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第3話 胡散臭い剣士とサイダー神拳

「さぁー寄ってらっしゃい見てらっしゃい! ここにいるのは伝説の剣士! あの3都市を滅ぼしたマテリアルドラゴンを倒したのはこのお方ァアア! さあ寄って寄って!」

 

 サイコロフライの路地を行くマヤとセリナだが、なにかと騒がしい人集(ひとだか)りに目を奪われた。


「おいセリナ! なんかやってっぞお」


「ちょっと先輩! はぐれますよ! 本当にこのおばさん、はしゃぐなぁ」

 

 烏合の衆をかき分けどうにか見える位置まで到達することに成功したマヤ。人だかりの真ん中には、ドカッと樽に腰かけた中年の剣士と、その子分だろうか客引きに大声を出し注目を浴びていた。


「さぁさぁここにあるのはダイヤモンドよりも固いといわれているこの物体! なんだと思う? そこの少年! わかるかぁ?」

 

 直径60センチほどの(いびつな機械片が特殊な台に固定されており、黒光りを放っている。指されたのはそれを見ていた少年。ギョッと驚くと顔を赤くして反論した。


「少年ちゃうわ! 女じゃ! あほ!」


 観客はドッ沸いて、少女をじろじろ見る。ますます少女は赤くなった。


「おっとごめんよ嬢ちゃん。……これなんだかわかるかい?」


「知らん! うち田舎から出てきたばっかやし」


「わからないか……そうか。誰か! 分かる奴! いないかぁ!? いない……ようだな!……!ディーゼルさん!『誰もこれを知らないみてえだぞ!』」


 お決まりのセリフだろうか、子分が叫ぶと中央に座っていた剣士が、よっこらせっと立ち上がり不敵に笑う。

 男は、漆黒のマントを羽織った無精ひげなおっさんだが、腕には多数の切り傷が見え隠れし、歴戦を物語る。腰には日本刀のような面長な細めの長剣が携わっている。


「俺の名はイザナギ=ディーゼル! これはな俺が10年前! マテリアルドラゴンを倒した時報酬としてもらったその翼の一部だ!」


 観客たちはどよめく。


「先輩、マテリアルドラゴンって……」


 セリナは驚きマヤに耳打ちをする。


「ああ。聞いたことがある、10年前の『魔の2週間』のうちのひとつ。破壊竜マテリアルドラゴンによる厄災。名の知れない剣士が魔剣で両断したと聞いたが……」


「じゃあやっぱりあのディーゼルって人がドラゴンを?」

 

 マヤたちの考察を遮るように剣士は続ける。


「マテリアルドラゴンはご存じ『機械』龍だった。それくらいは知ってるだろ? ニュースにもなった。炎魔法、氷、風、雷。すべてが無効化されていた。

 だぁあがしかし! ここにあるイザナギ家に代々伝わる魔剣! 名を『天業雲剣(あめのむらくも)』こいつを使い、悪災を追い払うことに成功したァ!」


 ディーゼルは剣を鞘から抜き天に掲げ注目を集める。『天業雲剣』は輝きを放ち群衆を照らす。


「さぁここからが見もの。このドラゴンの翼。非常に硬い! この剣の能力をもってして両断できたってわけだ。さあ誰か。この翼を打ち砕けるものはいないか! もぉし、ひと欠片でも! ひとヒビでも入れることができれば、5万ゴールドだ! さあ誰かいないか! 挑戦者ァ!」


 驚いた。金のにおいがする胡散臭いショーにも驚いたが、本当にマテリアルドラゴンの翼の一部なのか。5万ゴールドという大金がマヤたちの信憑性を高めた。


「さぁ誰かいないか!」

 

 ディーゼルが観客をはやし立てると、集団の後ろのほうからヌッと大木のような腕が伸びた。


「オレがやる」


 集団をかき分け、身の丈2メートルはあろう大男がヌっとでてきた。


「おおこれは期待できそうだ。チャレンジは3回だ、さあどうぞ!」


 そういうと男は自前の斧をグオオっと振りかぶり一閃


――しかし翼はびくともしない。

 

