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「"推したい"婚約者」ー推しで一途な婚約者は、国一番の人気者!つまり毎日が修羅場です。ー  作者: 烏賊


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3章_番外編『恋する乙女は、グラスの底に沈んでみたい』

番外編です。

お酒を飲むときは本当に気をつけてくださいね。

アンジュ・ブルナーは考えることがあった。


「私、酔うとどうなるんだろう?」


先日、友人と飲みに出かけた婚約者が酔って帰ってきた。普段よりも大分気の抜けたアルフレードの様子を「可愛い」と思った西の末娘。

アンジュは幼少期から散々可愛いと家族から持て囃されてきたが、長く生きていればもっと可愛らしい人物と会う機会が増える。なにより己は性格も強気で逞しさがあり、ずる賢さもあると認めていた。

可愛さとは内から出てくるもの。

可愛いは正義。

自分も酔っ払えば、ちょっと可愛くなれるのではないか?


「いいよ。付き合ったる」


しかししこたま1人でアルコールにふけるのは怖い。そこで幼馴染であり、親友の1人であるララ・ウェンガーのに助けを求めた。アンジュの頼み、加えて面白そうな試みに彼女は2つ返事で了承した。1日寮に戻るため、アルフレードは不在である今夜、酔っ払ってみようの会を開く。




まあ何が言いたいのかというと。

この時のアンジュは、非常に疲れていると言うこと。酒に酔って可愛くなれるなんて思考に至るのは、尋常ではない。絶対に真似してはいけない大人の姿であるが、催しが開かれるならば気になるものだ。どうなっているのか覗いてみようではないか。


「…よわない」


「全然酔わないね」


どうやら既に暗礁に乗り上げているようだ。なんとも早い展開である。






これは偽アルフレードと令嬢の騒動が落ち着いた頃の事案だ。

ファラデウスの春は本番を迎え、暖かな気候である。あちらこちら華やかな景色が広がり、目でも楽しい日々である。

先日の夜会での騒動に、軍内では防衛大臣からの強烈な指導を受け上も下も緊張が走っている。国全体としては日々観光客も増え、花祭りも各地で盛んに楽しまれている。場所はお馴染み中央区の借家。心優しい大家を助けた礼で、破格の家賃で借りている一軒家はアンジュの城と言っていい。

酔っ払いをきっかけに企画された会は始まって3時間で頓挫している。リビングダイニングのテーブルには果実の発泡酒から始まり、ウォッカやウイスキー、サブランにまで手を出したが全く酔う気配がない。付き合っているララも微塵である。空気にアルコールが漂い、多種類の酒瓶があるばかり。アンジュもララも予想外すぎる結果に苦笑を通り越し能面だ。

乙女らは肴を食べながら雑談を楽しむ。完全にただの飲み会の様子になっていた。


「アンジュ、何読んでるの?」


クラッカーにチーズを乗せ、一口頬張る。小麦と濃厚なチーズが訳もわからないほど美味しい。もそもそ食べ進めているララが指さしたのは、テーブルの端に積み上がっている書籍だ。タイトルを見るに、彼女も子供時代に散々読んだ童話である。


「悪役の参考資料」


「また何に精を出してんのよ…」


ふっくらとした唇から、麦の苦味が漏れたような声が出る。また親友が分かりにくい方向に努力している。若干呆れながら、ララは1番上に置かれた絵本を捲る。ちょうど王子と魔女が戦う場面であった。荊で道を塞がれながらも姫を助けようと勇ましく挑む王子に、阻もうと竜の姿になり今にも火を吹こうとする魔女の白熱した絵。この強敵も、最後は魔法のかかった剣に胸を刺されて絶命する。むかしむかし、は、めでたしめでたし、で終わるのが鉄則だ。

なんとなしにページを捲るララに、アンジュは経緯を説明する。化け物娘と言われているなら、いっそ圧倒的悪にでもなってアルフレードと幸せになることを臨むことは以前の女子会でも語ったが、この間の夜会で悪役に徹するにはまだ不足しているものがあると痛感し、人気の高い悪役たちからその様をそして失敗を学んでいるのだ、と。自分の幸せに、さらに宝を奪われないようにするにはどうすればいいか。

