第三話 日向ぼっこしていたら何かやっちまいましたか?
千賀:モンゴル料理を楽しむ
山村:身体が冷たい、いつも千賀を見ているストーカー
朝、ゲルの中は適温で、柔らかな日差しが顔に当たっている。
素晴らしい目覚めだった。
大きな欠伸をしながら、夕食を食べたゲルに行くと「朝ご飯やってますよ」と女の子に声をかけられた。
定番の朝ご飯を頼むと、ミルクとパンの欠片にバターがついているものだった。
「あんちゃん、ツォイワン食べてくか?」
俺の顔に物足りないとあったからか、料理人は「これだよこれ」と焼きうどんの様な料理を指差した。
「お願いします」
「あいよ」
飯を作ってもらい、温かい内に食べる。
何と贅沢な事なのか。
俺はまた、感動して泣きそうになった。
「あの、このカードの残高ってどれくらいですか?」
俺が支払いをしながら宿屋の亭主に聞くと、
「十年豪遊してもお釣りが来るくらい入ってるから気にしなくていいんじゃないか?」
と何気なく答えた。
「本当にあんちゃんのカードなんだよな?」と聞かれたので素直に頷くと、亭主は納得してくれた様だ。
「よかったら軽食でも買ってきな!」
料理人が奥から声をかけて来たので、気になって近づくと、「これはボールツォグで、チーズつけとくよ」と熱々の揚げたパンのようなものを手渡してくれた。
「お代はいいよ、久々にこんなに喜んでくれる客がいて嬉しいんだよ」
俺はまた、人の優しさに触れて胸が温かくなった。
薄曇りの中、草原をてくてくと歩く。
日差しが厳しい時よりも、少しは歩きやすいのかもしれない。
丁度良い気温、丁度良い陽気に、俺はワクワクした。
暇だから山村からのメッセージを見ると、[木陰で座って一休みしてもいいんだぞ]とあった。
「分かったよ、山村」
俺は山村の言う通りに、丁度良さそうな木陰で一休みする事とした。
まずは、ダニや動物の糞が落ちていない事を確認してから腰を下ろした。
木陰に座ると、爽やかな風に吹かれて、さわさわと葉が揺れる音がした。
気がつくと、少し眠ってしまっていた様だ。
俺の手を何かが引っ張る感覚がある。
「あっ!」
小さな蜻蛉の翅が生えた小人が、俺のもらったチーズを奪おうとしている。
「食べたいのかい?」
小人は頷いた。
俺は味見用に一口千切ると、それ以外を小人に分けてやった。
小人はキャッキャと喜んでチーズごと消えた。
俺は何だか良い事をしたなともう一寝入りしようと思ったが、不意に山村の事を思い出してすくっと立ち上がった。
俺は、山村に会う為にここに来た。
俺だけがこうして幸せであるのは良くない。
山村にも、この幸せを分けてあげたい。
俺はそう決意して、ハイテク地図に従って二番目の街を目指した。
「えー、お前は何者だ」
街は立派な壁に包まれており、途切れ目を探して街に入る事となった。
俺は黙って門番に冒険者カードを見せると、門番は石にピッとやって「通ってよし」と通してくれた。
このシステム、現実でも出してくれないかなと思いつつ街中で歩くと、あちこちで人々がそれぞれの商いをしていた。
「俺のカード……」
カードにはすごく金が入っていると言っていた。
俺は何か山村にお土産になるものはないかと探してみた。
「綺麗なにーちゃん、これ似合うんじゃない?」
露天の店主に見せられたのは、俺の目と同じ赤い石の嵌ったブレスレットだった。
俺は山村が俺の色の入ったものを身につけている様を想像し、即購入した。
「りんご、安いよー!」
俺は少し憧れだった、りんごを齧りながらの露天の見回りをやってみたくて、カードでりんごを一個買った。
りんごは赤くてシャリシャリと瑞々しく、皮ごと食べても気にならない位の甘酸っぱさだった。
気がつくと、俺は食べ歩きではなく、道の端で集中してりんごを食べていた。
俺には食べ歩きは適していなかった。
大きめの広場に出ると、[求む! ダンジョン攻略者! 町長]とある。
「にぃちゃん、興味あんのか?」
看板を眺めていると、隣の親父さんが話しかけてきた。
