けると目にもとまらぬスピードでパワードスーツを脱いで、ズボンと下着を下ろしてしゃがんだ。


 「あいつ何やってるんだ?観念したにしては行動がおかしすぎる。」


 「ふざけた日本人ね。ミサイルで尻の穴ごと木っ端みじんにしてやるわ!」


 彼女が、ハンドルについているボタンと岩原があれを発射するのはほぼ同時だった。


 運・岩「ファイヤー!!!!!!」


 ブリブリブリというものすごい音とともに岩原の肛門から、勢いよく茶色の臭い物体が飛び出してきた。だが、それは排出されてもなおモリモリモリという音ともにどんどん巨大化してトレーラートラックに迫ってきた。


 ちなみにミサイルは、その中に埋もれて爆発したのか少しばかり茶色い物体が盛り上がった後、そこからまた体積を増やしていった。


 「おい!バックしてくれ!私は、汚物に埋もれて死ぬのはごめんだぞ!」


 「私だっていやよ!でもトレーラートラックだからバックできないのよー!!!!」


 哀れ、二人は言い合っているうちにトラックごと埋もれてしまった。


 娘は、後ろから聞こえてくる悲鳴があまりにも大きかったので、思わず後ろを振り向いた。


すると、そこには物体を排出しきって気絶した岩原にその物体がこちらに向かって体積を増やしながら迫ってくる光景があった。


とにかくここから逃げないとまずいと感じた娘は、岩原が奪い取った爆破装置入りのかばんを持ち、今度は自分が岩原をしょって市街地を走り抜けた。


その間にも茶色い物体は、隙間を埋め尽くさん勢いで細い路地や大通りを埋め尽くしていった。


その頃、現場近くの小売店では皇狗おうく族の男性客と朝鮮人店員が言い争っていた。


争いの原因は、やはり地球人と宇宙人の文化の違いであろうか。皇狗族の男性は、体臭がきつければきついほど女性に好かれやすく、より臭いのきつい香臭を求めることが多い。そこでアメリカ王国政府は、宗主国である神聖日本皇国に先立ち、皇狗族専用の香臭も販売するよう家族市場や、三星、七人の侍、老孫などの大手小売店に呼びかけそれに対する偏見もなくそうとしているのだが、どうもニオイばかりは一部の地球人には我慢ならないらしい。


