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― 一哉 ―



「さっきの男、知り合い?」


  VIP専用のエレベータに乗り最上階へ向かう途中、一哉が私に問いかける。


「うーん??知り合い…なのかな?話しかけられたから相手をしていただけよ」


「……」


  私が知らない男と話をしていたのが気に入らなかったのか、一哉は私の腰に腕をからめ抱き寄せた。


「その美しい瞳であの男を見つめたの?」


「―――」




……―――――


『具合でも悪いのか?』


  勤めていた会社の新社長就任パーティーの日。ホテルにある大きな会場の隅で俯き過ごしていた私に今日の主役である一哉が声を掛けてきた。


『大丈夫です。ご心配おかけしてすみませんでした』


  瞳の色を知られたくなくて下を向いていましたなんて社長の前で言えるはずもなく、私は首を横に振った。過去のトラウマの所為で社会に出るようになってからはカラーコンタクトをしていたのだが、今日に限って家に置いてきてしまっていたのだ。早口に捲し立てその場を離れようとする。


『きゃっ』


  慌てていたせいで周りを見ていなかった私は、人とぶつかり服にシャンパンがかかってしまった。なんという失態だろう。


『…失礼するよ』


  恥ずかしくて座り込んでしまった私の身体が宙に浮く。抱きあげたのは一哉だった。突然の事に呆然とする私を抱えたまま一哉は近くに居た秘書に指示を出し、そのまま会場を離れホテルの部屋に私を連れていった。


『あ、あの…』


『服が濡れてしまったね。シャワーでも浴びるといい、その間に代わりのものを用意させよう』


『そこまでしていただかなくても…私このまま帰りますから』


  初対面でさらに社長なのに、一社員の私なんかに色々としてくれる事が何だか申し訳なくて、部屋から出ていこうとする私を一哉は引き止めた。


『…もしかして迷惑だったのかな?』


  シュンと項垂れてしまった一哉が何だかイタズラして怒られた小さな子供のように見えて、私は思わず一哉の手を取ってしまった。


『いえ、そうではないんです。私のほうが迷惑をかけてしまっているので申し訳なくて』


  その言葉を聞いた一哉が顔を上げた。


(あれ?この人の瞳…黒髪に碧色、私と一緒ね)


  私はそこで初めて、一哉の瞳が碧色をしていることに気付いた。


『そんな事気にしなくていい。…ところで君の名前は?』


『藤野瑠璃子です』


『瑠璃子って言うのか…瞳の色と同じだね、とても綺麗だ』


―――――……




「どうかした?」


  突然黙りこんでしまった私を不思議に思ったのか、一哉が顔を覗き込んできた。


「一哉と初めて出会った日の事を思い出していました」


「あぁ、就任パーティーの日の事?…もう7年も経つのか」


  一哉の手が私の首筋を辿り、頬を包む。私より10歳年下の彼は26歳になった。


「はい。あの日も一哉は私の瞳を綺麗だと言っていましたね。今までそんな事言ってくれる人なんていませんでした」


「俺は思った事を素直に言ったまでだよ」


「それが私にとってはとても嬉しい事だったんです」


「…嬉しかっただけ?」


  一哉に見つめられ、私は思わず頬を赤らめた。


「…一哉の事が好きになりました。もちろん今でも好きです…いえ、愛してます」


「ふふ。出会ったときはあんなに頑なだったのに、素直になったね」


「私そんなに頑固でしたか?」


「まぁ俺はどんな瑠璃子も好きだよ。愛しい」


  話しの合間にも羽のような口付けが額や頬に落ちる。くすぐったくてふふっと笑った私を見て一哉の眉が困ったように下がる。


「瑠璃子が変わったのは良いことだけど、誰とでもすぐ親しくなるのは困るな…目が離せないよ」


「親しくなんて―――あっ…っ」


  顎を捕らえられ深く口付けられる。


「瑠璃子―――愛してる。これからもずっと…俺だけを見て、俺だけを感じて?」


  愛する一哉に求められたら、もう思考なんて働くはずもなく。彼に与えられる愛を全身で受け止めることしか私には出来ない。




  ある友人は私の人生が波乱万丈だという。

  確かに、親は私が泣いていても苦しんでいても何もしてくれなかったし、幼い頃からイジメにもあった。社会に出てからも外見の所為で色々言われる事もあった。

  でも私にとってそんな過去なんてどうでも良くなった。

  今、私の全てを愛してくれる人がいる。どんな事も分かち合える人がいて、傍にいてくれる人がいる。

  それだけでいい。

  一哉の温かな腕に守られながら、私はゆっくりと目を閉じた。




最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございました。

では、また逢う日まで。


始祖m(_ _)m

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