「ダンジョン攻略したら、次の街まで通してもらえますか?」
「あぁ、それくらい安いもんだと思うぞ」
「分かりました」
俺は迷いなく、[こちらダンジョンの入り口]と書かれた看板に従って、井戸の底へと降りて行った。
ダンジョンは地下のはずなのに、所々から陽光が漏れていた。
「不思議だろ? ここは陽だまりダンジョンと呼ばれているんだ。未だに最後の広場の謎を解いた奴がいなくて、攻略は頓挫しているんだよ」
「へぇー」
俺は石畳に布を広げて色々と売っている店主からそう説明された。
「何か買ってくか? ここだと、バロメッツの枕とかが名産品なんだが」
「枕? 持ち運びは……」
「なんだ、あんちゃんアイテムボックスも持ってないのか。安くしとくから買ってけよ」
店主はそう言って、ベルトにつける口の広い横長のポシェットの様な鞄を勧めて来た。
「アイテムボックス?」
「なんだ、知らんのか。まぁ見てろって」
店主は横に積まれていた枕を一つ持ち、鞄の口に当てると一気に押し込んだ。
鞄はどう見ても枕が入る大きさでないのに、するりと枕を飲み込んだ。
「こんな風にな、物が仕舞えるんだよ。中はよく見える様になってるから、適当にぽいぽいしまっても後から取り出すのは難しくないぞ」
「便利ですね」
俺はすっかり感心してしまい、枕と、また外で寛ぐ用に外用の折り畳み座布団を購入した。
他にも水筒やランタンを購入してみた。
「毎度あり!」
俺は上機嫌で鞄をベルトに通し、鞄を覗くと、今買ったものが中に入っているのが見えた。
素晴らしい道具、いつもの仕事でも使いたい位だ。
俺は、適当にダンジョンの中を歩く。
途中、何だか分からない骨や、ミミズの化け物等が襲って来たが、適当に切って払った。
俺の剣は牙なので、切先に当たったものの味が口に残る様な感覚がある。
ミミズは非常に生臭かったので、次現れた時は剣を使わないでおこうと心に決めた。
少し斜面になっている岩場から、ちょろちょろと水が流れて川になっている。
その横には[この水飲めます!]の看板が。
俺は少しずつ飲んでいた水筒の中身が少なくなっていたのを思い出して、水筒で清水を汲んで飲んでみた。
とても冷たくて、すっきりとして、運動した身体の隅々まで行き渡る様な透明感のある水だった。
俺は意気揚々と山登りをする。
見た事もない様な珍しい草花を見る度に興奮し、山野に微笑みかけていた。
少し登ったところで、すぐに山頂となった。
「安いよー、お兄さんお昼ご飯食べてなかったら食べてきなー」
屋台のお姉さんがそう言うので、近づくと巨大な肉串を焼いていた。
「これ? バロメッツのシュラスコだよ。ケバブもあるけど、どっちがいい?」
「両方お願いします」
俺はそう言って、太い串とほかほかのケバブサンドを受け取った。
少し歩くと、冒険者と思しき人々が固まっているのが見えた。
「おっ、新入りか。お前もここの謎を解きに来たのか」
「あ、はい」
俺は飯に気を取られながら、鎧姿の男に返事をした。
「あの扉の先に、俺たちが探しているものがあるはずなんだが、開かないんだよなぁ。俺たちはそろそろこれで帰るわ」
そう言って、男は仲間に声をかけて帰って行った。
「あの扉、力尽くでは開かねえから、何か条件があんだろうな」
男はそう言い残して行った。
俺は扉とかとりあえず気にせず、気持ちが良さそうなよく日の当たる石の上に陣取って、先程購入した座布団を敷いてお昼ご飯にした。
シュラスコはかなり硬く、噛み千切るのに手間がかかったが、その分強い旨みが口の中に広がり、俺は幸せな気分になった。
ケバブも、野菜と肉と生地のバランスが素晴らしくて、夢中になって齧り付いてしまった。
口を手で拭いながら先程汲んだ清水で脂を流し込む。
何という贅沢なのだろうか。
お腹いっぱいになった俺はそのまま眠くなって来たので、これまた先程購入した枕を敷いて一寝入りする事とした。
カチリ、という音がして飛び起きると、開かないと言われていた扉が開いていた。




