大統領
「そう言ってもらうとありがたい、
君の為にすぐにアメリカのパスポートを
発行しよう」
アメリカはイラン派兵の兵士を募るために
他国の人間に市民権を与える事が多く
パスポートの発行はさほど難しい
作業ではなかった。
「ありがとうございます」
「それで、君の活躍を聞かせてくれないか」
大統領は亮に体を近づけた。
「まず、亮は夫と私の命を助けてくれました」
夫を立てて静かにしていた
メアリーが亮に感謝を込めて言った。
「ああ、ニューヨークの事件ですね、
それをミスター・ダンが?」
大統領に言われると謙虚な亮はモジモジしていた。
「そうです、大統領。あれは私たちが
食事をした後で起きた事件で
亮はたくさんの怪我人を助けたんです。
※グッド・ジョブ3部NY編参照」
ブルックは亮が大統領に
認めてもらいたくて強く言った。
「うん、亮の救命処置は素晴らしかった、
後5分遅かったらメアリーは死んでいた」
ラルフは亮のたくましい姿を
思い出して目が潤んでいた。
亮は大統領に自分の二人の姉の誘拐から
始まりテロリストのボートを沈め海中で
爆発させたことを話した。
もちろん衛星で犯人を追跡した事や
Nシステムに侵入した事、
暗鬼の小妹たちの事は話さなかった。
「君はいったい何者なんだね?ミスター・ダン」
大統領は亮の存在が不思議でしょうがなかった。
「大統領、亮と呼んでください」
亮はそう言って留学生時代の図書館爆破事件から
体験した色々な話を始ると
あまりにも面白話題にみんなが
次々に質問をしてきた。
「ミスター・ダン仕事は何をしているんだ?」
「薬学博士で薬の研究をしています」
「えっ、薬を作っているのか」
大統領が驚くとともに
現在、薬の研究と証券会社、ジェイバイオ、
レコード会社、マッスルカーブジャパンの社長、
D&R、ナチュラルグリル、Americanwebの
取締役そしてスタジオD/NYの
立ち上げをしている事を話した。
「日本はどうしてこんな素晴らしい
人物を放っておいているんだ。
私だったらすぐに私のスタッフにする。
なあラフ」
大統領はラルフの肩を叩いて笑った。
「その通りです、それで亮からとても
大事な話があるんですが」
ラルフは大統領がすっかり亮を気に入った
様子を確かめて進言をした。
「なんだね?」
大統領は亮がどんな話をするか
子供のようにわくわくしてしまった。
「亮、CO2ドライアイスプロジェクトの
話をしてくれないか」
「はい」
亮はラルフに言われた通り空気中の
CO2をドライアイスにして地下深く
埋め、空気中のCO2を減らし
ドライアイスにする事によって
地球の気温を下げる計画を話した。
「亮、時間はどれくらいある?」
「大丈夫ですが・・・」
亮は大統領に熱く言われ唖然として返事をした。
「ラフ、みんなに申し訳ないが我々は
ウエストウイング(ホワイトハウスの西側にある
大統領執務を行うところ)
に移ろう、スタッフを集める」
大統領は秘書と部屋を出て行った。
亮は何が何だかわからず
ブルックとブルーノの所へ行くと
「亮、君もウエストウイングへ行くんだ。
メアリー、ブルーとブルックを
ホテルに送り届けてくれ」
ラルフが指示をした。
「どうしたんですか?」
亮の質問にラルフは真剣なまなざしで答えた。
「亮、君の提案を今からみんなで話し合ういいね」
「えっ?もう20時30分ですよ」
亮は時計を見て今からホワイトハウス内で
緊急ミーティングが開かれるなんて
思ってみなかった。
「アメリカの政治家はそんなに
不真面目じゃないぞ。これから、
スタッフが集まって
君の話を聞き国家プロジェクトになるかどうか
話し合う、おそらく今夜中に結論が出るだろう」
「動きが早いですね、大統領パソコンを貸してください。
皆さんに見せるデータを作ります」
亮の目つきも真剣になり亮は上着を
肩に担いでウエストに向かった。
「待って、私も行きたい」
ブルックがラルフの腕をつかんだ。
「ブルックすまない、これは国の重要案件なんだ」
ラルフが断るとブルーノはブルックの肩を抑えた。
「ブルック、ここはお前の出る幕じゃない」
「ううん、亮を一人にはできない」
ブルックは赤いロングドレスの裾をたくし
上げウエストのベルトにはさみ
ラルフとブルーノの制止も聞かずに
走り出して亮の脇を歩いた。
「私も手伝うわ、亮」
ブルックの熱意に亮は負けて亮は答えた
「ありがとう、ブルック君の手伝いが必要です」
「しょうがない娘だ」
ブルーノが我儘な娘を嘆いていると
「ああ、ブルックの亮への思いがわかったよ。
みんなを説得してみる」
「すまない、ラフ何とか頼む」
ブルーノはラルフの肩を叩いて
メアリーと部屋を出て行った。
亮はウエストウイングに移動すると
ブルックとPCの前に座った。
「すみません、電話を使っていいですか?」
亮は忙しそうに会議の準備をして男性に聞いた。
「どうぞ」
男は電話を使っていいかどうか
聞く亮を不思議に思った。
「日本への国際電話ですけどいいですか?」
亮はもう一度聞いた。
「はい、どうぞ」
男はめんどくさそうに答えた。
「亮、しつこいよ。ホワイトハウスが
そんなにセコイ事言わないわよ」
ブルックは亮を肘で突いた。
「ブルック、データが来たらプリント
アウトしたいと彼に言ってください」
「わかったわ、準備してもらう」
ブルックは亮がさっき話した男性の所へ行った。
亮は受話器を握って
「ええと日本だから011-81-3-
35○○-○○○○」
コールが2回なると和美が電話に出た。
「亮です」
亮は何事も無かったように電話をすると
「はい、中村です」
和美は冷静に亮の電話を受けた。
「すみません、僕のPCを立ち上げて
企画書ホルダーを開けて
CO2ドライアイス計画のファイルを
僕のgmailに送っておいてください」
「はい」
和美は電話をしながら作業を終えた。
「今送りました」
「ありがとうございます和美さん、
仕事の方は大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。ご安心ください。
それでいつお戻りになりますか?」
「せっかくこちらに来ているので、
ニューヨークからアリゾナに行きます。
約1週間ほどで」
「わかりました、お気をつけて」
「電話が通じますのでわからない事が
有ったら電話をください」
「はい、承知いたしました」
亮は和美の感動の無い事務的な
電話の対応に拍子抜けしたが
その和美の冷静さで会社を
安心して任せられた。
メールを開いた亮はファイルを
開きプレゼンの準備をした。
「亮、このケーブルをつなげばその大きな
モニターに映せるそうよ」
ブルックがケーブルを引いてきた。
「ありがとう、ブルック」