第11話 後編
「(さて…どうしたものかしら…)」
茜と分かれ、目的地である屋上へと向かおうとする歩美。
彼女の行く手を阻む敵は、通路を埋め尽くす程の数であった。
「(数を減らすとかそういう次元の話じゃないわね…。かといって、逃げ道は後ろにある地下への階段だけ…茜に嫌味を言われるのも癪だし、逃げるってのも好ましくないわ)」
銃を構えはしたものの、引き金は引かずに、じりじりと後退していく歩美。
「(…やるしかないわね)」
覚悟を決めて引き金を引き、先頭のゾンビの頭部を撃ち抜いたのと同時に、ゾンビの集団が居る辺りの通路の片側の壁が突然轟音と共に崩れ落ちた。
「…!」
破壊された壁の粉塵が一瞬で辺りを埋め尽くし、目の前に居たゾンビの集団すらも見えなくなる。
その粉塵が落ち着いた時、目の前に居たのはゾンビの集団と歩美を隔てるように立っている、顔に包帯を巻いた人物であった。
「………」
顔に包帯を巻いた女性が、地面に落ちている大きな瓦礫を片手で持ち上げ、ゾンビの集団に投げつける。
恐ろしい勢いで投げつけたその瓦礫で半数以上を仕留めた後、包帯の人物は振り返って歩美の元に歩いていった。
その人物が自分の元へやってくるなり、歩美は嘲笑を浮かべてこう言う。
「そんな不格好な包帯さっさと外しなさい。みっともないわよ、明美」
明美と呼ばれたその人物は、乱暴な手付きで包帯を外す。
「私に指図をするのね。身の程を弁えてもらえるかしら」
包帯を外し、顔を見せてそう言ったのは、歩美の実の妹、沢村明美であった。
「身の程を弁えるのはそっちでしょうが。私に向かってその口の聞き方は何なのよ」
「黙りなさい。殺すわよ」
「面白い事を言うわね。やれるもんならやってみなさい」
「ならあの世で後悔しなさい」
売り言葉に買い言葉を交わし、デザートイーグルを取り出す歩美と、大口径リボルバーM500を取り出す明美。
しかし彼女達は、銃口を迫ってきているゾンビの集団に向けて引き金を引いた。
お互いの事を訝しげに横目で見合う2人。
「どういう魂胆?」
「勘違いしないで。私には目的があるから、その為にしばらく利用させてもらうだけよ。…歩美姉さんこそ、どうして私を撃たなかったのかしら」
「同じ理由よ」
「それは結構」
襲い掛かってくるゾンビの集団に、発砲を始める2人。
高威力の銃弾による殲滅は、恐ろしい早さで進んでいった。
途中、群れの中から1体のタンクが姿を現す。
その個体を優先して仕留めようと明美がそちらに銃口を向けたが、弱点以外への攻撃はほとんど通じない事を知っている歩美が彼女の銃を上から押さえつけるように下ろさせた。
「弱点以外は撃っても無駄よ。弾の浪費は避けなさい」
「私に指図しないで頂戴。頭に風穴開けるわよ」
「やってみなさい。先にあんたの首をへし折ってやるわ」
「私と肉弾戦をやろうっての?上等じゃない。頭蓋骨叩き割ってやるわ」
「誰の頭蓋骨を叩き割るですって?出来もしない事をのたまうのは止めなさい。眼球取り出して耳の穴に詰めるわよ」
「出来もしない事をほざいているのはどっちかしら?舌引っこ抜いて2つに裂いて鼻の穴に詰めるわよ」
「ギャーギャーうるさいわね。このアバズレ」
「うるさい。年増」
敵をそっちのけで喧嘩を始める沢村姉妹。
当然、敵はそれを傍観するような事はせず、先頭のタンクが2人に殴りかかる。
しかし、タンクの手は2人に当たる寸前で明美に掴まれ、ぐしゃりと握り潰された。
同時に歩美がタンクの背後に回り、背中にある弱点にデザートイーグルを2発撃ち込む。
タンクは崩れ落ち、動かなくなった。
「危ないわね。弾が貫通して私に当たったらどうするつもりだったのよ」
「別にどうするつもりも無かったわ。そのつもりだったもの」
「なに?」
「やる気?」
ついに明美が歩美に殴りかかる。
歩美はそれを避け、明美の顎に銃を突き付ける。
「殴る相手間違ってるわよ」