皇狗「なんだと!?おまえ・・・宇宙人を差別しようってのか?」


朝鮮人「ああ、そうさ。お前みたいな腐った豚のにおいがする奴はクソにまみれた方が御似合いさね。」


その時、入口の方からガラスの割れる音と女性客の黄色い悲鳴がしたので二人は声のした方へ振り向くと、茶色い物体が勢いよく自分たちに迫ってきたのが見えた。


皇・朝「クソがアアアアアア!!!!」


・・・こんな具合に、体積を増やし続ける茶色い物体は無差別に自動車、トラック、バス、商店、そして場所によってはビルの三階までも飲み込んでいった。


さて、この化け物を生み出してしまった一人のトロワ族の娘は、道路の上に設置されている青地に白い文字で書かれた看板を頼りに金門橋へ走っていった。


「お願い!岩原さん起きて―!」


願いが通じたのか、うめき声をあげながら岩原は目覚めた。

「あ、あれ?ここは?」


「よかった・・・。今、金門橋に向かって走っています。・・・あの・・・心配いりませんから・・・そんなあられもない姿になってしまったのは私のせいですから・・・。」


岩原は、自分が目覚めてすぐ訳の分からないことを言いながら自分を担いで走る娘に違和感を覚えた。


意識がはっきりしてくると、なぜか下半身がスース―していたので思わず下を見ると、下半身が丸裸の状態でうら若き乙女の背中に乗っていることに気が付いた。


「ええっと・・・あの・・・その・・・私の方こそ迷惑をかけてしまって申し訳ない。」


それ以降、二人は顔を真っ赤にしたまま黙りこくってしまった。


岩原は、この沈黙をどうにかしようと気になっていたことを話した。


「と、ところであの薬は、本当は何の薬だったのかね?」


「ええーっと・・・。」


そういいながら娘は、瓶の文字をよく見てみるとエゲロス語で物質増量剤と書かれていた。


「ごめんなさい・・・どうやら間違えて物質を増やす薬を飲ませちゃったみたい。」


「まあ、過ぎてしまったのはしょうがない。それより、その薬は何時間で切れるんだ?」


 「たしか・・・あった!地球時間で十二時間です。」


 「まいったな、その時間まで君が私をしょって逃げるなんてできないしな・・・。」


 その時、運よく小売店の前で休憩をしていたタクシーが止まっていた。


 コンコンコン・・・。


 「ふあい?」


 運転手は、眠い目をこすって窓の方を見ると、ポニーテールの眉目秀麗な女性が坊主頭の男性をしょって慌てた様子で窓を叩いていた。


「あーい。今開けまーす。」


鼻の下が伸びるのを何とかこらえながらも、運転手は後部座席の自動ドアを作動させた。


「お嬢さん・・・デートでトラブルですかい?彼氏が病気ならば近くの病院を知ってますぜ。」


そういって岩原の方を見た瞬間に、運転手は凍り付いた。なぜなら、下に穿くべきものを一切穿いていなかったのである。


「あの、これは違うんです。彼は宇宙人でして・・・その・・・下に着物を穿くとアレルギー反応を起こしてしまうそうなんです。」


 運転手は、顔を引きつらせながらなるべく岩原の粗末なソーセージを見ないように彼女に話しかけた。


「あ、ああ、はいそうですか・・・だいぶ変わった・・・いや、珍しい特性をお持ちのようでアハハハ・・・ん?」


彼は、そこでボンネットについているドアミラーを見て、後ろから茶色い巨大な物体が迫っていることに気が付いた。


「ぬわんじゃああありゃあああ!!!」


「私たちは、ある事情であれから逃げているんです。早く出して!」


「わ、分かりやした!」


運転手は、飲み込まれまいと勢いよくアクセルを踏んでタクシーを急発進させた。


幸いなことに、すでに警察が避難命令を出していたのか道路はガラ隙だった。


『安全革帯をおしめください。』


「言われなくてもわかってるわよ!」


娘は、よっぽど焦っているのかしつこく放送する自動アナウンスにツッコミをしながら革帯をしめた。それを見て岩原も慌てて革帯をしめた。


「・・・で、お客さんたちはどこに行くのかね?」


「金門橋までお願いします!」


「はいよ!」


迫ってきているとは言っても、しょせん速さは子供が走るスピードとほぼ同じであるため、難なく引き離すことに成功した。


だが、一難去ってまた一難とはまさにこのこと。なかなか吉報をよこさない部下にしびれを切らしたのか、ラッキーホース派のボスが直々に黄金色のヘリコプターで岩原たちを追いかけてきたのだ。


「ぶっぱなせ!!」


ボスは、けばけばしさあふれる金銀宝石がちりばめられた装飾品をチャラつかせながら、操縦席に身を乗り出して操縦士に早く攻撃するようにせかした。


「りょ、了解!」


バシューという音ともにこれまた黄金のミサイルがタクシーに迫ってきた。


「うわあああ!!」


だが、岩原は慌てふためく運転手をよそに、ミサイルが爆発しやすい箇所を選んで拳銃を数発撃った。すると、見ごとに命中してミサイルは爆発四散した。


「ば、ばかな・・・ミサイルが拳銃数発で爆発しただと!?」


ボスは、ならばと自らヘリコプターのドアを開けて、青白い光スリットが入った機関銃を取り出した。


「ファッキューメーーーーーン!!」


ズジョドドドド!!