首を傾げながら透明なサトウキビからできた酒を飲むアンジュに、ララは相槌を打つ。


「けどさ。悪役も望む幸せがあるじゃん。その幸せを定めれば、振る舞いも決まるし自然となるべき悪役になるんじゃない?」


悪事に手を染めようと彼らは欲望を叶えるために死力を尽くした。思い描く幸せがあったのだ。その幸せが何なのか、分からない限りは見えてこないのだと言うのがララの考えだ。

親友の助言に、アヒージョを摘んむアンジュは瞬きを繰り返す。ちょうどこの間、アルフレードに自分の幸せとは何かと聞かれたばかり。上手く答えきれなかったが、確かに行動の源になる箇所だ。大切な接点があった。なるほど。にんにくの効いたきのこと共に言葉を噛み締める。


「確かに。ありがとう、考えないといけない方向が定まったよ」


悪役研究も必要だが、自分の気持ちを深掘りすべきだ。深掘りしすぎりとタイムカプセルがごとく封印していた記憶まで掘り起こす恐れはなるが、冷静に慎重に判断しなければならない。


「どういたしまして。ん?これは?」


微笑み返したララのスカイブルートパーズの瞳が次に見つけたのは、蝋で封がされた陶器製の壺。持ち上げようと触れるとじんじんと指が冷たくなり、彼女は慌てて手を離す。なんだこれは。


「あ、霜の妖精がくれたの。また冬にって」


先日春一番が吹いた。冬の終わりを告げる南からの合図に、冬に生きる精霊たちは次の冬まで寝るか、精霊界の棲家へと帰る。アルフレードの監視に一役買っていたアンジュの友人たちも、精霊界にある己の住処へと帰った。これは一時別れの選別品だ。

「蝋の部分は冷たくないよ」と助言に従い、ララは壺を持ち上げる。ララの手首から肘までの高さのある細長い壺は思ったよりも重く、チャポンと中で液体が揺れる心地よい音が聞こえてきた。


「折角だから飲んでみようか」


「いいの?やった」


折角の機会である。ここでまた新しい味を知り知見を広げると、

蝋封を切り、壺を傾ける。ショットグラスに、とぽとぽとガラスに継がれたのは水面に虹色が反射する透明な液体。よく見れば液体の表面に氷の粒が浮いて、光を受けて真っ青見えた。冬の冷たさをはらんだ風の香りに、少しばかり花や草木の匂いも感じる。なんとも不思議な液体だ。

1口分注ぎ、2人は改めてグラスを交わして一気にあおったのだった。






アンジュたちが酒をあおる丁度その頃。

アルフレードは彼女の借家に向かっていた。日用品で足らないものが出てきたのと、折角賃貸料を払っているのだから寮に1日戻っていた。買い出しに街の市場に出向いていたのだが、紅く熟れた林檎を見かけ、最愛の婚約者の瞳を思い出した。たった1日だけであるのに、恋しくなった彼は顔だけでも見たくなった。今日はララもいるため行けば顔を顰めるに違いないが、気にしないことにしてアルフレードは果物を買い、会うための口実を掲げながら道を進む。

するとアンジュの2つ上の兄であり、ブルナー家兄妹の4番目・コトレットと遭遇する。相変わらず相棒のフィが肩に乗ってお理、春の陽気に当てられているのか少し眠たそうだ。立ちながら船を漕いでいる。なんとも羨ましい体幹だ。

颯爽と帰国し、パートナーを伴って夜会に現れた天才は、しばらく国内で仕事があると中央に滞在している。花祭りのパーティーにもひっきりなしに呼ばれており、今日、明日はようやくできた休みなのだとか。久しぶりにアンジュとゆっくり話がしたいと彼は話す。

目的地が同じであるため、青空と杏色の瞳を持つ青年と並んでアルフレードは歩く。コトレットに借家にはララもいることを伝えれば、彼は嬉しそうに微笑んだ。その反応に、アルフレードは以前から抱いていた疑問が、核心に変わる。

