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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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堕落編 9話 幸せは歩いてこない3

 衿華えりかと闘う……。それがどういうことになるか僕には分からない。だけども、今、紅葉が衿華の手で苦しめられているのなら。


衝動パトス』が止まり僕も能力を解いた。


「闘う……勝てる勝てないは二の次……だよ。まずは紅葉を助ける」

「……そうか。分かった。だが、助けに行くのは相手の目的がわかってからだ。現状動ける人間は限られている。見た所、『衝動パトス』の範囲はこの病院のみ。であるなら、少なくとも、浅葱あさぎ旅団長と泉沢いずみさわ大将補佐は動ける筈だ……あとは馬鹿姉貴とクソジジイもだが……」


 そうか、確かに翠ちゃんの能力ならすぐに彼等をここに連れて来れる。最悪今名前を上げた二人と僕達以外誰も動けない可能性はある。あとは、萵苣ちさちゃんも泉沢先生と機関に一緒にいるだろう。


「今は紫苑しおん姉さんを説得する時間はない。封藤ふうとうさんは『自殺志願者の楽園(ユートピア)』に帰ってる。だから……翠ちゃんは機関にいる泉沢さんと萵苣ちゃんを……!」

「待て瑠璃。それでいいが、もう一つ言わなきゃいけないことがある」


 青磁にぃは翠ちゃんの動きを抑えて、ふぅと溜息をはく。


「護衛軍には裏切り者がいる。衿華が樹教に堕ちたことも踏まえて、大体の予想はついたが、恐らく霧咲、水仙、踏陰……この三人には注意しろ。誰が樹教の手先になっているか分からない。もしかしたら全員かもしれない」

「……ッ! それってどういう事⁉︎」

「俺様は樹教に潜入していた。DRAG(ドラッグ)を奴らに流す条件で殆ど幹部のような扱いではあった。だが、他の幹部達の存在は分からなく、水仙……奴は確実に樹教の幹部だ」

「……うそ」


 僕と一緒に楽しくお茶をしながら、恋話までした彼女がまさか……。


「俺様と同じで理由があって潜入している可能性は捨てきれない……が最悪を想定した時、同時期に行方不明になった霧咲も危ない」


 理解は追いつくが感情が追いつかない。薔薇さんと黄依きいが裏切り者だった場合、僕等は圧倒的に数で不利に立たされる。


「なら全てを考慮した上で……紅葉には手を回す余裕はないって事?」

「そうじゃない。もしさっき言ったことが全て現実なら次狙われるのはお前かみさお妹なんだ」

「……?」


 朝柊あさひが狙われる理由はわかる。特異兵仗アイデンを作ることが出来るから。護衛軍の戦力をこれ以上上げない為にも朝柊を狙うのは自然だ。


 だが、僕が狙われる理由は何だろうか。確かに特異能力エゴを裏切り者の可能性のある黄依には見せてしまっているからその線は捨てがたいけど……。


 そう考えていると、青磁にぃは一つの絵本を本棚から取り出した。


「『desire』……著者不明の絵本にもなってる昔話だ。かなりマイナーの部類のものだし、御伽話に近いものだから、便宜上護衛軍の幹部であっても検閲が出来ないようになってる。俺様は昔クソジジイに与えられたから内容は知ってるがそこに樹教の存在理由のヒントがある」


 彼は本を開けるととある頁を見せてきた。


 そこには『美徳』を司る七人の女神。

『生と死』と死を司る二人の女神。

 そして、世界を滅ぼし死を望む不死の人間の幼い女王が描かれていた。


「コレって……」

「『美徳』というのは『謙譲』・『寛容』・『忍耐』・『勤勉』・『救恤』・『自制』・『純潔』のことを言うそうだ。それぞれに対応した女神がいる」


 キリスト教にて最も重いとされる『傲慢』・『憤怒』・『嫉妬』・『怠惰』・『強欲』・『暴食』・『色欲』の『七つの大罪』に対する『七つの美徳』。


 まさに『反転アンチテーゼ』とはこの事か。


「この話の中では女神から与えられた7つの感情と『生と死』を司る女神から苦悩と感情を与えられると『ありとあらゆる願い』が叶うらしいんだ」

「……。コレは……」

「樹教の望みは『死のない世界』。今の世界は『不完全な永遠』らしい。それを叶える為に必要な感情の器は残り3つ……『救恤』の感情と『生』と『死』の感情と聴いていた」


『救恤』は『強欲』の反転アンチテーゼ。『願いの力』──欲を強くする能力……『調律ハーモニクス』を持つのは朝柊だ。


 もし、この話が御伽話なんかじゃなく、事実だとしたら、歴史上居たとされる『女王と9人の少女達』……その話に酷似している。


 もし、感情生命体エスターを神だと言うのであれば、死喰い(タナトス)の樹がこの世界に君臨し続ける理由にもなる。


 そして、それが『ありとあらゆる願い』を叶える為の媒介だとしたら、全人類の不死化は完全なものとなるという事か。


「その器が朝柊と紅葉と僕……」

「……そうだな。だから、今回の襲撃で紅葉は既に敵の手に落ち、残るは朝柊と瑠璃だ。狙いが分かればこちらも動きやすい……可能なら朝柊の保護を最優先に動きたい。そうすれば紅葉とその先に出会える可能性はある」

「分かった。僕は朝柊の元へ向かう、だけど……」


 やはり紅葉のことが心配だ。先程の『衝動パトス』の発生源はおおよそ理解した。だからこそ今のうちに紅葉のところへ行きたい。


「紅葉の所へは俺様が行く」

「……!」

「青磁にーさん……」


 正直言うと青磁にぃは戦闘に関してはからっきし才能は無い。類稀なる特異能力エゴを持ちながら、封藤ふうとうさんの筒美流を会得できなかったのことがそれを証明してしまった。


 だから、彼が今紅葉の所へ行っても……。


「心配するなよ。大丈夫だ。奴らも命は取らないだろうよ。いや、例え殺す気で来ても俺様には切り札がある。願わくば手札は今切るべきじゃないが、取り返しがつかなくなるのもゴメンだ」


 切り札……青磁にぃの発言に一切のアテはないが、ハッタリなんかではない事は分かった。可能性もない賭けに彼は乗らない。


「分かった。翠ちゃん……青磁にぃを紅葉の元へ……。そしたら次に僕を朝柊の居そうな場所へお願い出来るから」

「分かったよ」


 そして、翠ちゃんは青磁にぃを紅葉の元へ転移させたのだった。


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