殺人鬼編 45話 怠惰たる不幸論1
「…………来たな」
旧霊園の生い茂った平地の中でそう呟いたのは私──踏陰蘇芳だった。
ここまでは全て計画通り。
まずは奴が根城としているここ──『旧霊園』を突き止めるところから。そのヒントは蟲にある。先の柘榴が食糧工場を襲撃した際殺し回収した蟲のサンプルにある。
あの蟲には元の能力者の遺伝子を基に作られたタンパク質からなるという性質がある。勿論、柘榴の遺伝子と元々の樹教の幹部の特異能力者の遺伝子は異なっているため、虱潰しに大量発生した蟲達のサンプルを回収しちゃんと柘榴のものと同一であるか確認した後に、出現位置の傾向から割り出した位置がここであった。
そして、ヤツの"死にたがり"の性格から考えても最期は私の元へ来る。その不愉快で意味不明な『未来予測』が私の特異能力で叩き出された。
「……最後は蘇芳さんなのですわね」
隣に待機していた薔薇はそう呟くと特異兵仗であるリボルバー式の銃を両手で柘榴に構え向けた。
柘榴は既に満身創痍。右手を白夜の切り札で落とされ、左脚を紅葉の全力で落とされた。肩で息をし、欠損部位を補完している百合の特異能力でさえ日が完全に昇切ったため薄れがかって効果は少なくなっている。
翠やまだ見えてないであろう黄依からの長距離攻撃を警戒している。それにあれだけの特異能力の連続使用で、もはや精神面でも肉体面でも余裕などない。それどころか、今から治療しても命を落とすのは明白と言ったところだった。
「機は熟した……と言ったところか。ここらが潮時だ、『収集家』!」
「……ふふふ〜そうみたい……ですね〜」
それでも彼女は薄気味悪い顔でこちらをまるで美味しそうな食べ物を見るような目で見つめてくる。
「貴女には聴かなければいけない事がありますわ。最早手遅れです……苦しめられて死ぬくらいなら樹教に関すること全て吐きなさい!」
「……貴女が……水仙薔薇さんですかぁ〜……なるほどです〜……」
柘榴がその台詞を放った瞬間、彼女は薔薇へ向かい『陰影舞踏』の出力を高めて突撃する。
瞬間、それに反応した薔薇が持っていた銃の引き金を引き電流を走らせ、弾が発射する。柘榴はそれを右手の『シャドウ』の最低限の動きで弾き、薔薇へ対して距離を詰めようとする。
が、弾かれた弾が辺りにあった木にめり込んだ瞬間、柘榴の攻撃が止まった。
「私……手遅れって言いましたわよね?」
これが薔薇が特異兵仗により新しく手に入れた力。弾丸に己の能力を纏わせ中距離でも闘うことが出来るようにした力。
薔薇はここら一帯にその弾丸を設置していた。それら同士が相互に作用して先程、柘榴がその弾に触れたので薔薇の特異能力である電気分解──もとい電子の操作によって電磁力が付加された。触れた場所が『シャドウ』であったが為に、柘榴に付加されたのは電磁力だけだったが、触れる場所が体内の中でも水分が多い場所ならそこに反応して水素分解が始まりそこから爆発性すら付与させる。触れる時間が長ければ長いほど威力はより強大となる。そもそも、弾丸にすら体に触れた時の爆破性には劣るが榴弾のように起爆性を付加され尚、薔薇のタイミングでいつでも爆発できるようになっている。
今回は爆発させるより磁力により柘榴の動きを止めることを優先させたが、あのように磁力により拘束してしまえばいつだって弾丸を体内に撃ち込むことなんて、薔薇にしてみれば造作もない事だろう。
そして、あの弾が体内に撃ち込まれれば再生機構持ちの感情生命体だって一発で殺すほどのものだ。
一触即発の能力を中距離で活きるようにし、もし爆発させる事ができなくても、磁力により相手の動きを制限できる。おそらく、薔薇は特異兵仗に付与させた能力の中なら護衛軍の中でも上位に食い込むほどの力得た。
「……! 電気操作で磁力の付与……ですかぁ〜……貴女も……また『願いの力』の面白い使い方をしますね〜……『シャドウ』で弾いて正解でした〜……」
「特異兵仗の出来は上々ですわね。翠さんに感謝ですわ。射撃のコツを教えてもらったんですもの」
「油断するなバラ! あくまでも弾丸を当てたのは『シャドウ』! 能力を解除すれば拘束は解かれるぞ!」
私がそう叫ぼうとした一瞬前に彼女は姿を消す。おそらく、先の戦いで見せた瞬間移動の能力。『シャドウ』を解除すれば、身体のバランスが悪くなる事と出血を止められなくなる事を悟ったのか、磁場から逃げる選択肢を選んだのか。
だが、瞬間移動ももう長い距離は飛べないだろう。それに薔薇の能力が瞬間移動で解除される訳ではない。最後の足掻きだ。
「バラ! さっきはああ言ったが今の奴には『シャドウ』を解除する余力すら無い! その能力は発動し続けろ。あくまでも作戦通りに決めるぞ!」
「分かりましたわ!」