 間髪入れず大男はハンマー投げのように頭上でグルリと斧を一回転させ、ドタタッとステップを踏み真一文字に振りぬく。


――ガギギギギ!!!と金属音と火花が散ったが……翼は無傷のようだ。


「ハァ……参った。硬いな」


 斧をガインと地上に落とす大男。手のしびれが限界のようだ。


「おっともう終わりか?あと一回シバけるぞ?」


 にやつきながら煽るディーゼルだが、大男は目を伏せダメダメと手を降る。


「だめだ。こっちの斧がもう使い物にならねえ。降参だ」


「フハハどおだ! これぞ本物のマテリアルドラゴンの翼だ!」


 ニカッと歯を見せ天を仰ぐと自慢げに叫ぶディーゼル。

 

 それを合図に、子分は観客にお金をせびる。帽子を入れ物にして回収してまわった。まったく、小慣れたショーだな。……でもまあ確かに本物かも。マヤは感心し10ゴールドチップした。



――


「さあ次の挑戦者はぁ?」


 すると観客の前方でドヨッっと声が上がった。


 なんと先ほどの質問を受けた、少年のような少女が手を挙げているではないか。14、5歳だろうか。褐色肌に短髪だがかわいいヘアピンがかろうじて乙女を匂わせている。


「お、嬢ちゃんやるかい? 拳法着のようだがぁ。武闘家か?」


「西の都『オクトパスバーン』からきた。アカネや」


「ほぉ。西の都から遥々やって来た……ん? あんたオクトパスバーンと言ったか?」


「そうや。マテリアルドラゴンに、オトンもオカンもやられた」

 

 アカネは眉間に皺を寄せ、クッとくちびるを噛みしめた。あかねの握りしめる拳に闘志が宿る。


 観客はそれを聞くと一瞬シンっと黙った。しかしそんな少女の健気な挑戦に観客たちのボルテージは上がる。


「いけえ! 嬢ちゃん! 親の仇だ!」


「そうだ! やってしまえ!」


 観客の熱気はどんどんあがっていく。


 呼応するようにディーゼルも客を煽る。あちこちで小さな「賭け」を発生させ子分を回し、小銭をかすめる。まったくいいビジネスだな。頭が下がるよ。


「よーし嬢ちゃん。チャンスは3回! ひとヒビでも入れれば、5万ゴールドだ! さあ親の仇! 壊してみろ! 行けぇ」

 

 アカネはぴょんぴょんと、その場でステップを踏むと手を合わせスウっと息を飲んだ。


「大丈夫や。ウチの『サイダー神拳』は負けへん」


 少女はゆっくり腰を落とし構え自分に言い聞かせる。突き出された左手は照準の代わりか、片目で獲物を捕らえる。

 振りかぶられた右腕はシャカシャカと腕を上下に振り、見たこともない構えへと変貌していく。


「ハアアアア! 炭酸突きィ!」


 地面は踏み込みで割れ、鋭い拳は翼に触れると『ガァアンッ』と鈍い音が響いた。

 おおおおおっと観客は歓声をあげるが、やはり翼は無傷。


「もういっぱああつ!」


 少女が先ほどより鋭い踏み込みで逆の手を突き込む。

 ……が、鈍い響きの2度目は観客の悲鳴で空気が変わった。


「おい血が出てるぞ!」


「おい剣士!やめさせろ! 流血だ!」


 2発目の突きでアカネの拳は砕かれた。拳は裂け血が噴き出る。

 

 観客が目を覆いながら止める様ディーゼルに促すが、アカネの闘志は止まらない。


「あの子すごいガッツだ。なかなかやるじゃない」


 にやりと笑みをこぼすマヤ。こういう熱血は嫌いじゃない。


「もういっぱああああつ!」

 

「おっと嬢ちゃんここまでだ」


 鬼神の如く力を込めた一撃に全神経を集中させるアカネを止めたのは、ディーゼルだった。

 アカネの腕をグイッと掴み3度目の踏み込みを止めた。


「なんでや! 3回いうたやろ!」


「ばかやろう。血が出てる!終わりだ」


「右はまだ血でてへん! 離せ!」

 

 ジタバタ暴れるアカネ。


「ちょっとどいて」


「あっ先輩!」


 マヤはズイズイとさらに前にいる観客を割って入り、円の中心へと進む。

 そしてアカネの前まで到達すると優しく拳を包み込んだ。


「大丈夫?治してあげるからじっとして」

 

