彼の朝
学校が休みの朝。
ある家の勉強机と大きな本棚が置かれている和室の部屋に、布団が敷かれている。
その布団は盛り上がっており、呼吸音と共に上下に動いている。
カチ、カチ、カチ、カチ・・・・・・
壁に掛けられている時計の秒針の音が静かな朝の雰囲気に響いている。
時刻は6時24分・・・・カチッ! 時刻は6時25分に変わった。
それと同時に布団にいる上代 葉が、もぞもぞと動き始めた。
彼はパチリと目を開け、そして上半身を起こした。
その状態で少しぼーっとしてから、そのまま立ち上がり、背伸びをする。
「んー・・・・・・・・行くか」
そう呟いた彼は、スタスタと部屋を出て行った。
ザッ、ザッ
彼は軽い白い着物姿で周りが草木が生い茂る石畳を掃いている。
ザッ、ザッ、ザッ
これは彼の朝の日課である。
「毎日、毎日、ふ、ふあ~、よくやるなあ」
そんなふうに欠伸しながら声をかけた人物は玄関に寄りかかっていた。
ボサボサ頭に眠そうな目、服装は袖なし羽織の藍色のよれよれのジンベエを着ている一見軟弱な男に見えるが少し盛り上がった筋肉が鍛えていることを伝えている。
「約束だから。それに整理も兼ねているから、苦痛でもない。」
「そうかい」
男は適当に返事をした。
「これは・・・・・・じいちゃんが言っていたことでもある」
「確かにあのジジイが言いそうなことだな」
「それで用は何?」
「朝飯できたから、すぐ来い」
そういうと男はすぐ中に入って行った。
そして、彼は竹箒を片付け始めた。
*
畳の上におかれた座卓に、御飯、味噌汁、煮干魚、沢庵などの朝食が置かれている。
男と彼はそこに男は親父座り、彼は正座で向かい合った。
「「いただきます」」
それと同時に食べ始めた。
もぐもぐ、もぐもぐ
「ずずー・・・・ん、味が濃い」と彼が呟いた。
それに男がムッとして言う。
「お前が当番の時の薄味を我慢してるんだから文句言うな。」
「我慢させているつもりはない」
「ふん」
「ごちそうさま」
先に食べ終わった彼は、すぐさま食器を片付けようとする。
それに男が疑問をかける。
「もう行くのか?珍しいな、いつもならニュースを見るのに」
「今日は予定がある。」
「ほー」
「10時頃に待ち合わせているから、1時間後に出る」
「どっか行くのか?」
「糸尾町に行って来る」
「隣町か、あのでかい子と行くのか?たまには女の子でも誘ってデートにでも行けよ」
男がニヤニヤしながら言った。
それを彼は無視して答える。
「違う。石原理穂子という同級生」
彼の淡々とした答えに男は一瞬固まった。
それにかまわず続ける。
「彼女が言うにはデートらしい」
「ぶっ!」
「きたない」
男は、はーと言って不思議なものでも見るような目で彼を見た。
「正直お前はないと思っていたが、男なんだなあ、やっぱり。」
「そうかもしれない」
彼は肯定するような、否定するような曖昧な返事を返した。
「・・・・違うのか」
その曖昧な返事でいつもと違う雰囲気を感じた男は問いかけた。
「何か・・・・気になる。彼女の言動、行動が自分の存在に入り込んでくる。」
「・・・・・・」
男は考え込んでいる。
「だが、これは一般で言う恋とは根本的に違う・・・・と思う」
男はため息を吐いた。
「まっ、いい傾向じゃねえか、兄貴も喜ぶぜ。行って来い」
「うん」
彼は話が終わると準備をするために部屋にいった。
残った男はこめかみをかきながらポツリと言った。
「まあ、あいつが普通なやつらと同じ感覚をもてるわけないもんな」
男は盛大なため息を吐きながら彼のことを嘆いた。