青白い球がすごい勢いで連射され、弾が当たったところはあまりの高温で溶けていった。


タクシーは右へ左へとよけていったが、あともう少しで金門橋というところで右後輪付近に弾が当たって爆発し、その爆風で勢いよく横転してそのまま五、六回転くらい転がって止まった。


「いてて・・・おいみんな無事か?」


「何とか生きてるわ・・・。」


「ガラスで手を切りましたが何とか無事です。」


岩原と運転手は、壊れて開かなくなったドアをけ破って脱出した。


岩原は、体のあちこちに傷ができており、下を穿いていなかったため太ももにはおびただしいほどの流血が確認できた。


「娘さん・・・手を・・・。」


「ありがとう。」


外に出てみると、タクシーはひっくり返ってガラスがところどころ割れて、フレームも曲がっており、タイヤも右後輪がどこかに吹き飛んでしまっていてとてもすぐには走れそうになかった。


「タクシー・・・後で弁償しますよ。」


「いや、良いんですよ。こういう刺激的なこと滅多にありませんから。」


三人でクスクス笑いあっていると、上空を飛ぶ黄金のヘリコプターから汚らしいおっさんのダミ声が大音量で流れてきた。


「満足か・・・?なら、死ね!!」


その時、趣味が悪い金色のヘリコプターに何者かが攻撃を仕掛けてきた。


ヘリコプターは、その攻撃で尾翼をもがれて回転しながら茶色い物体の海へ落下していった。


岩原「だ、誰だ?」


すると、光学迷彩機能を使って隠れていたのか、チュチュの形をした銀色のいかにも宇宙船らしいフォルムをした飛行物体がいきなり現れた。


「お父様の船だわ!!」


「なんだって?」


「我が娘よ!!無事か!?」


「私は、大丈夫!!」


「そうか!それを聞いて安心したよ!今、三人とも引き上げるから少し待ってくれ!!」


そう言うと、その船は黄色い光を三人がすっぽり覆うほどに範囲を広げた。すると、同時に三人とガラクタとなったタクシーが宇宙船に吸い込まれていった。


岩原とタクシーの運ちゃんは、何が起きたかわからず呆然としていた。


指令室と思わしき場所の入口のドアが開くとそこには、あの写真(第八話で木暮が岩原に見せたもの)で見た男性そっくりの男が仁王立ちで出迎えた。だが、写真の姿まんまなので、ポーズがより滑稽に見えてしまっている。


「よく救出してくれた岩原君、早速で悪いが娘二人と話をしたいのだがいいかね?」


「あ、ハイ。」


ナンバー2はそう言うと、娘を手招きで呼び寄せ拳骨を一発喰らわせた。


「いったーい!!!ちょっと何するのお父さん!!」


そこから親子のエゲロス語での口喧嘩が始まった。


「じゃかましい!!あれほど薬に頼るなといったはずだゾ!こっそり私の書斎から薬を盗みおって!!」


「え?でも、そんなことどこで知ったのよ?」


岩原殿かれには申し訳ないが、パワードスーツに搭載されている通話機能をハッキングして盗み聞きしたのだよ。」


「ずるーい!」


「だまれ!ぶりっこしても私には効かんぞ!」


しばらく、口論が続いていたがようやく娘の方が折れたのか、涙目になりながら自分の部屋へと戻っていった。


「見苦しいところを見せてすまない。」


「い、いえいえ。」


「娘には、お前が悪いの一点張りだったが、正直に言うと私も強引過ぎたのが悪かった。」


「イーグルに連れ去られた日に、娘さんに何があったのですか?」


「実は、娘が腹痛に見舞われてしまってな。その時に強引に王立大学病院で診てもらおうとしたら、金門橋公園でケンカをしてしまって・・・もうお前なんぞ知らぬとほったらかしてたら、いつの間にかいなくなってしまってこの騒ぎになってしまったのだ。」