「銃を向ける相手間違ってるわよ」
そこで、2人に手が届く距離まで近付いてきていたゾンビ達が一斉に襲い掛かる。
明美はリボルバーを取り出し、歩美は明美に向けていたデザートイーグルを集団に向けて撃ち始め、ゾンビ達を押し返していく。
共闘を再開したかと思われた2人であったが、いがみ合いは終わっていなかった。
「さっき年増って言ったわね。私はまだ二十代よ」
「へぇそうなの。四十代後半かと思っていたわ」
「そんなワケないでしょうが。何歳離れてる姉妹なのよ」
「腹違いだったりして」
「よくもそんな事が平然と言えるわね。やっぱり特異細胞の影響でイカれ始めてるのかしら?」
「生物兵器作るような素でイカれてる人間にはとやかく言われたくはないわね」
「その生物兵器を使って人間やめた奴に口出しする権利は無いと思うのだけれど」
「黙りなさい凶悪犯罪者」
「うるさい化け物」
そんな姉妹喧嘩の最中でも2人の攻撃の手が緩まる事はなく、迫り来るゾンビは次々と頭を撃ち抜かれ、蹴り飛ばされ、殴り飛ばされていく。
目の前に居たおびただしいゾンビの集団は次第に数が減っていき、気付いた頃には残っている敵は数体のゾンビだけとなっていた。
それを見て、歩美が呟く。
「妙ね」
「何が」
「ランナーの姿が見当たらないわ。ここに来るまでに何体か見たのだけれど…」
「ある程度は私が蹴散らしておいたけれど、確かに1体も見ないのは変ね」
「…嫌な予感がするわ」
「…奇遇ね」
最後のゾンビの頭部を歩美が撃ち抜き、その場に居たゾンビは全滅した。
銃を下ろす2人。
しかしその直後、通路の奥からランナーの雄叫びが聞こえてくる。
「…予感的中ね」
歩美が苦笑を浮かべながらそう呟いたのと同時に、20体は居ると思われるランナーの集団が通路の奥から姿を現し、狂ったように叫び声を上げながらこちらに向かって走ってきた。
2人は再び銃を構え、走ってくるランナーに発砲を始める。
ゾンビと異なり俊敏な動きで接近してくるランナー達を2人は銃で半分は仕留める事ができたが、残りの個体には接近を許してしまう。
2人に飛びかかるランナー達。
しかし、先頭に居た個体の顔面に明美が掌底を打ち付けて顔の半分を吹っ飛ばすと、それを見た後続のランナー達がぴたりと足を止めた。
「ほら、かかってきなさい。遊んであげるわ」
指をぽきぽきと鳴らし、ランナーに向かって歩いていく明美。
ランナー達は様子を見ていたが、その内の1体が痺れを切らして飛び掛かる。
明美はその個体の首を掴み、片手で優に持ち上げる。
そして持ち上げたその身体を、密集している他の個体に向かって投げつけた。
凄まじい勢いにより、投げられた個体も当たった個体も揃って吹っ飛び絶命する。
そこで、様子を見ていた他の個体も叫び声を上げ、明美に襲い掛かった。
明美はその場から一歩も動く事なく、絶え間なく襲い掛かってくるランナーを殴り飛ばし、蹴り飛ばし、投げ飛ばす。
その様子を、歩美は後ろで腕を組んで見物していた。
それに気付いた明美が彼女を見て舌打ちをする。
「戦いなさい。何様のつもりよ」
「姉様よ。しっかり働きなさい、妹」
「ナメた口を…」
「ほら、後ろ」
歩美の言葉で振り返り、同時に掴みかかろうとしてきたランナーの両腕を両手で掴み、胸元に足を押し付けながら引っ張ってその両腕をもぎ取る。
腕を失ったランナーの顔面にもぎ取った腕を1本叩きつけ、もう1本は歩美の足元に投げつける。
「親愛なる姉様へ妹からのプレゼントよ。大切にしなさい」
「…そりゃどーも」
結局、残ったランナーも明美が全て瞬殺した。
「こんな所ね」
最後のランナーの頭を壁に叩きつけて潰し、明美は辺りに転がる大量の死体を見てそう呟く。
通路を埋め尽くす程の数であったゾンビとクリーチャーの集団は、2人によって1体すらも残る事なく全て葬られた。
戦闘を終えた明美の元に、歩美が腕を組ながら歩いてくる。