雑談を交わしながらついた借家。フィが突然翼を広げる。ばさばさと興奮した様子は落ち着き払った彼らしくない反応。

何かあったのかと窓から確かめれば、アンジュとララがダイニングテーブルの上で突っ伏していた。一体何事か。

アルフレードは慌てて合鍵を使い室内に入る。途端にふわりと甘い香りが漂い、少し散らかっている。横からフィが勢いよく飛び、壺の周りを彷徨く。婚約者の様子を確認すれば、眠っている。


「アンジュ?」


名前を呼び体を揺さぶろうとも起きない。

気配に敏感である彼女が起きないなんて。アルフレードは目を丸くする。

コトレットがララの様子を確認すれば、彼女も夢の世界へといるようだ。アルフレードは眠る2人をコトレット任せて、借家内を見回る。誰かが潜んでいるかもしれないと思い丁寧に確認するも、何も変わった様子はない。その事をコトレットに共有すれば、彼も胸をなでおろす。なにもなかった安堵に、ではなぜ2人が机で寝ている疑問。あたりを見ればいろんな種類の酒瓶が置かれており、使ったと思われるグラスがある。

1つ趣が違う壺にも何か入っているようだが、フィがひっきりなしに突き、相棒に訴えるように翼を動かす。


「どうしたんだ。そんなに興奮してって…なにを、ってこれもしかして幻精酒?」


初めて聞く単語に、アルフレードも首を傾げる。


「幻獣種が作るお酒。向こう世界で作られる素材に、希望。アルコールも混じって色々な心地良い幻で酔える逸品だよ。なんでこれがここに…」


壺に触れたコトレットだが、あまりの冷たさにすぐに手を離す。


「あーこれは冬の幻獣種から贈られたんだな。アンジュは見たことなかったから分からなかったんだ。なんだい?フィ飲みたいの?あとでね」


機嫌良く鳴く。どうやら興奮していたのは酒があったからのようだ。精霊にとっても貴重な一品であることがうかがえる。まずは寝ている2人を寝室に運ぶ。アンジュをアルフレードが、コトレットがララを抱えた。ララが先に潰れたのなら、アンジュが手厚く介抱したはずだ。2人ともテーブルで寝ていたのは、同時に落ちたから。ララからも他の酒の香りがしたため、ララも付き合っていたのではないかと予測を話しながら。

慎重に階段を上がり、ベッドに寝かす。すやりと眠る2人はあどけない。フィが翼で撫でてやると、さらに表情がゆるんだ。可愛らしい婚約者の寝顔にアルフレードの頬も緩むも、コトレットに摘まれる。


「で、今晩はどうする?泊まるのかい」


頷くと、コトレットも2人が心配だからと泊まることにした。「起きたら少し説教しなきゃ」と2人は1階に降りてグラスを洗う。


「酒瓶すごいね。全部開けたばっか。なんかの実験?児童書もあるな。懐かしい!」


疑問には答えられない。児童書は最近アンジュが借りてきたものや実家から送られてきたもの。アンジュに会いにポエテランジュの子供たちが変わる変わる持ってきてくれる。昔が懐かしくなったのかと聞けば、研究資料だと、後々固まったら話すとアンジュは話す。なにやらまた斜め上をいく発想で行動しているとアルフレードも察した。彼女の様子を観察しながら、アルフレードも読書時間を楽しんでいる。これが意外とアンジュと話も弾むきっかけになる。

アンジュと生まれてから長く長く付き合いのある兄である、コトレットもアンジュが変な方向に努力をしている事を察したようだ。深くため息をつく。


「さてさて。今度はどっちに向いてるのやら。さ、アルフレード何か飲むかい?あ、折角だし幻精酒飲む?飲み方があるんだよ」


彼は小皿に酒を薄く注ぎ入れる。小指の腹で水面を撫でると、指を口に含んだ。

アルフレードも真似をして、酒に少しだけ浸した小指を舐める。想像以上に香りが鼻を抜け、すっきりとした甘みが口に広がる。脳裏に見たことのない美しい風景や幸せな思い出が浮かび、次第に体が温かくなる。


