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第4話 南国勇者と酔っ払い僧侶地獄の引き抜きパーティ!

「着きましたよ先輩」


 サイコロフライ繁華街の中心部。ここが噂の『パーティナイト』か。

 セリナが言っていた通り新装開店の華が大量に送られてきている。

 すでに人だかりが出来ており、大繁盛が外からでも伺える。


「いらっしゃいませえええ」「いらっしゃあああせええええ!」


 ウエイターがこちらに気付き大声を張り上げる。周りの慌ただしく働くビールを持ったウエイターも呼応する。驚いた、なんだこの威勢は。


「お客さん!何名様ですか?」


「ああ……2名だが、混んでいるな。 無理そうか?」


 威勢のいいウエイターが飛び出してきたと思いきや人数確認。そりゃ外で並んでいるもんな。まあそう簡単に入れないか。明日出直そう……とした矢先。 


「えっと……すいません、見た感じ僧侶の方?」


「ええああまあ……そうだけど……」


 ウエイターの唐突な質問に、少し驚いたが隠す道理もない。


「「「僧侶2名入りまあああああああああっす!」」」


うおおおおおおおおおおおおおおおおお


 周りから怒号と歓声が飛び交う。ウエイターに案内され中に通されるが、セリナはお化け屋敷に入るかの如くマヤの後ろにピタッとくっついて離れない。


「セリナ説明しろ、なんだこの状況は」


「わかりません……でも雑誌に僧侶大歓迎って書いてました」


 うーむ。どうやらグランマの言う通り僧侶を欲しているのか。やけに他テーブルからの視線が熱い。くっそなんでこういう日に限ってメイクのノリが悪いんだ。


「ハイ!セルトッケ麦芽のビールおまちい!」


「ええ!? 頼んでないです!」


 ウエイターが頼んでもいないビールを机に運んでくる。セリナが断ったがウエイターは続ける。


「あちらの戦士様からの……」


 ウエイターが手をさすのはムッキムキのゴリゴリ戦士。すまんがタイプではない。

 えへへと手を降って愛想を返す。


「お嬢さん方。僧侶なんだってね。どうだい。ぜひ我パーティーに」


 後ろから声がかかる。魔法使いか。遊び人上がりだなこいつ。チャラすぎる。


「すいません、状況が読めなくて……お酒を飲みに来ただけなんです。ごめんなさい」


 テキトーにあしらう。


「おい!そこの魔法使い!勝手に話し進めてんじゃねえ!」


「なんだよ!うるせーな!こっちも僧侶欲しいんだよ!」


 ガヤガヤと物騒になってきた。なんとなく状況は読めてきたぞ。回復役である僧侶を全パーティーが欲している状況。

 そこに私たち2人「ザ・僧侶」が登場したわけだ。


「先輩。とりあえず飲みましょ?すいませーんおかわりー」


「おいセリナ!もう飲んだの!? はやいよ! ちょっと」


 マヤが状況を確認している最中、グビグビと先ほどのビールを1本開けるセリナ。こういうところが天然なのよ。まったく。


「僧侶さん! いい飲みっぷりだね! おいウエイターもう一杯この子たちにビールだ!!」


「えっ?! すいません……お金は後で……」


「いやいいんだ、いいんだ!後で『ひいき』に頼むぜ!」


「はあ……」


 勝手に貸しを作るな後輩よ。どうなっても知らんぞ。


――


「レディイイイスエーーーンジェントルメーーーンアンド ナイト アンド マジシャン アンド プリースト エーーーーーーーーーーーン……」


「「「「なげーよ!!」」」


 ホール中一斉にツッコんで笑う。ここのいつものやり取りだろうか。バーの中央に立っていた髭を生やしたマスターと思わしきオッサンが大声を張り上げた瞬間、一斉に集中突っ込みを受ける。。


「なんか始まるぞセリナ」


「ふえぇ……」


 くそ。しっかりしろ。酔っ払い巨乳め。


「さあーてお待ちかねの時間がやってきた! 今日の勇者様は3人だ!」


「3人も!マスター今日は大盤振る舞いだな!!」


「勇者様!!!俺を拾ってくれー!!」


 勇者が3人。どういうことだ。いかん。ルールがわからんぞ。


――


「そこのかわいい僧侶さんたち初めてか?」


 聞き覚えのある声。そこにはさっき5万ゴールド払うことになったマテリアルドラゴン詐欺剣士のディーゼルがビール片手に立っていた。


「あっ……詐欺剣士」


「だーれが詐欺剣士だ!実際にドラゴン倒したっつーの!」

かなり悪酔いしているディーゼル。マヤの座るテーブルに進入してくる。

「すまんがこの状況が呑み込めなくてな。教えてくれ」


 この町に来て数少ない知り合いに会えて安堵するマヤ。早速質問をぶつけてみた。

セリナは酔っ払ってふらふら宙を見ている。



「おいオッサン、ウチあれ食いたい」


「おうおう頼め、5万からひいとくぞ……く・そ・ガ・キ」


 目線をディーゼルの背後にやると、拳法少女アカネがステーキをオーダー。しっかり天引きされている。


「アカネちゃん。こんばんわ。さっきはすごかったね。手は大丈夫?」


「あっ! さっきのおねえさん! あの。なんか……さっきの時……」


「良かったー!!手は無傷ね!!」


 やばい!ディーゼルに聞かれる所だった。私が『攻撃倍加(ガケタル)』したのがバレるのはまずい。


 アカネは気付いている様子だが、マヤに遮られ「言っちゃだめだ」と目くばせされた。

 ニヒヒと笑って運ばれて来たステーキにかぶりつくアカネ。


「で、続きだが。この酒場は勇者が訪れパーティを作っていく『引き抜き型』の酒場だ」


「引き抜き……」


「そう。今日は3人の勇者が来て指名してくる、まあ受けるかどうかは君次第ってことだな」


 グイッと飲み干すディーゼル。


「じゃあここにいるのはパーティー志望者ってことか?」


「いんや。そうとも限らん。ほら、戦闘にだって連携があるだろ?

