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神血のヴァルキュリヤ  作者: 和太鼓
9/20

九話 対策会議

「泰護さーん! トラさーん! こっちですよ〜!」

「すっかり元気やなぁ」

「錦さーん!」


池のほとりに立ち、白いワンピース姿でブンブンと手を振る錦。

錦は異常な速度で回復していた。

頭部に裂傷、脚には打撲、腹部のダメージは内臓にまで到達していたそうだが、一週間ほどで立てるようにまでなっていた。

一般には秘匿された医療技術のお陰であるのだが、やはり神の加護も大きいらしい。

もうすっかり包帯も取れている。

そんな錦の方に向かって庭園を二人で歩く。


「学校お疲れ様でした」

「ほんとに疲れたよ……」

「こいつなぁ、また数学の授業で怒られとったで」

「お前も怒られてたじゃねーか……期末テストまであと二週間あるからセーフ」

「俺もテストでしか本気出さんからええんや」

「トラさんって点数良いんですか?」

「こいつ、中間テストは数2が18点だったぞ」

「ああ!! なに勝手にバラしとんのや!」

「え!点数いいじゃないですか!」

「「え?」」

「3点負けました〜……」

「数1が15点……」


錦は秀才だと思っていたが違ったようだ。

もちろん百点満点のテストの話である。

二人の惨劇を聞きながら、ふっ……と鼻で笑い、やれやれと頭を振る。


「なんて次元の低い争いをしているんだ……呆れて物も言えないなぁ」

「数学、出来るんですか!?」


錦が目を輝かせる。

それを呆れた顔で見ながら寅次郎が一言。


「こいつ、4点だったぞ」

「……え?」











「さて、三人揃ったな」


場所を移してここは錦家の一室。

深刻な顔を突き合わせる。


「じゃあ各々(おのおの)の得意科目と苦手科目を挙げて行こう。まずは寅次郎」

「えっとなぁ、数学と英語、社会が苦手や。得意科目は……うーん保け……」

「じゃあ次は錦さん」


変態を切り捨て、次に移る。

名指しされた錦は少しあたふたと目を泳がせる。


「え、えと……苦手なのは、数学と社会です。あ、でも、英語はできます!理科は普通くらいです……」

「よし、まあ学年が違うからそこは考慮しないとな。俺は数英がまるっきりダメ!社会は得意で理科は普通くらいかな」

「おお! じゃあ社会教えてください!」

「俺にも俺にも!」

「まあまあ落ち着きたまえ諸君」


縋るような目の二人を押しとどめる。


「それ以上の大問題があるだろう? 得意な人がいない数学をどう攻略するかという大問題が」


それを聞いて二人の顔がさぁーーっと青ざめていく。


「ど、どど、どうしますか!?」

「どうするって……ど、どうすりゃいいんや!?」

「わっ、私に聞かれてもぉ〜……」

「おい! 泰護! なんかいい知り合いとかおらんのか?」

「二人こそ、友達とかいないのかよ」


質問に質問で返す僕に対し、ふいっと顔を背ける守世。


「まあ、おらんことはないけど、なんか教えてもらうって嫌やん?」

「なんだよそのプライド……錦さんは?」

「えとっ……なんというか……知り合いはいっぱいいるんですけど……勉強教えてもらえるような友達は……その……」

「あ、はい、すみませんでした」


なんかもう、色々と残念な三人組だなぁ、とため息をつく。


「よし、じゃあ、仕方ない。例のあの人を呼ぶか……」

「「あの人?」」

「ヒゲ親父だよ」


ピンとこない二人を放り出し、僕はSNSを開いた。










「で、私が呼ばれたのか」


モンブランを食べながら眉をひそめる上栄。