「これ、は。すごいですね」


「ね?味に香り、さらには美しき記憶。幸せ感すごいでしょ?1杯のんだらそりゃダウンするよ。過ぎた多幸感に耐え切れず寝ちゃうの。精霊にはそれが気持ちよく酔えるみたい。ほら」


ケラケラと笑うコトレットの相棒は、風の力で器用に酒を掬い上げては嘴の中へ。一粒一滴と飲んでは、身体を揺らして機嫌良く鳴いている。冷静な彼が、アフみたいに小躍りしているのは珍しい。コトレットがフィの頭を撫でてやれば、ふわりと羽を膨らませた。

珍しい酒を嗜みたい気持ちはあるが、これ以上は毒になりかねない。コトレットとアルフレードはそれぞれ別の酒を嗜むことにした。

1杯2杯3杯…すいすいと飲み進める義理の兄に、アルフレードは目を丸くする。ブルナー家で何度も訪ね、彼らと過ごしてきたがコトレットが今までこんなに飲む姿を見たことはない。むしろお湯やハーブ水を好んで飲んでいるようでもあった。


「コトレットさんかなり飲まれるのですね」


「海外出張でも酒の席に呼ばれることが多いし、母さんの家系は蟒蛇だから。にしてもララちゃんも強いとは知らなかったな」


以前、アンジュからララはお酒に強いと話を聞いていたことがあったアルフレード。飲み対決で後輩に負けたことがないと話せば、コトレットは分かりやすく機嫌の悪そうな声で返答する。

丁度話が切り替わったため、アルフレードは疑問を聞くことにした。


「あの。コトレットさんはウェンガーに想いを寄せられているのですか?」


目が大きく開かれる。まさか聞かれると思っていなかったようだ。オッドアイの瞳は細められ、寂しげに笑う。


「遠距離になっちゃうから。あの子結構寂しがりやでさ…」


アルフレードにしてみれば、ララが寂しがりやだと一切感じなかったが、幼い頃から交流があれば知る事情も思い出も違うのだろう。

コトレットは昔からあちらこちらと外出が多い。西南区の研究所に頻繁に通い、10歳で大学に飛び級で入学。卒業後は研究所に入社、そして海外出張で忙しい。確かに会う時間はなかなか取れにくいかもしれない。



「それは話し合うべきではないでしょうか」


夜会で2人が現れた時、やはりと思ったし、お似合いのカップルだと思った。

コトレットがララに対して日頃優しく接していたのは分かっていた。1人の女性として、もっとも優先している女性はララの他はいないと断言できるほど、細かに気を使う相手だ。

そしてララの方も、コトレットと一緒にいると急に猫被ったように丁寧になり大人しくなる。あからさまに頬を赤く染め、恥じらう姿を初めて見た時は変貌ぶりに言葉を失ったほど。

どう見ても、2人は思い合っている。かっこつけ、猫をかぶっていたとしても無理をしている様子はない。むしろ素の性格すら知っているから、自然体であっても当たり前に受け入れている。

お互い20歳を過ぎた、いわゆる大人だ。寂しさも愛の糧にできる年頃だ。過ぎれば冷めてしまうが、きちんと話し合える2人ならば乗り越えられる。そんな確証がアルフレードにはあった。

アルフレードの真剣な眼差しに、コトレットは一度目を伏せる。再び視線を上げる時には力強い光を宿した。


「そうだね。そうするよ」


グラスの中の酒が、湖の水面のように穏やかに揺らぐ。

男性陣は残っていたつまみを温め直し、腹を満たす。各々支度を整えて、空いている部屋で眠りについた。

1人で寝るベッドはやけに冷たいと、アルフレードはひっそり思いながら。











翌朝。

幸い一晩寝れば酔うほどの多幸感も抜けたようだ。目覚めたアルフレードとコトレットは、眠り姫2人が寝ているアンジュの部屋の扉をノックすれば、ふんわりとした返答があった。扉を開けば、ベッドの上で訳もわからず顔を見合わせるアンジュとララがいた。