「何か、私達にできることがあれば・・・。」


岩原の言葉を制止してナンバー2は続けた。


「それは、私のセリフだ。今まで、上空で観察していたのだが、どうやら岩原殿は金門橋に用があるらしいな。」


「あ、ハイ。」


「ならば、そこまで送っていってあげよう。・・・目標!金門橋!全速力で向かうぞ!」


了解オチャ副艦長コヤーヨ!」


「それと、岩原殿。」


「なんでしょう?」


「下を穿いてないのなら貸しましょうか?」


岩原は、『まさか内心バカにしていた服装をまさか自分が着ることになるとは』と思っていたが、そんな自分への罰だと思ってお願いした。


ナンバー2は、岩原がトロワ族の衣装を着用するのを見届けると、今度は部下にエゲロス語で何か指示をしていた。


「ほら、君たちぼーっとみとらんで戦闘員は目的地の設定!武器弾薬班は、対ゴリラ人間用の麻酔銃を持ってこい!」


了解オチャ!」


そう言うと、船員たちはあわただしく動き出し、操縦席のようなものに座っているものは大きな画面に地図を表示させて目的地を設定している。それ以外の船員たちは、麻酔銃のようなものにエゲロス語で書かれた箱から取り出した注射器の形をした何かを手に取って装填した。恐らくあれがゴリラ人間用の麻酔銃だろう。


「それにしても、かなりの種類の麻酔銃があるんですね。」


「ああ、君はうちらがエゲロス皇国の衛星国であることは知っているだろ?」


「ハイ。」


「だから、うちらは基本的にエゲロス皇国から認められた武器しか使えないのさ。」


「なるほど。」


「だから、使用許可なしで持つことができる麻酔銃だけは大量に作っていいことになっていて、気が付いたから麻酔銃専門店というあだ名がつくぐらい麻酔銃に関しては種類や数が豊富にそろうようになったのさ。」


