殺人鬼編 47話 怠惰たる不幸論3
「……っ!」
火力特化に集中させたリボルバー式で装弾数5の大型拳銃。所謂、ロマン砲と呼ばれる代物。運用するにはそもそも2kg程ある銃身を即座に目的物に向けられる腕力がいる。通常、対人戦に用いる事はないが、もし人体に当てることが出来れば薔薇の特異能力なんかなくても人なんて即座に無力化できるレベルだろう。
柘榴はそれをノーガード受けて、尚顔を苦痛に歪めるのみ。最早、今息をしていることが奇跡的なレベルだ。
「どっちもいかれてるな……」
「何を今更……そもそも私達は人を相手にしている訳ではないですのよ。ですが、人の身体に似た体質を持つ彼女には効果覿面ですわ」
柘榴の身体の内側にめり込んだ銃弾は血の水分を媒介にし能力が発動する。体に流れたのは電流で、その強力な電気は脳まで響き、ニューロンネットワークのインパルスを乱し強制的に相手の身体の自由を奪う。
「……痛みによる拘束は無駄みたいですので、直接電撃を流しますわ。まぁ……それでも痛覚をより鋭敏にするので悶絶するほど痛いでしょうけど……」
「生命に危険を及ぼさない範囲で最大限痛みを与えつつ、拘束も兼ねているのか……拷問向きの能力だな。こいつには聞きたい事は山程あるし、助かるっちゃ助かるが……」
「もしこれでも抵抗しようものなら取り除こうとした瞬間、分かりますわよね? どちらか片方でも残っていれば貴女の全身は爆ぜますわよ」
それを聴いた柘榴は酷く崩れた笑みを浮かべ、くすくすと笑いながら電撃による激しい痛みで叫ぶ。全身が痙攣し脂汗を流し、肌は焼け焦げた箇所以外は血色の悪い白色へと移っていく。そして、ばたりと地面に突っ伏すようにして倒れた。
「……流石にもう動けないみたいだな」
「いいえ、あくまでも死なないように調整を加えているので、そういう演技をしているだけとも取れますわよ」
「そうか……」
「一旦、尋問の為に電撃を止めますわね」
「あぁ」
薔薇の電撃が止むと柘榴は身体をビクッと動かした後に、ピクリとも動かなくなった。
「……流石に死にはしてないだろうな」
「はい。周囲に死喰い樹の腕の反応は有りませんので、死亡には至って居ないかと」
「…………そうか。おい、『収集家』。これから尋問を始めるぞ」
私がそう言っても何も彼女から何も返答は返って来なかった。
「答えなければ……分かっているだろ。埋め込んだ弾丸でお前を直ぐ殺す。貴様の性格なら、死ぬ事よりも苦しみ感情を出力させる事を優先させるだろ? お前が望んだ状況を作り出した、だから貴様の協力者について全て吐け」
「…………」
それでも、柘榴からは何も返答は返って来なかった。
「黙秘……ですわね」
「最後まで読めない行動をする奴だったな」
「トドメはどうしますの?」
「お前に任せるよ、最後まで奥の手は使わなかったな」
私がそう呟いた瞬間、柘榴の身体は右足を残して一瞬で消えた。
「……っ!」
「……やはり演技か、バラ」
正確には、柘榴の身体は消えたのではなく、私の背後に瞬間移動したのだ。薔薇がまだ弾丸を爆発させていないのにも関わらず、身体は健在で四肢は左手以外もがれているおり、その全てから『シャドウ』を生やしていた。
右脚を切り離したか……だが、左手は残っているぞ。
私は自身の『シャドウ』を使い覆うようにして全力で薔薇も防御をする。その瞬間、薔薇の爆発が柘榴の左手で起こる。
同時に、置き去りになっている右脚も爆発し塵となった。
だが、柘榴本体の方は左手が吹き飛んだのみで、まだ身体を動かせている。全力の力動で防御術を貼ったのだろう。身体はほぼ無傷に等しい状態だ。右脚を先に捨てたのは左手に防御術を集中させる為か。
…………
右脚を切ったのはいつのタイミングだ?
電撃を流し終えた後のタイミングか?
否、消耗具合の少なさから見るに弾丸を撃ち込まれた時点で自身の陰で『シャドウ』を作り、右脚を切り、そしてまた『シャドウ』で切断面を塞いで隠していた。だが、部位欠損に伴う死喰い樹の腕の引き寄せは行われていない。
…………そうか。
白夜の特異能力──『死体操作』をこのブラフの為に使う事で、死喰い樹の腕を引き寄せずに、この方法を悟らせなかったというわけだな。
──流石に予想できなかった。この一瞬のやり取りの為に、1秒でも生存時間を増やす為に、ここまで仕込まれたら気付かないのは無理はない。私の思考力を強化する特異能力を人から見るとこんな感じか。かなり厄介だな。本当に面倒だ。
薔薇からしてみれば柘榴の姿が居なくなった瞬間能力を発動させたのに、爆発までのおおよそ0.01秒のラグでこんなことをされたらたまったものじゃないだろうな。
動揺による特異能力の弱体化が無ければ良いが……
「ふふ……ふふふふふ〜!」
「…………ッ!」
迫り来る柘榴を怯えるような目で見る薔薇が私の目に映った瞬間、柘榴の喉元を銃弾にめり込む。そしてその瞬間、柘榴の動きが止まり立ったまま首元を押さえて、狙撃のあった方向とは別の有らぬ方向を見て、感嘆の様な言葉を溢した。
そうか、ようやく終わったか……。
「何ですの⁉︎」
薔薇が全身を震わせて柘榴にそう叫んだ瞬間、柘榴の……元々百合だった生首が首から転げ落ちた。