 マヤは『回復魔法(リカイフル)』を詠唱破棄で唱える。みるみる血が止まり、皮膚が再生する。


「おおきに、おねえさん。これでもう一発撃てそうや。……なあええやろ? おっさん」


 アカネは、少女らしい可憐な顔で、ディーゼルにお願いする。


「……ああ、あと1回だな」

 

 そういうとアカネはニコッと笑顔になり、ガシガシと拳を合わせる。


「すまねえな。あんたその恰好、シスターか? もう一発でこいつがまた怪我をしたら、頼めるか?」


 馴れ馴れしいディーゼルの頼みにムッとしたが、小さい女の子が傷つくのも見てられない。


「ええ、いいけど。あなた本当に5万ゴールドあるの? あの子本当にやるわよ」


 ディーゼルはブッっと吹き出し笑い答える。


「ねーよ。割れるわけねえ」


 マテリアルドラゴンと対峙した経験からか、物体の硬さに自信を持つディーゼル。彼の話は本当なのだろうか。


――そうだ。試してみるか。


「へえ。なかなかの自信ね……じゃあ絶対割れないんだ。へぇー」

 

 マヤはニタニタ笑いアカネの背後に回る。


「アカネちゃん! おもいっきりいきな。どんな傷でもすぐ治してあげる」


「えへへ。お姉ちゃん、優しいなぁ。わかった。思いっきり行ったる!」


 そういうとマヤはアカネの肩をガシっと叩き、詠唱破棄で『攻撃倍加(ガケタル)』を多重する。

 

 アカネはグンと腰を落とし、息吹を始めた。


「よし、行けアカネ」


 ニヤッと笑うマヤ。サプライズは大好物。一番の理由は、このマテリアルドラゴン詐欺剣士の天狗鼻をへし折ってやりたいのよ。ここにいる半数以上が思ってるはず。どうせショーでたんまり儲かってるんでしょ。


「行きます!!!サイダー神拳奥義!!」


 アカネは引いた拳を上下にブンブン振る。


「……シャカシャカシャカシャカ!」

 

 どういう原理なのか、マヤにしか見えていないのか、アカネがシャカシャカ振る腕はドンドン金色のオーラを(まと)って行く。


「いくでぇ……オッサン……ほんまに5万ゴールドやぞ……」


「ちょっとちょっと! 攻撃力が!!」


 マヤが叫んだが、時すでに遅し、アカネの奥義は止まらない。


 「「「炭酸噴火拳(たんさんふんかけん)!!」」」

 

 踏み込んだ足は、鉄球がコンクリートに落ちたような轟音を立て、大きなクレータを作る。そして翼に拳がぶつかった瞬間。

 固定されていた留め具ははずれ、一瞬にして観客の真横をかすめる。通りの反対側の壁に落雷でも落ちた様な、衝撃音を立て翼片は勢いよくめり込んだ。


 おおおおおおおおおおおおおおおッと歓声があがる。


「ディーゼルさん! 割れちゃってます!」


 確認した子分が大声で報告を入れる。


「ハァア!? うっそだろ……」


 肩を落とし、樽にうなだれるディーゼルを他所に、観客は一気に宝くじ当選会場のような熱気に包まれる。パンチ3発目の大逆転満塁ホームランだ。


 アカネはキョトンとして自分の拳を握り直す。


「なんや今の力……ああ! あのお姉ちゃん?!」


 周りを見渡すアカネだがそこにはもうマヤの姿はなかった。


「なあ嬢ちゃん。5万ゴールドだが……50回ローンでどうだ……」


 ディーゼルは冷や汗をかきながらアカネに交渉するのであった。


――


「先輩やりすぎですよ!!」


「ああ……『攻撃倍加(ガケタル)』5乗はやりすぎた」


「あなた自分に掛けるとき3乗なのに! ってか、あんな一瞬で詠唱破棄で5乗掛けるほうが異常ですけど!」


「ちっさい子だったから、舐めてたわ。サイダー神拳おそるべしだな! ははは」


速度倍加(シアタル)』で逃げるように集まりから離れるマヤとセリナ。パーティ酒場「パーティナイト」はすぐそこだ。



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