コトレット以外は仕事がある。尋問兼説教は朝食を食べながら取りおこなれた。


「何したかったの」


声音に冷気を感じ、アンジュはしわくちゃな顔でトーストを食べながら事情を説明する。


「……それで、どれだけ酔うか分からなくて、色々試してた」


「結果は?」


「全然酔わなくて…霜の妖精から貰ったののんだら…」


気づけば自室のベッドの上。その上兄にフィと婚約者がいる。


「もう!外じゃなかったから良かったけど、わかんないやつを飲むんじゃないの。幻獣種はアンジュに危ないことはさせないけど、こちらはやり方を知らないと危険な目に遭うんだから」


アンジュは肩を縮こませる。ララもしょんもりしている。彼の言う通り、慎重さに欠けていた。ララに何があっても助けれなかった。「次から気をつけます」と落ち込むアンジュとララの様子に、深く反省していると分かり説教をやめた。優しい声音で、昨晩仕込んでおいた果物水を差し出す。

ちびりちびりと果実が染み込んだ水を飲むアンジュを、アルフレードが慰める。


「俺も初飲みは家族とだったな。お前が初飲み外は危なすぎるって」


過保護すぎる?20歳を超えれば自由にさせろという意見にはもっともであるが、ここにいるのは国一番の人気者、日夜彼をめぐり陰謀渦巻くアルフレードである。友人や1人でわからないまま飲みすぎて、うっかり寝落ちたらどうなるか。最悪ここにアルフレードはいない、または別の者と添い遂げている可能性がある。恐ろしすぎる未来を回避するには、身内で確認した方がアルフレードには確実に安心なのだ。存外アルフレードも酒には強く、強い酒にも浮かれるぐらいで間違った判断をしない程度の器であった。

それにしても、誘って欲しかった。アンジュと是非飲みたかった、とアルフレードが少し落ち込んで見せる。するとアンジュは慌てた様子で弁明する。


「1人のみが怖かったのもあるけど、豪快に粗相したら嫌だったからさ。ララに甘えちゃったの」


「ふふふ。私たち、お互いしでかしに手を貸してるからね」


ふへへ。怪しいララの笑い声に、アンジュも引き攣りながら笑う。幼少期からの付き合いな上、ララはブルナー家の特訓にも参加していた。幻獣種も乱入する特訓に。それはもう、大変であったと、あえて柔らかく伝えよう。何をしでかすかは想像にお任せする。

そんな2人だ。相手の汚い部分も共有している。何があっても大抵のことは流せるし、片付ける方法も身についている訳だ。

自慢できることかはさておき、愉悦感にララはアルフレードにべっと舌を出す。アルフレードはムッと顔を歪ませる。小憎たらしい。こんな時も普通に煽られ、どこに寂しがりやな成分があるのかとコトレットに聞きたくなる。

アンジュの大切な時間を安安と渡してしまったことに後悔したアルフレードは、アンジュに次こそは己と飲もうと誘う。ララだけアンジュと飲み会なんてずるい。


「コトレットさんから飲み方教わったから任せてくれ」


胸を張るアルフレード。次のデートの予定に、アンジュは嬉しくなる。


「…ならアルフレードが好きなお酒知りたいな」


「あぁ」


にこりと笑えば、彼女の隣から痛い視線。パチリと火花が散る。犬も食わないという喧嘩は、これも含まれるだろうか。いつか犬に聞いてみたい者である。

ともあれ3人の軍人は仕事である。のんびりとしていられない。慌ただしく支度を整えて、出勤したのであった。



結局アンジュの目的は叶わなかったが悩みの解決策も、婚約者とのデートの約束も、短くとも兄との会話する時間が取れ、結果的に有意義な時間を過ごせたアンジュなのであった。


霜の精霊の置き土産は実は合計5本送られていたことが判明し、後日アンジュから家族の元に贈られ、多くの幻獣種を楽しませたのだった。









どちらかといえば、彼と彼女に酒の神は微笑んだと言えるか。


親友と飲みの結果、まさかの朝を迎えたララ。二日酔いの問題もなく健康的に1日の仕事を終え、定刻で退勤すれば珍しい人がいた。

コトレットとフィである。

見覚えのありすぎる姿を認めた時、ララは俊敏に物陰に隠れた。


(え、え、え。なんで?アンジュに用かな?)


