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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act six 第6幕 Reincarnation──『輪廻』
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輪廻編 5話 慈極道5

 紫苑しおんがパラドの事をそう呼ぶと、ぴしりと空間に亀裂が走る音が聞こえた。そして、紫苑は彼に呟き続ける。


「今、微かに聴こえた声はだいさんのものだった」

「……」

「でも、貴方は確かに私の目の前で題さんを殺した。全く何が何だか分からないわね」


 そして彼女は手を前に出し少し力むと小指から黒い糸がパラドの小指へと繋がっているのが分かった。


「状況を厄介にしたのはこの女。コイツはこの時自分が題さんを殺したと護衛軍にメッセージを送った」


 紫苑は私の方を見る。勿論、私じゃない。それをしたのは私の旧姓、漆我しつがくれないを名乗る樹教の教祖の方だ。


「だからそれ……私じゃ……」

「黙りなさい。貴女みたいな乳臭いバカなガキに発言権は無いわ。そもそも、貴女に題さんを殺害出来るわけない。何の為にこの糸を見せたと思ってるのよ。脳みそ足りてないんじゃない?」


 言葉の節々から私を侮辱するような言葉が流れて来た為、つい私はそれに反応してしまった。


「……ほむ」


 まるでどこかの青磁せいじ先生みたいな喋り方をする。丁度、彼に目を向けると私から目線を逸らし手を頭の後ろに組み口笛を吹くフリをしていた。


『この口の悪さは遺伝か?』


 そして、私を無視して彼女は話続ける。


「この黒の糸、普通は見えない。この糸の意味は基本的に特異能力者エゴイスト感情生命体エスターになった時に見えるもの。丁度、その女と瑠璃の間にも同じものが見えるな」


 私と瑠璃くんは黒い糸で結ばれているらしい。


「それが……何? 姉さん」

「世間を知らないガキは良いわね。それが呪われているということよ。だから忠告したのに」

「だからそれが何だよって聴いてんの。本当に分かってる?」


 瑠璃くんはそう紫苑に対して強く返した。


「そんなの知らないわよ」

「スゥ……」


 イライラするように紫苑は瑠璃くんに返答した。そういうと、瑠璃くんは細々と息を吐き間が悪そうにごめんと、こちらを見てジェスチャーをした。


『瑠璃くん、何も悪くないじゃん。というか駄目だこの人。まるで話にならない』


 そんな事を思っていると浅葱氷華が紫苑に聞き直した。


「お前さぁ……こいつらに自分の能力説明してねぇだろ」

「あぁ……そういう事。仕方ないわね」


 やれやれと言った口調で紫苑は話し始める。


「一年前、題さんが殺された時はその仮面が漆我紅だと思ったのよ」

「いや、そこからかよ! いまいち要領得ねえな!」


 浅葱氷華は彼女にツッコミを入れる。


「何よ! 別に良いじゃない!」

「あーもう良いよ! 俺が説明する!」


 遂には彼が遮断し、彼目線のパラドについてと紫苑の能力について説明してくれた。


 即ち、仮面の男……パラドとは、最強の特異能力者エゴイストと呼ばれた止水しすいだいを殺した感情生命体エスターである。そして、極々最近まで仮面の男が男だとすら知らなかった為、その犯行は護衛軍サイドから見て声明を出した漆我紅の仕業であると断定されていた。しかし先日、彼女が護衛軍を襲撃した事により、浅葱氷華の中では決定的な実力の違いから止水題を殺したのは漆我紅でないという事がわかっていたらしい。加えて、何故か朝柊あさひちゃんしか作れない特異兵仗アイデンを装備している事も正体の謎を深めている。


 そして、紫苑目線ではそもそもパラドの事を犯行現場で目撃していた為、自身の能力により、止水題殺しの犯人が私ではないということが今日、対面した段階で理解していたらしい。


 ここで出てきた紫苑の能力。それが『運命観測パラダイムオブザベーション』。人と人との間に繋がる『縁』と呼ばれる第七感的な糸を観測する事ができる。人それぞれにより繋がる糸が違うためパラドを以前目撃した際彼と自分が黒い糸で繋がっていたという事を覚えていたらしくそう判別したようだ。


 それでその黒い糸というのは通常ならあり得ない特異能力者エゴイスト感情生命体化アージュによる条件を満たしたもののみに現れる糸であるということが傾向的に分かっているらしく、パラドが止水題殺しの犯人だと分かったらしい。


 問題はここからだ。


 止水題殺しを行ったそのパラドから止水題の声がしたということが紫苑が引っかかった問題。それに彼女らによるとパラドがこれまでに使った特異能力エゴは止水題と同じ能力……時間停止や因果干渉という事。昔、護衛軍に発生した『モノマネイド』に特性はとても似ている気がする。そういえばあいつも相手の姿に似せ同じ能力を使うだった筈だ。だが、日本語を喋れるような理性は無かった。


「……でいいか?」


 そう、浅葱氷華は話終えると一つだけ可能性のある仮説がようやく私にも浮かんできた。あくまでも仮説だし何故彼がそうしたのか理解には及ばない事ではあるが。


 すると、紫苑は喋り出す。


「あの勘は正しかったのね」


 彼女がそう言った瞬間、パラドは紫苑が切って見えてしまった家の断面から上にある空を指す。そこにあるのは死喰い(タナトス)の樹。


「時は来た」


 上から何か落ちてくる気配がした。


「……!」


 パラドへ向けて落ちてくるその何かは煙をあげて彼と衝突する。そして、煙が晴れていく。そこには一人の青年がいた。


「みんな。久しぶり」


 落ち着いた表情と安心感を解き放つ彼の名前は止水題。

 史上最強の特異能力者エゴイストだ。


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