3章_番外編『エゼリオ班センチメンタル』
時は戻りて、だいぶ戻りて。
ララとアルフレードの戦いまで遡る。「大分戻るなぁ!」と思わず少しお付き合いいただきたい。本当に短い物語、というかぐだぐだっとした夜のこと。
『どうしてララ・ウェンガーはアンジュ・ブルナーにそんなに肩入れするんだ?』
そんなことを聞いた、アルフレードの上司エゼリオ。聞かれたからと、アルフレードはララの過去を話した。母親のこと。父親と後妻からの仕打ち。誘拐未遂からのアンジュとの出会い。
「なんとも…言葉に困る」
考えてもいなかった重たすぎる話に、エゼリオ班員の気分は完全に沈んでいた。妻と娘を深く愛する副班長のマーギッドなぞ、ショック受けて顔を手で覆い嘆いている。「実の子になんてコトができるんだ」「鬼、悪魔」「マリー、マーガレット」などとブツブツブツブツ。同情を示すように、彼の周りに菓子類が積み上がっていく。
語り聞かせたアルフレードは普段と変わらない。むしろ菓子を食べている。初めて聞いた時は絶句したが、『あんたにその反応されるのなんか癪だわ』なんてララに顔を顰められ涙が引っ込んだ。なぜあんなにも突っかかってくるのか疑問に思う。それも最近はすぐにアンジュのことに塗り替えられるためあっという間に忘れてしまうが。それはそれでどうなのか、アルフレード・ランゲ。
「それに…デュドネ・ブルナーとも顔見知りなんだな」
己の命を賭けて国民を救った英雄。西区では巡回する彼と会えるため大して珍しくなくなっていた存在でも、中央区で生きてきたエゼリオは存命中1度も会ったことがない。
それはアルフレードとて同じである。
「アンジュの父親として交流があったのは、唯一かと」
ビアンカとサーラは死後、アンジュが”化け物娘”と呼ばれるようになってからの付き合いだ。ララとビアンカ、アンジュとサーラがそれぞれ出会い、お互い引き合わせて以来の付き合いだ。頻繁に付き合いがあり、ララは兄妹とブルナー家の特別訓練に参加していた。
「なるほど。戦い方に既視感があったのはそう言う訳か」
アンジュの方が幾分も背が低いく、2人の身体能力の違いは大きいが、体格が近かったため結果その戦闘スタイルは近いものになったのだとか。「へぇ」と納得の声が漏れる。
「その、勝手に話していいのか?」
自ら聞いておいてどうなんだと突っ込みたくなるが、恐る恐る伺うエゼリオに、アルフレードははっきりと問題ないと答える。
『別に隠してないし。過ぎたことだし、アンジュたちとの大切な思い出だから!』
眼光を強めて真顔でそんなことを言っていたと伝えると、先輩らは深く納得する。確かに真顔で言い切りそうだ。無駄な動きや思考を感じさず、意思の強さが現れた涼やかな姿。ギロリと睨まれれば固まってしまう、強い意志を感じる鋭い瞳、感情の起伏を表に出さず、微笑みにも冷たさを感じる美人。親友らと一緒にいる時に変わる年相応の柔らかな雰囲気に、目を見張る同僚が多いこと。それほどララ・ウェンガーの軍内では淡々としていた。
アンジュ・ブルナーとはまるで姉妹のように感じると思っていたが、経緯を知れば納得すぎる。命も尊厳も、未来をも救った親友。かけがえのない存在だ。
「そりゃアンジュ・ブルナーを大切にするよね」
先輩の言葉に、周囲も深く、深く肯き合う。
「なのに…なんでお前さんはウェンガーとは仲悪いんだ?」
アンジュが大好きな者同士であれば、単純に考えれば意見が合うはずだ。なんてエゼリオは首をひねって見せれば、アルフレードは嫌そうに顔を顰める。前々から考えているが、答えのは出ない。
「相性としか言いようがないかと」
その他理由は無い。アンジュ語りができれば面白いのだろうが、その愛が深すぎてお互い途中で喧嘩になるのが目に見える。昔から、本当に昔から接点だけはあった。全く興味を抱かなかったため、楽な存在ではあったが、アンジュという共通点ができてからは敵対する機会が増えている。以前よりも強く厳しい言動が増えている。
唸るアルフレードに、先輩女性職員がひどく納得したようだ。
「うわ、気持ちわかるわ」
一体どういうことか。興味を持ったアルフレードは身を乗り出した。代わりにエゼリオや先輩男性職員は少しばかり距離を取る。
「そりゃアルフレードがにくいからだよ」
「はい?」
「ララ・ウェンガーとアンジュ・ブルナーの付き合いが圧倒的に長いんだから。ポッと出のあんたに取られたのが気に入らないんでしょ」
「私も覚えがあります。そんな男よりも私との方がよくわかっているはずなのにって」
「あるある!」
あるのか?アルフレードが首を傾けたのが最後。「うわっ!わかんないかなぁ!」とと絶句された。周囲を見渡せば、わかると頷く職員が多数いる。
一般常識なのかと上司に助けを請えば、生暖かい目線が送られる。
「後からあったのはアルフレードでしょ?たかが数年の付き合いの奴に親友取られるのはなんかね。わかるわー」
「俺もモヤっとする時あるわ。急に遊ぶ予定減るもんな」
それから。エゼリオ班では過去の愚痴話と、友達と恋人との付き合いについての論争が繰り広げられたという。アルフレードの頭は一杯の情報で埋め尽くされた。
その間もマーギッドは1人さめざめ泣いていたとかなんとか。
「ところでウェンガーから何受け取ったんだ?」
「これですか?」
アルフレードは胸ポケットから受け取った薬をエゼリオに渡す。中には見たことの無い薬草と光を受けるとキラリと黄金に光るさらりとした液体が入った、手のひらサイズの細長いガラス瓶。傾けるとトプン、と軽快な音がする。微かに魔力を感じる。
「回復薬か。へぇちゃんと用意してたのか」
「いや、アンジュからです」
「へぇ?!」
アルフレードは上司に、その証拠を説明する。中に入っている薬草はブルナー領土で取れるもので、その液体の色と魔力はアンジュが作る証拠。ララは偽アルフレードと遭遇すれば、絶対にアンジュとその上司に報告する。自分に喧嘩を売る場合、絶対に親友の許可を取ると。
なるほど。なるほど。エゼリオは頷きながら日中よりもだいぶ口が回る、アンジュ大好き人間の部下の話を半眼で聞いていた。
あー。実に平和である。
実にぐだぐだっとした夜である。