ララはコトレットに想いを寄せていることをここに明記しよう。恩人の1人で、昔から優しく、頼もしく、時に研究熱心すぎて自分のことをおろそかになりすぎる懸念があるが、そんなところにも惹かれた。積み重ねてきた思い出が雪解け水のように深く染みている。

今朝ぶりの再会。数時間前はゆっくり話もできなかった。ララは髪を整えて、リップに紅を指す。改めて、今来たんですよ感を演出しながらコトレットたちに近づく。180度頭だけをぐるりと回したフィが鳴けば、彼が振り向く。オッドアイの瞳に喜びが浮かぶ様に、ララは緩みそうな必死に唇を固く閉じる。


「お疲れ様、ララちゃん。今朝ぶり」


「お疲れ様です。どうしたんですか?アンジュを探しているのですか?」


当然アンジュに用なのだろうと、ララが問えば彼は首を横に振る。


「ララちゃんに会いに来た。一緒に食事でもどうかなって」


え!うそ!ララはあからさまに浮かれる気持ちを鎮めようと、両手の指を組み硬く握り締める。ララも今夜は素直に帰ろうと思っていたところだ。海外出張で時間が取れにくい彼との時間は非常に貴重である。


「嬉しいです。是非ご一緒させてください」


2人は一緒に夕食を摂ることにした。店はコトレットに案があるというので、彼に着いていく。ふかふか毛のフィはララの肩に移る。くすぐったさにララは笑ってしまう。


数週間前に再会したコトレット。手紙で頻繁にやり取りはしていたが、あって話したのは5ヶ月ぶり。夜会前夜、叔父夫妻に緊急招集を受けて屋敷に赴いた時、想い人がいた時はとても驚いた。その上彼が用意したお揃いの、特別なレース布で作られたピッタリのドレスが用意されていたのだ。アンジュのドレスでも使われていた、ブルナー家族とその婚約者や家族へと贈られたレース生地。

その美しいドレスを見た時、改めて親友の兄は律儀な人だと思った。あくまでも妹の友人にまで貴重なレースをあしらったドレスをくれるなんて。少し期待してしまうところもある。特別な意味があろうがなかろうが、お揃いのものを着れたのは正直嬉しい。

滅多に見ないタキシード姿の彼も本当にかっこよかった。大分久しぶりの夜会への出席も、親友の存在も大きかったが彼がパートナーだったからこそ安心して過ごせたと思っている。


「ララちゃんもお酒強いんだね」


「あう。その…恥ずかしいところを…」


昨晩のしでかしに、ララは落ち込む。彼の前では少しでも綺麗な姿も見せたいのだ。


「あぁ気にしないでよ。寝顔可愛かったし。いやさ、今度…飲みに行かない?職場の人にさ、果物使ったカクテルが得意なお店を教えてもらったんだ」


可愛いの単語に顔を赤らめ、カクテルの単語にぱっと華やぐ。クールビューティーと隠れファンもいる彼女の百面相はお目にかかれない貴重場面だ。


「いいですね!アンジュとも…」


彼のことだから、ララは当然親友であり最愛な妹も誘うと考えた。

ふわりと顔を赤らめたコトレットが、人差し指を立てると口元に立てる。


「それはまた次、ね」


次。次があるなら、最初は、今回はつまり。

意味を理解したララはみるみる顔を赤くする。


「わ、わたしでよければ…」


小さな声でと呟かれた返答に、ドキドキと忙しなかったコトレットの心臓はようやく落ち着きを取り戻した。


頭上には丸々とした夜を照らす天体が浮かんでいる。今は少し雲がかかっているが、あと少しで綺麗に晴れれば美しくその姿を拝めるに違いない。



幸あれ、幸あれ。

しかし飲み過ぎには気をつけて。

酒に溺れては、前途多難。

人生は何事も、適度が大切なのだから。


クルクルクル。ララの肩に乗る、フィが陽気に鳴いた。

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