「緊急事態だっていうから急いできたのに……」

「どうかお助けを……! 文系の三人ではどうにもならなくて……」


身を乗り出す僕らを押しとどめながらこほんと咳をひとつ。


「まず、一つ。こんなことで私を呼び出すんじゃない。二つ。自分達でやれ。三つ目。私も文系だ」


取りつく島もない。


「で、でも、有名大学出身ですよね? 数学もそれなりにできたんじゃないんですか?」


錦の問いに、デレっとしながら頷く。

なんだこのおっさん、守世が相手だとなんかキモいぞ。


「でも、自分でやるのと教えるのとでは大きく違うからなぁ……」


そう呟く上栄に、錦が追撃する。

机の上に三枚の紙を静かに置いた。


「これは……?」

「三人の中間テストの成績です」

「えぇ……」


目を通し、困惑したような、はたまた唖然としたような顔になる上栄。

そこに錦が上目遣いで一言。


「ダメ……ですか……?」

「いやいやいや!! 良いよ! 守世の頼みなら何でもするよ!」

「「えぇ……」」


なんだか素敵な笑顔でこちらを見る錦と、デレデレのヒゲの姿に、僕と寅次郎は揃ってドン引き。


「小悪魔め……」

「ほんまに……」

「てか、あのヒゲ、やばくね?」

「せやなぁ。てか、泰護、あのヒゲと知り合いやったんやな」

「まあな。頭はいいらしいし、なんかやる気も出してるから大丈夫だろ。多分」


不安しかないものの、とりあえず数学の心配は解決しそうだ。



「で、社会だが……」

「まず世界史です!」

「俺は国史と現代社会!」

「よし。寅次郎は後回しな。世界史はテスト範囲は……?」

「古代ローマ、キリスト教、南アジアの文明です」

「おーけー」

「おい、俺の社会はどないするんや?」

「俺と同じやから後回し。国史は平安、鎌倉期、現社は憲法と権利やから、とりあえず国史の重要ポイントだけまとめといてやるわ」


範囲確認をすませ、社会も一件落着。

最後は……。


「誰か英語を教えてください……」


こればっかりはどうしようもない。


「私は一年ですし、二年生の内容はちょっと……」

「俺は二年生やし、二年生の内容はちょっとなぁ……」

「おいこらなんかおかしい奴が一人いるぞ」


どうしようかと三人で頭を抱える。

ダメだ。

これはダメなやつだ。


「ごほん」


不意にこだまする咳払い。

顔を上げると、ヒゲのおっさんがニコニコしていた。


「ここに英語の教員免許を持っているお兄さんがいます。今、追加でモンブランを食べさせていただけたら英語を教えてあげる事も出来るがいかがかな?」

「うそ……でしょ? そんな話、聞いたこともないですよ?」

「本当だよ。英語は出来る。で、どうするかな?」


楽しげな顔で片目を閉じる上栄。

三人で互いの顔を見合わせる。

こんな美味しい話逃すわけにはいかない。


「「「どうかお願いします」」」



***************


そこから二週間、勉強会は毎日のように行われた。

特に、治りが早いとはいってもまだ家から出れるような状態ではない錦と暇な僕はずっと錦家に詰めていた。

寅次郎は家の用事があるらしく、毎日参加というわけにはいかなかったが、どうにかこうにかテスト対策は進んでいた。


「まあ、そんなこんなで試験前日な訳だけど……」


問題を解き終わり、背伸びをしながら息を吐く。


「上栄さん、本当に凄かった……」


数学は苦手。

そう言っていたが、それを感じさせない説明のうまさには正直舌を巻いた。

テスト範囲だけではなく、今までの分からなかったところまでほぼ全て解決してしまったのだ。

加えて英語。

