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2nd Nightmare  作者: 白川脩
歩美編
38/57

第5話


「感動の再会の最中に悪いのだけれど、先にここから脱出した方が良いと思わない?お二人さん」


再会を喜ぶ桜庭姉妹の2人にそう言ったのは歩美。


「脱出するって…どうやってですか?」


飛鳥が訊く。


「それは今から考えるわ」


「それならもう考えてあるよ」


そう言って歩美の元にやってきたのは、結衣であった。


「…どういう事?」


「私達が使った酸素ボンベがまだ使える。泳ぎが苦手だろうが、水流が2人を運んでくれるさ」


「そう…。それなら、あんた達に任せるわ」


「え?お前は?」


「2人の護衛に4人も要らないでしょうが。津神麗子の捜索に戻るわ」


「冷てぇ奴だなぁ…。最後まで一緒に居てやれよ」


「無意味だわ」


「あーあー…はいはいわかりましたよ…」


呆れた様子で溜め息を吐く結衣の元を離れ、歩美は茜の元へ向かう。


「…何やってんのよ」


茜は、梨沙の背中に抱き付いていた。


「沢村さん助けてください。この人変態です」


「それは知ってるわ。…茜、離してやりなさい。嫌がってるでしょう」


「嫌がってるなら仕方ないわね」


「ほら早く。行くわよ」


「だが断る」


「………」


「あんもう怒らないでよ。わかったから銃はしまいなさい。ごめんね梨沙ちゃん。続きはまた次に会った時という事で」


「二度と会わない事を心から願います」


「あら…もしかして私嫌われちゃった?」


そんな茜を、鼻で笑う歩美。


「当然ね。行くわよ」


歩き出した歩美を、茜は引き止めた。


「ちょっと待って。2人はどうするの?」


「結衣達に任せれば大丈夫よ。私達までついていく必要は無いわ」


「えー?最後まで一緒に居ましょうよ。もしかしたら道中にスクール水着が2つ落ちてるかもしれないじゃない。そしたら2人のスク水姿が拝めるわ」


「あんたの頭ん中は一体どうなってんのよ…」


「冗談はともかく、まぁ見たいってのは冗談じゃないんだけど…。本当にここで別れるの?」


「私達がこの町に来たのは、彼女達を助け出す為じゃないわ。津神麗子を探す為よ」


「それはわかってるけど…。じゃあせめて、お別れぐらい言わせて?」


「…勝手にしなさい」


結衣達と一緒に居る桜庭姉妹の元へ行く茜。


歩美はそちらを見向きもせずに、別の方向に顔を向けたまま茜が戻ってくるのを待つ。


しばらくすると、背後から足音が近付いてきた。


「もう済んだの?」


「沢村さん」


歩美は茜が戻ってきたのかと思ったが、やってきたのは飛鳥であった。


「…どうしたの?」


「えーと…その…お別れの挨拶を…と思って…」


「………」


表情を変えずに、飛鳥を見つめる歩美。


「奈々と無事に再会できたのは、沢村さんと神崎さんのお陰です。本当に、ありがとうございました」


「…そんな事を言う為だけに来たの?」


「え?」


歩美は少し赤くなっている顔を隠すように、彼女に背を向ける。


「さっさと行きなさい。私は人に感謝されるような人間ではないわ」


「………」


「…?」


飛鳥が喋るのを待つ歩美。


飛鳥は力無く笑い、こう言った。


「…沢村さんがどんな人なのかは確かにわかりませんけど、私には、悪い人には思えません」


「………」


「もしも悪い人だったとしても、私は沢村さんに感謝しています。これだけは、ハッキリと伝えておきたいです」


「…そう」


「…それじゃ、行きますね。お元気で」


歩美の背中に軽く一礼して、結衣達の元へと戻っていく飛鳥。


「どう?少しは、うるっと来た?」


入れ替わるように、茜が戻ってきた。


「…三文芝居に付き合う気は無いわ」


「ふふ…。あっそ…」


歩き出す茜。


「………」


茜にバレないように、飛鳥が居る方に顔を向ける歩美。


飛鳥はこちらを見ていたらしく、歩美と目が合うと、嬉しそうに笑い、手を振る。


歩美は小さく笑って軽く手を挙げて見せた後、茜に続いて歩き出した。



結衣達と別れた2人は、ひとまず当初の目的地であるイベント会場へと戻る事に。


