堕落編 1話 ひとのしあわせはみつのあじ1
☆
「──『加速斬撃』。着弾確認」
私──霧咲黄依はそう呟くと先程目のあった少女……『収集家』こと、竜胆柘榴の事を思い出す。
「……あいつ、私が能力を使う前にこっちを見てたわよね」
目があった瞬間感じたのは、恐怖ではなくシンパシー。そして、それと同じくらいの同族嫌悪。
あれはおそらく私と同類……人の死を救いと感じるタイプの人間だ。
『他者に依存し、その果てに何を願うか──それは安楽な死。
実の父親の死因は自殺。では父親を自殺に追い込んだのは誰?』
「ハァ……」
これは私が良くやる反芻だ。だからこの思考に陥ると私は大きく溜息を吐くようにする。
『他人の不幸は蜜の味』
この思考は消える事なく脂のように頭にベッタリと付いて、クラクラとさせる。
『それは私だ。私は知っていた。父親も向精神薬を服用していた事、父親が向精神薬を飲んだ時に限って私を犯していた事。だからあの日、細工した……排卵日が来てたから……中に出されたら不味いと思って』
あの少女……柘榴と私の違いは他者から殺人を認知出来たか出来ていないか。そんなところだと思う。
そんな私はこうやってどこか心で人を殺す事に一種の使命感を覚えている。特に紅葉のような自身の死を願う女の子に関して、もしいつか命を奪う事になったのならきっとそれは物凄く嬉しい出来事になるのだろう。
だけど、私が最近紅葉に依存しなくなったのは、私の本懐が彼女のDRAGの使用で気付かれたから。
『だから、知っていた。父親は自分の意思で私を犯していた事。自分の意思で犯してくれた事が嬉しくて、私からも身体を重ねた事。あの日、父親の罪悪感が最高潮に達した事。自分から死ぬ事を受け入れてくれた事』
…………
……
「……人を殺すといつもこれだ」
火照ってしまった身体をつねり、私を理性的に戻してくれる今の彼女の事を思い出す。
──水仙薔薇。
気高くて、真っ直ぐで、それでいて不器用で、私の事が好きで、すぐ私の事で頭を一杯にする女の子。
「あぁ、あの子にはバレたくないなぁ。だから、いつもみたいに生意気で素直じゃない霧咲黄依にならなくちゃ……」
私は携帯の画面を開き、今まで護衛軍の仕事で撮ってきた人の死体達の写真を眺める。その瞬間、脳みその中で火花が散ると共に身体は少し満足し、余韻が私を優しく溶かす。
「最近、色落ち酷いなぁ……」
黒く染めた前髪が色落ちし、金色かかっているを見て私は溜息を零す。私達、特異能力者は悲劇のヒロインじゃ無ければいけない。それも、人に隠し、演じて、自分をすり減らして、可愛くなければいけない。
しあわせになっていけないのだ。
そんな事を考えていると携帯に着信が入る。薔薇からだ。多分、窮地を救ったからその感謝を伝えてくるのだろう。
こうやって素直に私が受け入れてもらえるこの感覚は少し嬉しいな。
「もしもし、薔薇?」
「もしもし、黄依さん! やりましたわね! 流石黄依さんですわ!」
予想通り、少しテンションの高い彼女の声が聞こえる。それに私はクールぶってそれになりきれていない不器用な少女像を装う。
「アレくらい当たり前よ。大丈夫? 怪我はなかった?」
「ええ! 後少しのところでやられてしまいそうでしたけど、黄依さんのおかげでなんとかなりましたわ!」
「はは、全く…………。アンタも頑張ってたじゃない。特異兵仗、物になりそうね」
「はい! …………それで……その、ご褒美が欲しいなって……」
電話越しに聞こえる薔薇の恥ずかしくどんどん小さくなっていく声で彼女がもじもじしながらこうやって電話をかけに来ている事がなんとなく分かる。
「…………へ? いきなりどうしたのよ」
これも演技だ。ここで、素直に褒美なんて上げれば薔薇は私に幻滅するだろう。
「あの……えっと……その……、着て欲しい服があってその……絶対黄依さんに似合うんですのよ? ですけどその格好が……」
「エロいの?」
「ッッ! …………そう……ですわね」
言葉に詰まった動揺のような反応が電話越しでも伝わってくる。
「スゥ───。ハァ……」
「駄目……ですわよね……?」
「……ハァ……仕方ないわね、今夜だけよ」
そういうと、薔薇は声にもならない声で嬉しそうにはしゃいでいるように聞こえた。
「じゃあ、また夜ね」
「……はいですわ!」
携帯電話の電話を切断するボタンを押す。それと同時に今度はメッセージが来ている事に気付いた。アプリを開くとその送り主が分かり少々驚いた。
「……白夜くん?」
珍しく、彼からメールが来ていたのだ。
『合同任務お疲れ様。アイツにトドメ刺してくれてありがとうな。多分メールじゃなくて、直接言った方が良いのかも知れないが、まだエゴの反動で動けないんだ。夜になったら回復するとは思うから、改めて直接お礼をしたいんだが夜空いてるか?』
本当に珍しいな。彼からお誘いが来るなんて。でも薔薇とダブルブッキングになっちゃうし……
「なるほど……」




