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2nd Nightmare  作者: 白川脩
歩美編
43/57

第10話


「歩美」


歩き始めてすぐに、茜が前を歩いている歩美を呼ぶ。


「何よ」


歩美は顔も向けずに、歩き続けながら返答する。


「もしも、今から向かう場所に姉さん達が居たら、どうするつもり?」


「葵の事は知らないわ。ただ、もう片方のバカには話があるわ」


「話?」


「どうしてこの町に居るのか。何か目的があるのだとすれば、奴の考えている事は知っておく必要があるの」


「どうして?」


「例えば、津神麗子が製作した生物兵器を奪い、自分の物にして戦力にする…とかね」


「戦力にする?戦争でもするつもり?」


「するとしたら、国相手かしら」


「は?」


「…思い付きでテロ行為を起こしてもおかしくない奴だからね。前に会った時、そう思ったわ。姉の私がこう言うのもどうかと思うけれど、奴はイカれてる」


「とんでもない話ね…。案外、そんな理由じゃなくて、もっと単純な事かもしれないわよ?」


「単純な事?」


「例えば、大好きなお姉ちゃんへの加勢…とかね」


「…寝言は寝てから言いなさい。有り得ないわ」


「ふふ…。どうかしらね…」


元々遠い距離では無かったので、そんな話をしている内に、二人は目的地である場所に到着した。


辺りに転がっている死体を、再び確認するように見る二人。


「…やっぱり、姉さんの仕業なのかしら。そう思って見れば見る程、そう思えてくるわね」


「間違い無いわよ。上条亜莉栖がそう言っていたじゃない」


「亜莉栖ちゃんがねぇ…。ま、あの子が嘘なんて言うワケないし、嘘をつく意味も無いわよね」


「自分の目で見るのが一番早いわ。行くわよ」


「えぇ」


二人は断続的に続いている死体を辿っていく。


辿り着いた場所は、建設途中と思われる、大きなショッピングモールのような建物であった。


「二人仲良くお買い物でもする?」


「冗談言ってないで、建物をよく見てみなさい」


歩美にそう言われ、無機質なその外観を適当に眺める茜。


特に気になる点も無く、また冗談をかまそうと茜が口を開き掛けた所で、歩美が建物の入口を指差す。


そこには、割れているガラス製の扉が見えた。


「なるほど…。誰かがここに来たって証拠ね」


「クリーチャーの仕業って可能性もあるけれど、いずれにしろ、調べてみた方が良いでしょうね」


建物に近付いていく二人。


その途中、二人は突然、同時に立ち止まった。


お互いの顔を見合わせた後、辺りを見回す二人。


突然そのような行動を取った理由を、茜が口に出した。


「なーんか、視線を感じるわね」


「…!」


歩美が建物の最上階の窓を見て、そこに何かを見つけ凝視する。


「…歩美?」


彼女の様子に気付いた茜が、彼女に呼び掛ける。


すると、歩美は茜には返答を返さずに、視線をそこに向けたままこう呟いた。


「津神麗子…!」


「…え?」


状況が飲み込めない茜を置いて、歩美は建物の入口へと走り出す。


「ちょ、ちょっと…!」


歩美を追い掛ける前に、彼女が見つめていた場所を見てみる茜。


しかし、そこにはこれと言ったものは見当たらない。


それでも、歩美が何を見たのかは、彼女が走り出す前に呟いた言葉で容易に察する事ができた。


「やれやれ…。面倒な事になりそうね…」


茜は溜め息をつき、歩美を追い掛け走り出した。



ガラス扉の割れている部分をくぐり、中に入って銃を取り出す二人。


薄暗く、不気味な程に静まり返っているその場所には、人が居る気配など感じられなかった。


「ねぇ、一応訊くけど、何を見たの?」


茜が銃口を下に向けるローレディポジションと呼ばれる姿勢で辺りを警戒しながら、隣で同じように辺りを警戒しながら歩いている歩美に訊く。


「人影よ。恐らく津神だと思われるわ」


「津神さんならイベント会場の地下に居るんじゃないの?」


「私は疑わしい人間の言葉より、自分の五感を信じるわ」


「酷い言い方ね…」


「悪かったわね」


警戒しながら奥へと進んでいく二人。


その時、消えていた照明が突然全て点灯し、四方から"ガシャン"と言う重々しい音が聞こえてきた。


「な、何…!?」


二人は背中合わせになって、銃を正面に向けながら辺りを見回す。


すると、聞いた事の無い女性の声が、建物の放送器具から聞こえてきた。


『こんばんは。突然驚かせちゃってごめんね?察しの良いあなた達4人ならもうわかってると思うけど、今この建物で喋っているのは、あなた達が探している津神麗子よ。あなた達が来るのを待っていたわ』