船員の説明にうなずいていると、彼の後ろに近づくものがいた。ナンバー2だ。


「君は、彼に長々と説明できるほど暇なのかね?」


「い、いえ・・・決してそういうわけでは・・・失礼いたしました!!」


ナンバー2は、足早に去っていく部下を見てため息をついた。


「ところで副艦長殿。艦長はどこにいます?挨拶をしたいのですが。」


「岩原君、実は艦長ヤーヨも寄る年波でな。今は、うちらの母艦の病院で療養中であるため私が艦長代理なのだよ。」


「もう一つ質問良いですか?なぜ、先程まで日本人を憎んでいたのにあっさりと私を救出してくれたのですか?」


それを聞くと、何がおかしかったのか急にナンバー2と船員たちはガハハと笑いだした。


「何を聞くかと思えば、困っているものを救うのは当たり前じゃないか?それに、あんなチュウゴク人とやらの子供だましの映像で我々が騙されると思ったのかね?」


「え?じゃあ・・・もしかしてあれは演技だったのですか?」


「無論だ!馬鹿にされたようでむかついたから、みんなで一芝居打ってやったのさ!!ハハハ!」


しばらく笑った後、彼はニヤッと笑って岩原の肩を叩いた。


「だが、お前さんのチュウゴク人を倒す前の演技もなかなかのものだったぞ。」


「ハ、ハア・・・。」


副館長コヤーヨ!岩原殿。もうすぐ金門橋につきます!」


ナンバー2は、船員たちの方を振り向くと叫んだ。


「お前たち、麻酔銃の準備はできたかね?」


船「ハイ(アイ)!!副館長コヤーヨ!!」


「では、爆弾処理班は岩原君の持っている爆弾の解析に取り掛かれ!武器弾薬班は、戦闘員に麻酔銃を渡せ!それ以外の船員は待機せよ!」


船「ハイ(アイ)!!副館長コヤーヨ!!」


その頃、金門橋では警察官と市民団体とのにらみ合いが続いていた。


「岩原にはああいったものの全く進展がない・・・いったいどうすれば・・・。」


木暮が膠着状態になっている状況にいら立ちを見せ始めた時、大金は何かを見つけたようで一方向を指さして木暮の肩を叩いた。


「木暮さん!木暮さん!」


「うるさいな!少し黙ってろ!」


「いえ、でも上空に宇宙船が現れました。」


「なに?」


木暮が大金の指さす方へ目を向けると、そこには少しずつ光学迷彩を解き始めた宇宙船がゆっくりと降りてきた。


「なんだあれは・・・。」


市民団体もが呆然と見守る中、現場に居合わせていた東条は、隣にいた警官の拡声器を取り上げると宇宙船に向かって大声を張り上げた。


「あーあー。こちらはただいまお取込み中だ!部外者は回れ右してくださいどうぞォ!!」


すると、宇宙船から木暮や東条たちにとって聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「じゃあ、その部外者が中国人に連れ去られた宇宙人の娘を取り返して来たら何と答えますか?どうぞォ!!」


この言葉を聞いて警察官は歓喜の声を上げ、一部の警官たちに至っては万歳三唱を行った。


市民団体の連中は、中国人というフレーズを聞いてざわつく者もいた。


東条は、フッっと笑って再び拡声器を使って叫んだ。


「では、その英雄とその仲間たちは速やかに降りてきてください!どうぞォ!!」


了解オチャ!終わり(メコンダリャ)!!」


宇宙船は、下部から細い金属製の棒のようなものを出現させて着陸した。そして、下部中央付近から床の一部が丸く線が入りそこから岩原がスーッと床と一緒に降りてきた。


「やりましたよ木暮さん!」


岩原は、テンションが上がっているのか民族衣装を着ているのを忘れて木暮のところに駆け寄ってきた。


おかげで、ちょっとクスクスという笑い声が聞こえてきたり・・・。


「い、岩原君。なぜトロワ民族の衣装を着ているのかね?」


正直に言うと、さらにこの場が変な空気になりかねないので、適当にトロワ族の衣装も着てみたかったことにした。事情を察した木暮は、岩原に合わせることにした。


「娘さんが見当たらないのだが、どこにいるのかね?」


「あそこです。」


娘は父親とケンカした後だったため、涙目になりながらも船から降りてきて、木暮と目が合うとかわいらしく日本式のお辞儀をした。


「かわいそうに。さぞ、誘拐されたのがショックだったのだろうね・・・。」


「え?いや・・・まあ・・・そんなところです。」


岩原は、一つ咳ばらいをすると両手を広げた。


「木暮さん!何も連れてきたのは彼女だけじゃありません。出てきてください!自称市民団体撲滅軍のみなさーん!!」


岩原が指パッチンをすると、ぞろぞろと銃を構えたトロワ民族国軍がでてきて市民団体に銃を向けた。


「東条さん。お後どうぞ。」


「どうも・・・あ、あー自称市民団体の共産主義者コミュニストどもに告げるぅ・・・今から降伏すれば命だけは助けてやらなくもなくもない!」


市1「いや、どっちなんだ売国奴め!」


「売国奴は貴様らだテロリストどもォ!!!!降伏するか、戦うかどっちか選べぇい!」


市2「だったら俺たちは戦うぜ!!たとえ俺一人だけになってもな!!」


市全「そうだそうだ!売国奴は国が食い物にされる夢を見ながらねんねしな!!」


「その言葉、そっくりそのまま返すぜ!坊やたち・・・悪い子だからねんねしな。」


東条が、手で合図を送ると同時にトロワ族軍は、麻酔銃を市民団体に向けて次々と発砲した。その結果、一人また一人と次々と打たれた後に来る急激な眠りに耐え切れずバタバタと倒れていき、最後には市民団体全員が眠りについて、あたりは静寂に包まれた。