「ご苦労」
「随分と上からね」
「上だからね」
「あっそ…」
2人は屍で埋め尽くされた通路を歩いていき、屋上へと向かう為に階段を探し始める。
「そういえば…」
口を開いて会話を切り出したのは、歩美であった。
「あんた、1人で来たワケじゃないんでしょう?他の仲間はどこに居るの?」
「葵なら、この建物の地下に向かったわ。上条亜莉栖は途中で別れたから知らないけれど」
「上条亜莉栖ならすぐ近くの公園で恭子と亜莉紗と合流したわ。…それで、どうしてそんな珍しい組み合わせでこの町に来たのよ」
「その質問に答えた所で、私に何か得があるのかしら」
「長生きできるわよ」
「………」
明美は隣を歩く姉の横顔を恨めしそうに睨み付けた後、話し始める。
「利害が一致しただけよ。不死のクリーチャーに興味を持った葵、姉に加勢したいと思った亜莉栖、そして私は…」
「………」
「…まぁ、3人ともこの町に用があったって事よ。隔壁は私がぶち破ったわ。外では大騒ぎでしょうね」
「待ちなさい」
足を止める歩美。
「…何よ」
明美も足を止めたが、彼女は背を向けたまま返答する。
「あんたの目的、それを教えて貰いましょうか」
「答える義理は無いわ」
「答えなさい」
「断る」
そこで突然、歩美が銃を取り出して明美に銃口を向ける。
ほぼ同時に、明美も振り返りながら素早く銃を取り出し、歩美に銃口を向けた。
「訊きはしたけれど、見当はついているわ」
「と言うと?」
「津神が製作したウィルス。それが目的でしょう」
「だとしたら?」
「阻止するわ。何としても」
「へぇ…。それは歩美姉さんに得がある事だとは思えないわね」
「これは損得の話じゃないのよ」
「…はぁ?」
「…まぁ、あんたにはわからない事よ」
「あっそ…」
そこで同時に、2人は引き金を掴んでいる人差し指に力を入れて、目の前に居る肉親の頭を躊躇いなく撃ち抜こうとする。
引き金が発砲に至る所まで引かれる寸前で、事は起きた。
2人の丁度中間辺りの天井が突然崩れ落ち、2人の間に何か巨大なものが落ちてくる。
それと同時に聞こえたきたのは、低く唸るような、とある駆動音。
その駆動音が突然狂ったように高く激しいものとなり、そこで歩美はその駆動音の正体を知った。
「(チェーンソー…!)」
目の前に現れたクリーチャー、"D-08 ヘラクレス"は、通常のサイズの数倍はあると思われる巨大なチェーンソーをその巨体で軽々と扱い、獲物を仕留める。
獲物は当然、沢村姉妹の2人であった。
「(始めて見るわね…。津神が製作したのか、それとも私が知らなかっただけか…って、今はそんな事どうでも良いわね)」
チェーンソーを振りかざしたのを見て、ヘラクレスの身体の横を走り抜ける歩美。
チェーンソーは地面に叩き付けられ、刃が地面を抉る耳障りな音を発する。
難を逃れた歩美は明美の隣を通る際、足を止めずに彼女にこう言った。
「よろしく」
「…は?」
明美は走り去っていく歩美の背中とこちらに振り向いたヘラクレスを交互に見た後、走り出した。
「あら、逃げてきたの?」
「歩美姉さんに都合良く利用されるのが気に入らなくてね」
「あっそ」
来た道を走って戻っていき、分かれ道を左へと進む。
開けた通りを進んでいると、正面に階段が見えてきた。
その階段を登り、2階へと上がる2人。
そこでとある事に気付いた2人は、その場に立ち止まる。
忌々しいチェーンソーの駆動音が聞こえなくなっていた。
「諦めた…?」
明美が呟く。
「まさか。見失う程距離は空いていなかったわ。考えられるのは…」
歩美が言葉を言い切る前に、2人の前の天井に突然亀裂が入る。
その亀裂に銃を構える2人。
「先回りね」
歩美がそう言った後すぐに天井を破壊して落ちてきたのは、先程まで後方から追いかけて来ていたハズのヘラクレスであった。
「やれやれ…そんなに遊んでほしいのなら、少しだけ相手をしてあげるわ」
