堕落編 10話 晩秋の侯1
私──霧咲黄依は白夜くんからの告白を断った後、護衛軍の寮に戻っていた。
正確には"ご褒美"を約束していた薔薇の部屋に私は戻って来たのだ。
そして、薔薇はというと顔を赤らめてベットの上で枕に抱きつきながら体育座りをしていたのだった。その後のシャワーを浴びたり云々の流れを考えれば後は想像に任せれば察しくらいつくだろう。
着衣で薔薇に押し倒される形で下腹部から臍までを舌で舐められるとら思わなかったけが、例の薔薇からプレゼントされた露出が多めの肩出しの福がまさかコレをする為だったとは思わなかった。
おかげでとても恥ずかしい思いをしたが、これまでひとつの幸せの形だろうという事で身体の中に飲み込んだのだった。
ベッドの中に二人で入りそれぞれが天上をみて手を繋いでいた。
「……薔薇、起きてる?」
「起きてますわよ」
そっか、と私は呟いたあと手を繋いでいる方とは別の手を天井に掲げながらそっと呟く。
「……私さ、今日人を殺したよ。そして私は白夜くんの期待に応えられなくて、その手でアンタに触れた。私なんかが、アンタみたいな純粋で綺麗なものに触れて良いのかな?」
薔薇はそれを聴くとなんて事を言うんだというような表情で此方を見て直ぐ大丈夫と肯定するのだった。
「勿論ですわ。私だって……自分がこんなに幸せで良いのだろうかって感じますわよ。でも結局、それって『私は貴女に触れて貰えて嬉しい、貴女が隣から居なくなったら嫌だ』っていう杞憂から来る感情に過ぎませんわ。それに、黄依さん、貴方が始末したのは一般の人の命を脅かす感情生命体ですわよ。自分に誇ってくださいまし。貴女は正しい事をしましたわ。それに……だって貴女は私の誇りですから」
「……」
喩え、世界の仕組みが殺人を許さない仕組みだとしても、それを肯定してくれる人を見つけた。
きっと私が殺人を起こした事による『自死欲』の発生と白夜くんを振ったことへの後悔やらの良くない気持ちに気付いて、直ぐ気遣ってくれたのだろう。
いや……、薔薇は良い意味でそんな賢くはない。純粋にそう考えてるから彼女から出た言葉だ。他人からどんな事を言われても曲げないそんな気持ちが心の底にあるのだろう。
だからこそ、その言葉が私の心に染みた。
ただ傲慢さだけが売りだと思っていたけど、その真っ直ぐキラキラとした瞳で此方を見られ、気持ちを直に伝えられてしまえば『私にだって価値がある』。そんな風に思えてくる。
『貴女は私の誇り』……か。
じっと、私は優しく微笑んで見えるように彼女の瞳を眺めた。
「……? どうかしましたの? 私の顔に何かついてまして?」
「……。ありがとう。強いのね、アンタ」
「?」
薔薇と額合わせになるように、私は頭をくっつけて、ただ笑って言った。
「アンタも私の誇りよ。これから先、私は貴女の隣に居ることを選ぶわ。きっと何があっても大丈夫よ」
嬉しかったし、舞い上がっていたのだろう。自然とそう言葉が出た。それに嬉しそうに反応する彼女を見て心の底から安心した。
…………──────『憧憬』。
「ッ⁉︎」
瞬間、体全身に鳥肌が立った。正確には大規模に展開された『恐怖』並の『衝動』。私に向けられたものではないが、方向が私に向いていれば持っていかれていた。
それを感じた瞬間同じくして、私の身体を掴んでいた薔薇の表情が険しくなる。
「……薔薇っ! 今の……!」
「あっ……」
瞬間、彼女は掴んでいた腕をぶらんと放し、こときれたように目を瞑りこくりと気を失った。
『衝動』にアテられたのか。
……否、であれば多少耐性のある私たち特異能力者はその『衝動』の特徴通りの行動をしがちだ。
この感情は『憧れ』……。衿華や『蒲公英』の放っていたものと近しいものを感じるから、あれを向けられるとどうなるか分かる。
神経に直接作用するものなら、意識はそのままで痛覚を刺激する、身体が動かなくなる等だ。薔薇には痛みが走っているようには見えないし、意識まで奪われているように見える。
彼女に一体なにが起きている?
「……黄依……さぁん……」
「⁉︎」
熱の籠ったような薔薇の声が聴こえると、彼女が朧げに半目になりながら此方へ寄ってくる。
「今は……そんな場合じゃ……っ!」
デジャブと共に頭痛が走る。
洗脳、記憶操作……コレは『蒲公英』の時の……樹教の幹部の特異能力。薔薇にもまだ効力が残っていたのか。
「茉……莉花……! 樹教か!」
私がその名を呼ぶと薔薇は私の事を布団から強く引っ張り上げる。
「黄依さん……大好きですわ、本当に、本当に掛け替えのないくらい。大事に、大事に大事にして、幸せに、幸せに、しなくちゃいけないって。これ以上不幸な事があっちゃいけないって。ですからね……ですから、貴女のその美しさを永遠のモノにしなくちゃあいけないですわよね?」
不味い、不味い、不味い。私を殺す気なの⁉︎
触れられているこの状況で、特異能力を発動されたら確実に不味い。身体を防御術で防いだとしても、掴まれてる腕の欠損は絶対に免れない。
「──ッ!」