今まで使ったどの参考書よりも分かりやすく的確な説明。

特に、錦に教える時は何かが取り付いたように一層磨きがかかっていた。

もしかして、あの人は錦大好きおじさんなんじゃ……

ついでに一年の基礎範囲も、錦に説明してもらったことで出来るようになった。

絶望的だった二教科に光明が差したような気がする。


「私、実は理系だったのかもって思い始めてきました……」

「僕もだよ……もうこれでテストは心配ないな」

「泰護さんのお陰で社会もなんとかなりそうです! 語呂合わせとかいっぱいで覚えやすかったですよ!」

「あ、ありがとう……」


社会、特に歴史の勉強は単語の丸暗記が本質じゃない。

流れをつかむことが大事。

だが、その考えのもとで寅次郎を教えた結果、彼の頭はパンクした。

頭から煙を出す彼の姿を見て、錦の時は単語を詰め込む作戦に切り替えた。

奴は犠牲になったのだ……。


「まあそんなことは言いながら、寅次郎もなんやかんやで出来るようになったし……」

「シャカイ……キライ……」

「あの……トラさん壊れてません?」

「こいつには触れない方がいい。危険だ」

「アッ、ハイ」


ここ三日で社会のテスト範囲を全て詰め込み、何かをブツブツと呟き続ける寅次郎。

やばい奴にしか見えないから怖い。


「まあ、明日のテストは大丈夫だろう!」

「そうですね! 頑張りましょう!」

「安和の変……昌泰の変……」


体の前で、グッと両手を固める錦。

かわいい。


「よーしじゃあ今日は解散するかー!」

「はい!では明日から二日間のテスト頑張りましょう!」

「ミナモトノヨリトモ……ヨリイエ……サネトモ……」


かくして勝負の日を迎えた。



・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


「さて、全ての成績が返されたわけやけど……」

「まだ、私は点数見てません」

「僕もだよ」

「早く見せてくれ。私の授業の成果を!」


テストから数日。

全教科の結果が返ってきた。

結果は錦家でみんなと一緒に見ることにしていたので、まだ知らない。


「じゃ、一斉に出そう!」

「はい!」

「いくぞ、3!2!1!」


一斉に成績を出す。


「おお!全員の数学が70点越えやないか!」

「うっわぁ〜! 信じられないです!」

「4点から……78点……」

「私の教え方は完璧だったようだな。八割を超えてくれることを期待したが、まあ前回がアレだからな。よく頑張った」


思い思いの歓声をあげ、健闘を讃え合う。


「お! 英語も大健闘や!」

「僕は89点!これ……夢みたいだ……」

「私は92ですよ! こんな点数、久しぶりに見ました!」

「社会も75点や!悪夢に耐えた成果やぁ……」

「私は社会も92点でした! 本当に夢みたいです!」

「僕は93だ。錦さんに先輩としての意地だけでギリギリ勝てた!」


英数社理に副教科。

全体的にみな良い点で六割を切った科目はなかった。

頑張った甲斐があるというものだ。


「いやぁ……実に良かった良かった」

「そうですねー! 満足です!」

「三バカが揃って賢くなってもうたな」

「おいおいちょっと待ちたまえ」


三人で感慨に浸る。

その空気に水を差すヒゲ。


「せっかく僕たちが喜んでるのに……一体なんですか?」

「いや、気づいていないのか見て見ぬ振りをしてるのか……何か忘れてないかい?」

「ないですよねぇ? 私たちが受けたのは英数社理と副教科のテストだけですよ!」

「せやせや! 他に何があるって()うんや?」

「えぇっと……国語の点数はどうでしたか?」

「「「え?」」」


こく……ご……?