「よっしゃ!胸がスーッとしたぜ!」


大金は、唖然とする木暮に話しかけた。


「これで、いくらでも言い訳できますね。」


「ああ、岩原君にまた助けられてしまったな。」


その静寂を割くかのように、金門橋で人質にされていた人たちが歓喜の声を挙げながらどっと押し寄せてきた。


警官1「押さないでください!慌てずに落ち着いて列を作って橋から避難してください!」


第三課課長「我々第三課は、速やかに眠っている市民団体を回収し、第一課に回すように!」


「ハイ!!」


「グワオオオオ!!!!」


突然、ゴリラの威嚇のような叫び声がしたので皆ビックリして声の方を向くと、通りの先の方から例のゴリラ人間がすごい形相でこちらに迫ってきた。


警官2「ゴリラ人間が来るぞ!!全員、近くの建物に避難してください!!」


「ワー!助けてぇえええ!!」「キャアアアア食べられたくないィ!!」


だが、その事態を予想していたので、トロワ民族国軍は照準を橋の方からゴリラ人間の方へ向けて、今度はエゲロス語でゴリラ人間用と書かれた注射器を装填して銃を放った。


すると、打たれたゴリラ人間、もとい、森男の顔はみるみるうちに眠気を催した顔になり、最終的にものすごい地響きをたてながら倒れた。


木暮は、岩原のおかげであまりにスムーズに事が運ぶので、乾いた笑いを大金に見せながら言った。


「こりゃあ、岩原君の方に頭を向けて眠れんな。ハハハ。」


「爆弾の件も何事もなければ、もうレディパーフェクトリーですね。」


その頃、爆弾処理班はこの爆弾がある特定の順番で銅線を切れば解除できる爆弾だったため、慎重に爆弾の銅線を切っていた。


ナンバー10「よーし・・・頼むぞ・・・後、二本だ。」


ナンバー11「赤を切れば爆発、青を切れば解除できますからね。」


ナンバー10「わかってるよ。ん?」


その時、悲しいかな。こんな時に限ってナンバー10の鼻に比較的大きな埃が入ってきた。


ナンバー10「ウイックシッ!!!」


プチン!!


なんと、くしゃみの衝撃で間違った方を切ってしまったのだ。


二人が固まっていると、中国語でカウントダウンが始まった。


『残念でした。爆発まであと10秒・・・十、九、・・・』


二人は急いで指令室の方へ向かうと、船員からマイクを奪い取り大声を張り上げて船外にいるものに知らせた。


「失敗した―っ!!橋があと五秒で爆発するぞ!!!!」


橋に残っていた数名の警官たちは慌てて橋から離れた。


警官3「みなさん!!危ないですから橋から離れてください!!!」


『三、ニ、一・・・再見。』


ボガアアアアアン!!という耳をつんざくような爆発音とともに、橋がギギギと音を立てて崩れ始めた。


佐倉艦長「退避!!退避!!」


戦艦陸奥改二は、運の悪いことにその時ちょうど三番砲塔の真上に橋があったため、落下してきた橋の部品が砲塔に直撃して大爆発を起こしてしまった。


「陸奥が・・・敬礼っ!!!」


難を逃れた戦艦長門改二の艦長は、船員たちと甲板までおもむいて敬礼の合図をした後、大破した陸奥改二の船員の救助活動を行った。






その後、ラッキーホース派のボスと自称市民団体は逮捕され、事件は民間人に多数の被害者を出しながらも解決した。だが、岩原は今回の事件で起きた損害の責任をすべて負って、今まで黙認されてきた警察官との協力体制を解くことをすべての情報媒体で発表して裏社会へと消えていった。


だが、みんなの記憶には宇宙人を救った英雄としての岩原は永遠に残り続けるだろう。


作者「ま、下半身素っ裸だったりしたときの様子もばっちり動画配信されていたので、そっちの方が長く記憶に残り続けるでしょう。ちゃんちゃん♪」


岩原「いや、最後ので台無しいいいい!!!!!!!!」


作者「それでは、良い新年を!!」


~ 終わり ~

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