道中、歩美が結衣との約束を思い出し、無線機を使ってとある人物に連絡を入れる。


「紗也香。私よ」


その相手は、歩美の直属の部下である、藤堂紗也香であった。


『はい。なんでしょうか』


「町に物資を送りなさい。弾薬だけで良いわ」


『了解しました。場所の指定をお願いします』


「そうね…。中央区のイベント会場に隣接しているマンションがあるの。そこに頼むわ」


『隣接しているマンション…ですね。わかりました。一時間以内に送ります』


「そうして頂戴。じゃあね」


通信を終えた歩美に、茜が喰い入るようにこう訊く。


「紗也香ちゃん!?ねぇ紗也香ちゃんなの!?」


「何よその反応」


「あの子凄く可愛いじゃないの。スタイル良いし、謙虚で誠実な所も評価できるわ」


「まぁ、誠実なのは間違いないわね」


「…あんた、変な事してないでしょうね」


「するか…!」


それからしばらくの間、特にこれと言った会話も無く、二人はイベント会場に向かって歩き続ける。


しかし、不意に茜が、こんな話を切り出した。


「ねぇ歩美。こんな事訊くのはちょっと気が引けるんだけど…」


「何よ」


「もう引き上げない?」


「…はぁ?」


「いや何というか、別に津神麗子さんを捕まえた所で私達に得は無いワケだし…。意味もなく危険な目に合ってるだけな気がしてきたのよ」


「今更何を言って…」


一旦言葉を切って呆れたような溜め息を吐いた後、話し始める歩美。


「…いい?あんたは私に雇われている身なの。そうである以上、私が右と言えば右、左と言えば左、つまりは私に絶対服従よ」


「何だかいやらしい言い方ねぇ…。それはそうと、私はあなたに雇われてるって言ったけど、私はあなたから何も貰っちゃいないわよ?」


「何がお望み?金?武器?」


「女の子」


「………」


「冗談よ。それで、さっきも言ったけど、そもそも何か得があるの?」


「話してなかったかしら?得っていうのは、彼女の実験を止める事にあるわ」


「…?」


「昨日見たでしょう?あんなクリーチャーが世に放たれたら、どうなると思う?」


「…言わずもがな、ね」


「彼女の凶行は何としても止める必要があるわ。これ以上、悪夢を生み出さない為にね」


「あら、随分と正義感が強いのね。あんたらしくもない」


「まぁ、私の商売の邪魔になるって言うのもあるのだけれど」


「…まだ懲りてないって事?」


「違うわよ。生体兵器が主流になってしまったら、銃器の売れ行きが多少なりとも悪くなるじゃない。言っておくけど、私はもう銃器専門だから」


「銃なら問題無いみたいな言い方だけど、それ大分間違ってるわよ…」


「それは知らなかったわ」


そこで一旦会話は途切れたが、少し経った所で、不意に歩美がこう呟く。


「…実際、罪悪感は感じてるわ」


「え?」


「罪滅ぼしよ。言うなれば」


「罪滅ぼし…か」


「何よ」


「いえ、何だか懐かしいセリフのような気がしてね…」


「懐かしい?」


「何でもないわ。とにかく、津神麗子さんを止める為に急ぎましょうか」


「…そうね」


ゾンビが彷徨く大通りを歩く2人。


寄ってくるゾンビだけを仕留めながら、2人は進んでいく。


ここまで銃は使っていなかったが、同時に3体が襲い掛かってきた際に、歩美が発砲する。


その銃声と同時に、裏路地からランナーが現れた。


「どうするの?あんたが発砲してくれたお陰で、厄介な奴が駆けつけたけど」


「とりあえず避難よ。ついてきなさい」


そう言って、道路の真ん中に転倒しているトラックの上に移動する歩美。


茜は飛びかかってきたランナーの頭を素早く撃ち抜いた後、歩美を追い掛ける。


「ねぇ。こんな高さ、奴らは普通に登ってくるんじゃないの?」


「登ってくるでしょうね」


「…はぁ?」


「だから迎撃するのよ。地上よりはマシでしょう。そんな事もわからないのかしら?」


「…口喧嘩なら、後でいくらでも相手してあげるわよ」


「あんたと口論した所で、私には何の得も無いと思うのだけれど」


「そーね…」


歩美との会話が面倒臭くなった茜は適当な返事で話を終わらせ、トラックの上によじ登ってきたランナーを蹴り落とした。