放送を聞き、苦笑を浮かべる歩美。


「…やられた」


「ど、どういう事よ…?」


困惑を隠せない茜が、落ち着かない様子で歩美に訊く。


「罠よ。津神は私達がここに来る事を知っていた。…どうしてかは知らないけれど」


「罠って…それヤバいじゃないのよ!」


「ヤバいわね。…さて、これから何が起こるのやら…」


会話を終え、再び放送に耳を傾ける二人。


『これからあなた達には、ちょっとしたゲームをしてもらうわ。この建物のとある場所に、素敵なプレゼントを用意したの。それを無事に手に入れる事ができたら、あなた達の勝利。途中で惜しくも力尽きてしまったら、私の勝利』


「プレゼント…?」


「………」


訝しげに言葉を繰り返す茜と、黙って放送を聞き続ける歩美。


『場所は教えてあげるわ。2つあるんだけどね、1つは屋上、もう1つは、B1階の東側にある大きなホールよ。所々の通路をシャッターで塞いであるから、気を付けてね。それと、これが一番重要なんだけど…』


マイクの向こうで小さく笑う麗子。


『1時間以内に探す事ができなかったら、この建物を爆破するわ』


「ば、爆破ッ…!?ふざけんじゃないわよ!」


思わず、大きな声が出てしまう茜。


『うふふ…。そう怒らないで?茜ちゃん』


「…え?き、聞こえてるの…?」


『あなた達の様子は、所々に設置してあるマイクとカメラで見させて貰っているわ。折角の楽しいゲーム、見届けないのは勿体無いでしょう?私を楽しませて頂戴…うふふ…』


「嬉しそうな声ね…。忌々しい…」


舌打ちをする歩美。


『あ、大事な事を言い忘れてたわ。プレゼントの内容。ほら、あなた達の中には、脱出防止の為のシャッターを容易く破壊できる子が居るでしょ?それはちょっとつまらないからね。やる気が出るように、プレゼントがどんなものなのか発表しておかないとね。地下のホールにあるのは、私が作ったクリーチャー、及びにウィルスに関する資料よ。…こっちはそんなに魅力的じゃないか』


「(私は興味あるけれど)」


歩美は心の中でそう呟き、麗子の次の言葉を待つ。


『そしてもう1つ、屋上にあるのは、私が作ったウィルスのサンプル。…うふふ、本物よ?』


「ッ…!」


先程とは違い、歩美は見て取れる程の動揺を見せた。


『気を付けて欲しいのは、どっちかを手に入れれば良いんじゃなくて、両方とも手に入れるという事よ。片っ方だけだとゲームクリアにならないから、建物と一緒に木端微塵になっちゃうからね』