「見た事が無い種類よ。気を付けなさい」
素手のまま一歩踏み出す明美と、銃を取り出して弾倉内の装填数を確認する歩美。
そんな2人を見て、ヘラクレスは切っておいたチェーンソーのエンジンをかけ直す。
恐怖心を煽るその駆動音が鳴り始めたが、明美は微塵も怯む事なく滑り込むように懐へと潜り込んだ。
接近してきた明美にヘラクレスがチェーンソーを振り上げ、それを受けてがら空きとなっている腹部を右手で抉るような勢いで殴り付ける明美。
敵の身体が前のめりになり、その隙に明美は右手を引いて力を溜める。
そしてヘラクレスが体勢を立て直す寸前、前のめりになっている事で下がっている顎を掌底で殴り上げた。
ヘラクレスの巨大な身体が宙に浮き、辺りに地響きを轟かせながら地面に落ちる。
明美の攻撃は非の打ち所の無いものであったが、ヘラクレスはすぐに平然と立ち上がった。
「へぇ。身体は頑丈みたいね」
チェーンソーを振り回しながら接近してくるヘラクレスに、嘲笑を浮かべる明美。
次はどんな攻撃を仕掛けてやろうかと明美が考えていた所で、歩美がヘラクレスの頭上の脆くなっている天井を撃ち抜く。
銃弾が命中したその部分が崩れ落ち、ヘラクレスの頭に直撃した。
「あら、上手い事やるじゃない。そのスカスカの頭にしては上出来ね」
「黙りなさい。今の内に行くわよ」
歩美は天井の無くなっている部分の下に立ち、明美を見て無言の合図を目で送る。
明美は舌打ちをして渋々ながらも彼女の要求に応える。
「しっかり上げなさいよ」
「さっきの攻撃みたいに殴り上げてやっても良いわよ」
「ふざけたら殺すわよ」
「はいはい…」
天井の下で待機する明美に向かって走り、勢いよく跳躍する歩美。
明美はそれに合わせて彼女の足を両手で押し上げ、勢いをつけさせる。
明美の怪力のお陰で3メートル以上飛び上がる事に成功し、歩美は上の階へと上がる事ができた。
「ほら、早くしなさい」
歩美はその場にしゃがみ込んで、下に残っている明美に手を差し伸べる。
「いえ、必要ないわ」
「は?」
拒否した理由を歩美が聞こうとしたその時、チェーンソーの駆動音が近付いてきた。
ヘラクレスが立ち上がった事を気配で感じ取っていた明美は、焦る事なく身構える。
振り上げられたチェーンソーが、明美の頭上に振り下ろされる。
明美は身体を少しずらしてそのチェーンソーを避け、ヘラクレスの腕、肩、頭の順に飛び移っていく。
そして最後に踏み場にした頭を勢いよく蹴って跳躍し、歩美の元へと辿り着いた。
「ほらね?歩美姉さんみたいな凡人以下と違って私は人の力なんて…」
「はいはい…。行くわよ」
2人はその場から走り出した。
しばらく走った所で、正面に階段が見えてくる。
階段の側にあるプレートには"R"という文字が書かれてあり、この階段の先が屋上である事を示していた。
階段の前に到着した所で、歩美がこう呟く。
「思ったよりも早い到着だったわね。私が思い付いたショートカットのお陰ね」
それを聞いて、明美が嫌味っぽくこう言う。
「そのショートカットは私が居なきゃできなかったわね」
「思い付かなきゃできるもできないも無いでしょうが。付け上がらないでもらえるかしら」
「付け上がってるのはどっちよ。感謝の1つも言えないような人間、やっぱり殴り上げた方が良かったわね」
「何?」
「やる気?」
飽きもせずに喧嘩を始めようとした2人。
しかしその時、屋上への階段の隣にある2階への階段を塞いでいるシャッターから、チェーンソーの刃が飛び出てきた。
その刃が上から下へと動いていき、縦に荒々しい切り口がつけられる。
その切り口を手で強引に広げ、ヘラクレスが姿を現した。
「執念深い奴ね。いいわ、ここで決着を着けてあげる」
そう言ってこちらに歩いてくる明美を見て、チェーンソーを唸らせるヘラクレス。
「どうするつもり?」
離れていく明美に、歩美が訊く。