通常のゾンビもトラックを囲むように集まってきたが、登る身体能力は無いので、2人の脅威にはならない。


唯一の脅威であるランナーも登っている隙に仕留める事ができたので、2人は現れたランナーを全て難なく撃破した。


「片付いたようね」


銃を下ろす歩美。


「下で群がってる連中は?」


呻き声を上げながらこちらを見上げているゾンビ達を見下ろしながら、茜が訊く。


「無視よ。時間の無駄だわ」


「そうは言っても、どうやって降りるつもりよ?四方八方包囲されてるけど」


「普通に飛び降りれば良いじゃない」


「は?」


「先に行くわよ」


歩美はそう言って、トラックの荷台の後部に歩いていく。


そして、運転席の方へ走っていき、助走をつけて大きく跳躍し、トラックから離れた場所に着地した。


「本当に好きねぇ…。飛んだり跳ねたり…」


愚痴をこぼしながらも、茜も歩美と同じようにトラックから飛び降りる。


ゾンビ達はのろのろと2人に向かって歩き始めたが、すぐに走り出した2人に追い付く事は無かった。



走り続け、ゾンビ達の姿が見えなくなった所で、2人は裏路地に入って一息つく。


「追手は居ないようね。一息つけましょう」


「飲み物も無しに、どう休憩しろって言うのよ」


「その辺に寝転んでれば良いじゃない。水ならそこにドブがあるわよ」


「…素敵な提案ね」


茜は大きな溜め息をつき、近くにあった建物の階段に腰を下ろした。


「それで、戻ったらどうするの?」


「捜索よ。しらみ潰しでね」


「しらみ潰しって…。あの場所を何の手掛かりも無しに彷徨くっていう事?」


「まぁ、そういう事になるわね」


「あの場所がどうなってるのか忘れたの?そういうの自殺行為って言うのよ?」


「へぇ。それは知らなかったわ」


「あのねぇ…」


茜は話を続けようとしたが、歩美は聞く耳すら持たずに無線機を弄り始める。


それを見て、茜は諦観した様子でこう訊いた。


「…誰に掛けてるの?」


「恭子よ。今気付いたのだけれど、彼女達とは一度も連絡を取ってなかったわ」


「今更気付かないでよ…」


「悪かったわね」


恭子に連絡を入れる歩美。


「………」


恭子は、応答しなかった。


「…出ないの?」


心配そうに訊いてくる茜。


歩美は答えずに、亜莉紗に連絡を入れる。


「…参ったわね」


亜莉紗も、応答しなかった。


「探しに行った方が良いんじゃないの?万が一って事もあるし…」


「恭子に限ってそんな事はないと思うのだけれど…」


「万が一よ」


「わかってる…」


歩美は面倒臭そうにそう答え、今度は結衣に連絡を入れた。


『はいはい』


「私よ」


歩美の声を聞いた途端に、結衣の声のトーンが下がる。


『…頼み事なら、恭子に頼みな』


「へぇ。よくわかったわね、頼み事だって」


『第六感が効いた。…用件は?』


「あんたが用件をたらい回しにしようとした恭子と連絡が取れないのよ。心配だから、見てきなさい」


『…亜莉紗は?』


「取れていたのなら、こうしてあんたに連絡していないでしょうね」


『………』


何かを考え込んだ後、結衣はこう訊く。


『2人は今どこに居んの?』


「さぁね」


『…はぁ?』


「私が知るワケないでしょう。南側を探せば居るんじゃないの?」


『そんな無責任な…』


「頼んだわよ。…あぁそれと、一時間後に物資が届くわ。場所は届いてからまた連絡してあげる。それじゃあね」


結衣の返答を待たずに、無線を切る歩美。


「結衣ちゃん達に頼んだの?」


「えぇ。あまり寄り道ばかりしていたら、いつまでたっても帰れないもの」


「それはそうだけど…。まぁ、あの二人なら安心して任せられるわよね」


「そういう事。私達はイベント会場に行くわよ」


「ちょっと待ちなさいよ。その提案についてはまだ納得してない…」


「いいから、黙って、ついてきなさい」


嫌味っぽく、ゆっくりとそう言って、歩美は歩き出す。


「はいはい…。わかってるわよ…。今更どうとも思わないわよ…」


茜は大きな溜め息をつき、歩美を追って歩き始めた。


第5話 終



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