ふいっと顔を背ける錦。

固まり動かない寅次郎。

僕は顔から血がさぁっと抜けるように感じた。


「どれどれ……あっ……あー……」


点数を見た上栄が、情けない声を出す。

それもそのはず。

錦が、16点

寅次郎が24点

僕が18点。


「……文系として致命的だね……」


かくして、定期テストという嵐は過ぎ去っていった。














「まあまあ、そんなに気を落とさないで」

「いやぁ……やっぱり悔しいですよ……」

「三人ともよく頑張ったじゃないか。まあ国語は次のテストで頑張れば良い」

「はい……」

「さて、泰護くん。着いたよ」


テストの感想を漏らしながら車に揺られて15分。

僕は上栄と共に、町からほど近い神社を訪れていた。


「さて、ここから歩かないといけないな……この歳になると流石にしんどいね」

「まだそんなお年でもないでしょうに」

「お、嬉しいことを言ってくれるねぇ。君の中でどんな印象か気になるよ」

「働き盛りでめちゃくちゃ有能だけどロリコンなヒゲのおじさんですね」

「お、嬉し……ロリコン?」

「ロリコン。もっと言うと守世大好きヒゲおじさん」

「いやいや!? 違うよ?」

「錦さんのことはどうでもいいと?」

「いや、それは断じて違う。私は守世のことを目に入れても痛くないくらい大好きなだけでロリコンでは……」

「いや、もう発言がアウトですね」


そんなことを言いながら薄暗い山道を進み、本堂の前に出る。

本堂にお参りをした後に、隠し扉を通り地下に入って行く。


「ここ、初めてきた時はびっくりしました」

「そりゃそうだろう。普通はこんな所に扉があるとは思わないだろう。ましてや……」


生体認証をクリアすると同時に、目の前の扉が開く。

連続して三枚の扉が開くと同時に目の前に広がる近未来的な設備。


「こんな施設があるとは夢にも……ね」

「その通り」


彼の言葉を引き継いだ僕に上栄が頷く。


「では、今日も検査に入ろうか。今回からフェイズスリーだ」

「第三段階?」

「そう。基礎的な調査は大体終わったからね。ここからは守世の様々なデータとの親和性とかを調べていく」

「それは……どういう……?」


疑問が湧き、上栄を振り返る。

彼はヒゲを弄りながら一瞬逡巡した後、口を開いた。


「結果と……君の選択次第だが、私は君に、守世のサイドキックになってもらいたいと思っている」

「サイド……キック?」

「そうだ。君にはその素質がある」

「僕も戦うということですか?」

「いや、違う。君に戦闘能力は求めていないし、データ的にみても、君は戦闘向きじゃない」


遠回しに、お前では錦を守れないと言われているように感じた。

身を固くする僕に対し、上栄は優しく続ける。


「戦う者に対するサポートは、一緒に戦うことだけじゃない。むしろ、銃後にいて、その精神的なサポートをすることの方が彼女たちにとっては重要なんだ。君にはそれをこなしてもらいたい」

「……ピンときません。つまり、どういうことをするんですか……?」

「まあ、簡単に言えば……くぅ……い、言わなければならないのに……くうぅ……」

「……?」


突然様子がおかしくなった上栄に眉をひそめる。


「か、覚悟は出来ていたが……よし言うぞ、言うぞ!」

「ど、どうぞ……」


少し引きながら先を促す。


「君に、彼女の恋人になってほしい」

「は?」

「うぅ……娘を嫁に出す父親の気持ちが……よくわかるっ!」

「おいこらまてヒゲ親父」


勝手なことを言い放ち、勝手に浸るヒゲを慌てて押しとめる。


「恋人ってどういうことですか!」

「まあ、恋人っていうのは極端な例えだが、彼女の精神的な支柱になって欲しい。恋愛的な関係でも親友的な関係でもいい。守世の精神を支え、力を与える存在。それを君になって欲しいんだ」


不意に、彼女と初めて会った時の事がフラッシュバックした。

『私と付き合ってください』

いきなりそう言ってきた彼女。

最初からこの目的で……。


「……初めて会った時も、錦さんに言われたんです。『私と付き合ってください』、と」

「なんだって?」


驚いたような声を上げる上栄。


「知ってたんじゃないんですか?」

「いや、知らなかった。むしろ、この提案を思いついたのも、君と錦の戦闘データを解析し、さらに君の検査結果が出てからだった。つい最近のことだ」

「じゃあ……なんで錦さんが……?」

「分からない。とりあえず私がそのことには関係していないということだけは約束しよう。彼女の考えとは別の事だと思って、私の提案の是非を考えて欲しい」

「そうは言われても……」

「まあ、難しいだろうね。良いよ。一旦私の話は忘れてくれ。彼女にそれとなく聞いてみてから改めて判断することとする」

「すみません、お願いします」

「……今日は送るよ。すまなかったね」

「いえ、せっかくですし、検査は受けて帰ります。今回のことも、何かのデータになると思いますし」

「だが……」

「大丈夫です! むしろ……このまま帰ってしまう方が、色々と考えてしまいそうで……」

「そうかい……じゃあ、そうしよう」


彼の同意を得たところで、検査台の上にのる。


「……あとで、私のとっておきの温泉に連れて行ってあげよう」


顔は見えない。

ただ、その声には優しさだけが詰まっていた。

目をつむり、笑う。


「期待しておきます」

戦闘回でした(違う

これから少しずつ季節も進んで行きます

閲覧数がびっくりするくらい増えているので、嬉しか思う一方励みにもなっています!

下手っぴな文章ですが頑張りますのでこれからもよろしくお願いします!


あ、次回新しいメインメンバー登場です。


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