「さぁね。その場その場で最善を尽くすまでよ」
「それは良い考えね」
棒読みでそう言った後、チェーンソーを持っているヘラクレスの右手を銃で撃ち抜く。
一瞬怯みはしたものの、そこで接近してきた明美には素早く反応し、チェーンソーを持ち直して斬りかかる。
明美はその場から動かずに、縦に振られたチェーンソーの刃の部分を横から蹴り払った。
ヘラクレスの身体が横に大きくよろめき、チェーンソーの刃が壁にのめり込む。
壁から抜こうと力を入れた瞬間、明美が懐に潜り込み、鳩尾に掌底を打ち付ける。
クリーンヒットしたその重い攻撃はヘラクレスの巨体を転倒させる。
明美は壁に嵌まったまま唸っているチェーンソーを見て、ニヤリと笑った。
「…悪くないわね」
チェーンソーを両手で掴み、力を入れて一気に引き抜く。
そして、その巨大なチェーンソーを倒れているヘラクレスの胸部に突き刺した。
身体を激しく痙攣させながらも、チェーンソーを引き抜こうとするヘラクレス。
しかし、明美はチェーンソーを掴んでいる手に更に力を入れ、それを許さなかった。
結局、明美の力にかなわなかったヘラクレスは、自分の得物が胸に突き刺さったまま絶命した。
チェーンソーのエンジン部分を蹴って破壊し、まだ鳴り続けていた忌々しい唸り声を止めてから歩美の元へと戻っていく。
「お待たせ。凡人」
「待ちくたびれたわ。化け物」
再び喧嘩が始まりそうになったが、屋上への階段から誰かが降りてきた事で、2人の関心はそちらに向いた。
「こんばんは。仲良し姉妹のお二人さん」
綺麗な黒紫色の長髪をなびかせながら現れたのは、津神麗子であった。
同時に銃を構える歩美と明美。
「そっちから出てきてくれるとは手間が省けて良かったわ」
「さっさと例の物を出してもらうわよ」
話す間もなく臨戦態勢の2人を見て、くすくすと笑う麗子。
「あらあら…息ぴったりね。微笑ましい限りだわ。…話は上でしましょう?そこに例の物も置いてあるわ」
麗子はそう言って、向けられている銃口など気にも留めずに階段を再び上がっていく。
2人は銃を下ろし、お互いの疑心に満ちた顔を見合わせた後、歩き出した。
「ヘタな真似したら殺すわよ」
「こっちのセリフよ」
屋上に出てみると、そこには麗子を取り囲んでいる大量のイリシオスが居た。
思わず足を止める歩美であったが、その隣を歩いていた明美は足を止めずに麗子に近付いていく。
「どこにあるのかしら。大人しく渡してくれるのなら、命までは取らないわ」
「あらあら…強気ね。お姉ちゃんの方は慎重みたいだけど…」
「奴は関係ないわ。私はあんたのウィルスが必要なだけ。さっさとしなさい」
「嫌だ…って言ったら?」
「…約束と違うわね」
「約束?そんなのいつしたっけ…?」
「貴様ッ…!」
明美はギリっと歯を食い縛り、麗子に向かって走り出す。
それと同時に、彼女を取り囲んでいた大量のイリシオスが明美に飛び掛かった。
第11話 後編 終
登場人物
沢村 明美
25歳。双子ではないものの瓜二つの容姿である歩美の妹。武器商人という裏稼業をしている歩美が原因で十代の頃に命を狙われたり両親を殺されたりなど壮絶な経験をしており、挙げ句の果てには事故に遭い回復不可能と言われた重傷を負ってしまう。その時に歩美が製作したウィルスを身体に投与し、そのウィルスが適合した事から生き延びる事ができた。その時から人間ではなくなり、同時に手に入れた人外の力を使って自分を悲惨な目に遭わせた歩美に復讐する事を誓い、また、罪の無い人間を巻き込む生物災害を引き起こしたりなどもした。人間である事を捨てる以前は人を憎むような性格ではなく、人見知りをする程に消極的な大人しい少女であったが、それ以降は姉の歩美以上に冷酷な性格になり、力を用いて全てを支配しようと企む悪人と化してしまった。今回町に現れたのも、新種のウィルスを手にいれる為である。使用武器は大型リボルバー"S&W M500"。