 こっちはこっちでパーティー組んでるやつらもいる。そいつらは団子で引き抜かれるかどうかだな」


 なるほど。で、パーティに僧侶がいるとなお選ばれやすいってことか。


――


「さあ!一人目の勇者は!!!!」


「お、始まるぞ」


 身を乗り出すディーゼル。こいつも勇者に同行したい一人か。


「南の都!オキーナ王国の王子!パイナ4世!!張り切ってどうぞ!!」


 そこには現れた勇者に目を奪われるマヤ。目は大きく、くりくりとしていて、身長180はあるであろう身の丈。しまった筋肉はバキバキに割れていて、素肌に鎖帷子(くさりかたびら)を纏い、頑丈そうな革製のパンツをはいた20代前半の青年が立っていた。


「俺、パイナ=デュフィンっていいます。よろしくゥ!」


 キャアアアアアアアアアアアっと酒場の反対側から黄色い声援が飛ぶ。


「おいうるせーぞ魔法使いども!!」


 会場のむさ苦しい戦士がイケイケ魔法使い集団に悪態をつく。


 そして奇声は出さないが涎を出す奴が一人。


「やば。南国系ワイルドじゃん」


「お姉さん、心の声でてんで」


 アカネに突っ込まれるマヤ。


「おいディーゼル! ここで立候補したら選ばれんのか!?」


「ああ、まあそうだな僧侶だったらいけんじゃないか?」


 涎がこぼれそうになるのを抑えながら立候補のタイミングを待つマヤ。


「お姉さん、演説聞いてからにし、案外ああいうのアホやで」


 冷静なアカネの言葉に落ち着きを取り戻す。確かにああいう南国育ちはアホいる可能性がある。


「ふぁい!!!わらひ!勇者様についていきまあああす」


!!!!!!!!!????????


「おい!セリナ酔いすぎだ!バカ!!」


 さっきまで酔いつぶれていたセリナだが悪酔いかよくわからんが謎の立候補。


「おおおっと立候補か!?演説前だがどうしますか勇者様」


「すいません! 勇者様! 酔ってるだけなんです!」


 フォローするマヤ。どよめく会場。ざわめきを勇者が遮る。


「いいね。おいでよ」


うおおおおおおおおおおおおおおおおお。


 ざわめきが歓声に変わる。


「おいおいおい! 南国勇者に立候補すれば巨乳僧侶と同行できるぞ!」


「勇者様ああああああああああ!」


「勇者様! わたしぃぃ魔法使いだけど、回復も少しできるの!!」


 沸きに沸くホール。一斉にアピールタイムがスタートする。


「お静かに!先ほどは特例です!!……ごほん。では勇者様演説を」


 割って入るマスター。ホールを静寂に戻し、勇者に演説を促す。


「演説……あんま考えてないや!とりあえず王国に帰ってバカンスしながら考えるんでー。

 そうだなー僧侶いるからー戦士とー魔法使いとーまあそんな感じかな。あははよくわかんねーや」


 やばいこいつ相当アホだぞ。演説から知性のかけらの一つも感じない。マヤはアカネのほうを見る。

 アカネも「やっぱりな」と言わんばかりのどや顔だ。


「おいセリナあいつはやめとけ!って……あれ?」


 セリナに辞めるよう言おうとしたが、セリナがいた場所には、ディーゼルが座っていた。


 あれ?セリナどこいった。


 ディーゼルは「あーあ」といった表情で目を覆いながらステージを指さす。


「勇者さまああん。よろしくうう」


 セリナは勇者の頬にキスをして手を降っている。

おいおいおいおい! 完全にバカだ。悪酔いクソ僧侶すぎる。他人のフリがしたくてたまらない。


「いいよ僧侶ちゃん。4人ぐらい適当に選んで」


ステージで勇者とセリナはいちゃつきながら話す。


「ええーいいのぉ?じゃあそこの短髪イケメン戦士君とー、いかにも元遊び人って感じのー魔法使いの君とー」


 見てられない、なんだこの低俗なパーティーは、あああもう!時間が戻せたら!!くそ!


「あとはーあのお兄系の武闘家ー」


 選ばれた『顔がいいだけ』のパーティはさながら、資産家の娘がイケメンホストを連れ歩くようなパーティに仕上がった。


「さああ今夜新たに魔王を打ち砕かんとするパーティが一つできました!意気込みをお願いします」


マスターは締めに入る。


「まあとりあえず仲間ができたので、一回戻ってパーッとやって。仲間の「絆」たかめあって。ちゃちゃっと魔王やっちゃいますんで! よろしくうう!」


 そういうとホスト御一行、じゃなかったセリナのパーティーは裏に捌けて行く。


 だーめだこりゃ。マヤはビールを飲み干すと机に突っ伏せ深いため息を一発。


「さあ続いて2人目の勇者様です! どうぞ!」


マスターが2人目の勇者を呼び込む。暑い夏の夜はまだまだ長そうだ。


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