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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act six 第6幕 Reincarnation──『輪廻』
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輪廻編 4話 慈極道4

 間一髪、私は対人術の動作予測と『速度累加《アクセラレーション》』の過負加速《オバーフロー》で色絵《しきえ》紫苑《しおん》の一撃を避けた。


「……」

「おい馬鹿紫苑! テメェ俺ごと斬るんじゃねーよ。てか避けられてんじゃねーかよ」


 館は1階と2階の間でスッパリと切れてしまい倒壊した。その斬撃上に浅葱《あさぎ》氷華《ひょうか》の身体は存在していたがその斬撃を受け切ったのか氷の鎧すら無傷であった。あの鎧……近づけば近づくほど時間の歪みが強くなる。物の動きを遅くしているのだ。その為、浅葱氷華には如何なる攻撃は通らない。あの鎧に届く頃にはもはや不毛で繊細に触れたような威力に相殺されている。


 同じく、パラドは私同様何らかの方法で避けていた。因果の操作か何かだろう。物理的に回避するには未来予知に近い精度で予測を行わなければ不可能。


 私は冷や汗を流す。正直、危なかった。私が回避に専念しなければいけないほど、当たれば危うい斬撃。筒美流の応用で『僻遠斬撃《リモートインパクト》』と似た性質の斬撃での攻撃。それに相手は私の動きも読んでいた。『思考加速《オバーフロー》』で動かなければ確実にやられていた。


「ムカつくものね」

「……?」

「避けられると分かっていても刀を振るわずにはいられなかった」


 何を言ってんだこの人。


「題さん……。未来を変える力なんて私にはないのよ。どうして置いていったの?」

「……」

「あぁ……憎い憎い。題さんを殺したアイツも、両親を殺したあの女も」


 紫苑がそう呟いた瞬間、気配が三つこの場に現れる。


「オイオイオイ! 姉貴ィ! 何実家壊してんだ⁉︎」

「急に部屋が崩れたからびっくりしたよ!瑠璃《るり》くん、大丈夫? 怪我はない?」

「翠《すい》ちゃん、ありがとう。それよりもあれ」


 現れたのは青磁《せいじ》先生と瑠璃くん、翠ちゃんであった。


「紅葉……!」

「瑠璃くん」


 目が合う私と瑠璃くん。その瞬間私は叫ぶ。


「聴いて! 瑠璃くん!」

「耳を貸すな! 瑠璃!」


 同時に叫ぶ紫苑。瑠璃くんは下唇を噛み私の目を逸らす。だから、私は彼がもう私から目を逸らさないようにする為に近づく。翠ちゃんが銃を私に構えるが、青磁先生はすぐにその射線上に入った。


「させるかぁァァァ!」


 瞬間、紫苑も居合の型に入る。


「やめて。紫苑」

「……は」


 が、パラドが彼女が刀を抜けないように手を押さえたのだった。浅葱氷華は既に私が樹教の教祖でない事が分かったのか、溜息を吐きながらパラドや私に手出しをするのをやめていた。


 このまま、私は瑠璃くんの目の前に立つ。酷く崩れた今にも泣きそうな顔で私を睨みつける。


「僕は……君を殺したくないよ」


 ずっと限界だったのだろう。私を殺してなんて言わなければ良かった。ただ一言、違っていれば彼をここまで苦しめずに済んだのかもしれない。だからせめて、謝りたかった。


「私は瑠璃くんのこと凄く傷付けた。だから、ごめんなさい」


 しばらく、沈黙が続く。


 紫苑は紫苑でパラドの声を聴き酷く動揺しているように見えた。


「…………なんだよ……それ」


 私の目を見て怯えたような姿になる瑠璃くん。


「私もね、瑠璃くんのことが怖かった。だって何でこんな私の事好いてくれたのか分からなかったから」

「それは……!」

「ずっとずっとね人から何を言われても吐きそうなくらい、自己評価と人からの貰える言葉のズレが気持ち悪かった。もちろん瑠璃くんが悪いわけじゃない。コレは私のせいなの」


 瑠璃くんはその言葉を聴き下唇を噛む。


「私ね、生まれてこの方失敗ばかりの人生でさ、何をしても何処か上手くいかなくて、人のことを傷付けてきた。だから、君には何もしないでも私の気持ちを分かって欲しかったんだ。劣等感とか、罪悪感とか、死にたかった理由とか……色々あった。でもそれは自分の事しか考えてなくて凄い酷いことしてた」

「……」

「最初から本当のこと全部話せれば良かった。君を頼れば良かった。君を信じる事が出来なかった私は本当にダメな奴だ」


 後悔と悲しみが一気に自分の心臓を締め付ける。悲しい事にこんな気持ちになっても表情が一切変わらない、ずっとそう思っていた。


「私の思いも嬉しさも悲しさも何もかも伝えられなくてごめんなさい。それでも……それでも……!」


 顔の表情がこの時だけは私の感情に呼応した。


「初めて逢った時、私を助けてくれてありがとう」


 私は瑠璃くんに初めて逢った時に心を救われた。その事実は何も変わらない。それが今一番私を苦しめている原因だったとしても、彼の行動を無駄だと思いたくなかった。


 だからこそ、ようやく私は彼に笑顔を向ける事が出来た。全てが丸く収まるなんて都合の良い事は無い。問題は山積みで、それでみんなの心が傷付いている。それが辛くて辛くてたまらない。どこかの小説や漫画みたいに全て解決するとは思わない。そんな都合の良い事なんてこの世の中にはない。


 それでも……。


「私は貴女に出逢えて幸せだったよ」


 そして身体全体に温かい感触がした。


 瑠璃くんが私に抱きついたのだ。


「僕も君に救われた。だからもうそれでいいんだ」

「瑠璃くん……」

「これからのことは一緒に決めよう。この場の全員を敵に回しても僕は君を信じるよ」


 優しく私を抱きしめる瑠璃くん。私もそれに呼応して抱きしめ返す。


「本気なの?」


 翠ちゃんは心配そうに瑠璃くんを見ながらそう尋ねる。瑠璃くんは私の背中を撫でながら、私の心を落ち着かせようとしてくれる。


「本気だよ」

「そっか……それが瑠璃くんのやりたかった事なんだね」

「うん」

「なら応援する。頑張ってね」


 翠ちゃんはそういうとふぅっと溜息を吐き銃を降ろしたのだった。


「さてと……。ごめんね。紅葉。紫苑姉さんと話したい。だからちょっと待っててね」

「うん」


 私は瑠璃くんから離れて、彼を見守る。


「紫苑姉さん。僕は紅葉を信じる事にした。青磁兄さんの言ってた通り、事情はあったんだよ」


 そう瑠璃くんは彼女に言葉をかけるが、紫苑は心ここに在らずと行った様子でずっとパラドの方を見て呟いていたのだった。


「もしかして……題さん?」

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