麗子の説明を聞き、二人で回っていては時間が足りなくなる可能性があると判断する茜。


「手分けした方が良さそうね…。歩美、どっちがどっちに…」


「私は屋上に行くわ。あんたは地下のホールとやらに行きなさい」


「…即決ね。何か理由があるの?」


「別に。ほら、こんな下らない余興、さっさと終わらせるわよ」


「はいはい…」


ひとまず上へと上がる為、階段を探す二人。


『それと勿論、退屈しないようにちょっとしたエキストラも用意したわ』


麗子の声と同時に、二人の背後にあるシャッターが開き、その中から大量のゾンビが姿を見せる。


『他にも何体か用意してあるわ。そろそろ夜だから、私の傑作の子達も姿を見せてくれるハズよ。…うふふ。それじゃ、頑張ってね』


声だけでも愉快な気分が終始伝わってきた、麗子の放送が終わる。


同時に、現れたゾンビ達が二人に襲い掛かった。


「ちっ…。逃げるわよ!」


歩美が先にゾンビ達に背を向けて走り出し、茜も慌ててそれについていく。


しかし、二人の進行方向には、狂ったような雄叫びを上げながら走ってくる3体のランナーの姿が見えた。


「これは確かに退屈しないわね…!」


茜は苦笑を浮かべながらそう言って、走っている状態のまま銃で1体の頭を撃ち抜き、もう1体には跳び蹴りを入れて仕留める。


残った1体は歩美のデザートイーグルによって仕留められたが、左手側にあるシャッターが開き、そこから新たに4体のランナーが現れた。


「キリがなさそうね…。無視よ」


「そうね…」


ランナーに背を向け、走り出す二人。


その時、走り出した二人の元に、大きなコンクリートの塊が飛んできた。


目の前に落ちた事で被害は無かったものの、思わず足を止めてしまう二人。


「今度は何よ…!」


「あいつの仕業ね…」


歩美の視線の先には、壁を破壊してその瓦礫を拾い上げているタンクの姿があった。


茜は一度銃を構えたが、ゾンビ、ランナー達が迫ってきている事をすぐに思い出し、銃を下ろした。


「逃げた方が懸命かしら」


「えぇ。数が多すぎるわ」


タンクを無視して、再び走り出す二人。


それを見たタンクは、拾い上げたコンクリートの瓦礫を捨て、二人の追跡を始める。


「私達、人気者ね」


「冗談言ってる余裕があるのなら、どこに階段があるのか辺りをよく見て探しなさい」


「わかってますよーだ」


建設途中の無機質な通路を走り続け、階段を探す二人。


途中、分かれ道を見つけた二人は、そこで一度立ち止まった。


「どっちに行く?」


「私に訊かれても困るわね…。まぁ強いて言うなら、右かしら」


「じゃあ左ね」


「…は?」


「いいからここは私に任せなさい。あんたが間違ってて、私が合っているという事をすぐに証明してあげるわ」


歩美は反論を返そうとしたが、背後から迫ってきているランナーを見て、溜め息をついてこう言った。


「…言い合ってる暇は無さそうね。間違ってたら承知しないわよ」


「そんな事言っちゃって…謝るなら今の内よ?」


「ふん…」


不機嫌そうに鼻で笑い、先導する茜に走ってついていく歩美。


しかし、少し進んだ先にあった曲がり角を曲がった所で、二人は立ち止まった。


「あ、あら…。素敵な…シャッターね…」


「………」


行く手を塞いでいる目の前のシャッターを見て苦笑いを浮かべる茜と、その隣で彼女を突き刺すような視線で睨み付ける歩美。


「ま、まぁ大丈夫よ…。今引き返せばまだ間に合…」


振り返りながら茜がそう言い切る前に、4体のランナーが2人の前方に姿を現した。


「…何か言いたい事は?」


「…ごめんなさい」


「よろしい」


こちらに走ってくるランナーに対して歩いていきながら、銃で攻撃する2人。


2体は仕留める事ができたが、他の2体は変則的な動きで翻弄し、銃弾の回避を成功させて2人に接近する。


2人が銃をしまって体術で迎撃しようとしたその時、先程コンクリートの瓦礫を投げつけてきたタンクが、2人の左側にある壁を突き破って現れた。


「きゃあッ!?びっくりしたぁ!」


「ふざけたマネを…!」


タンクが歩美に放ったラリアットを彼女はバックステップで回避し、間髪入れずに襲い掛かってきた1体のランナーの顔面を右足で蹴りつけ、隙を見てタンクから離れる。


もう1体のランナーは茜に襲い掛かったが、腹部を蹴りつけられて動きを止められる。


そして茜はランナーの頭を両手で掴み、その掴んでいる頭を軸にして自分のすぐ左側にある壁を蹴って走り、ランナーの背後に回ると同時に壁を走った時の勢いを使って首を折った。


「歩美、今の見た?スタント顔負けのアクロバティックな動きだったわよ」


「生憎見てる暇なんか無かったわ。ゾンビの群れに追い付かれる前に分かれ道の地点に戻るわよ」


「はーい」


2人は来た道を急いで戻り始める。


茜が選択を間違えた分かれ道の元に戻ってきた時には、大量のゾンビがすぐ手前まで迫ってきていた。


「ギリギリセーフね」


「全く…。誰のせいでこんなひやひやするハメになったのかしらね…」


「誰よ誰よ」


「………」


ゾンビの群れとすれ違うように、2人はもう片方の道へと進む。


その先に、地下へと続いている階段が見えた。


しかし、隣接している上の階へと登る為の階段はシャッターで塞がれており、歩美は立ち往生してしまう。


「それじゃ、ここでお別れね。頑張ってね~歩美ちゃ~ん」


背後から迫る大量のゾンビと歩美の顔を交互に見て、嫌味ったらしくそう言い、地下へと消えていく茜。


「…覚えてなさいよ」


歩美は苦笑いを浮かべて吐き捨てるようにそう言って振り返り、ゾンビの大群に身体を向けた。


第10話 終



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