殺人鬼編 44話 タナトスからの幣物7
『機械仕掛けの神』──本来の意味合い的に言えば、『演劇において、混乱に陥った局面に際し『神』たる絶対者が登場し、登場人物たちの運命を決めてしまい強引に幕引きへ持っていく手法』。またはその『神』自体を『機械仕掛け』と表する事もある。
柘榴曰く、萵苣ちゃんがそれという事……なら……
「明らかに『理不尽』だと思いますけどねぇ〜。全ての『願い』を叶える器なんて。そしたら、人は感情を発しなくなってしまうじゃないですかぁ〜」
「……やっぱり、分かるんだ。私がこの身一つで全ての特異能力の再現が出来るって」
萵苣ちゃんの元となった鎌柄鶏は肉体の……タンパク質を再生する事ができる能力を持っている。その、力を応用する事で、タンパク質を操る事ができれば、自身の身体の作りを自由自在に変化させる事も可能。
他人の『特異DAYN』の機構を再現すれば、他人の特異能力を使う事なんて容易い。
「だから、私は貴女みたいな存在──『理不尽』を殺す為に生まれ、人の願いを集めて来たんですよ〜」
「変わらないね、キミも」
萵苣ちゃんは項垂れている瑠璃くんを守りながら、そう呆れるように言った。
「ですけど〜……今はまだ貴女には敵わないと思っています〜。その子も、今は覇気すら感じないですし……やっぱり、手順は守るべきだと思うんですよ〜」
「手順……? また誰かの部品を奪う気?」
「幕間です〜今はまだ貴女と戦う時じゃないと思うんですよ〜」
ジリジリと私と萵苣ちゃんから距離を取るように離れていく。
やはりまだ、右手と左脚に影を生やしている。『陰影舞踏』を使用している。なら、『強制睡眠』は解除した……? 特異能力の最大同時使用が5つだとして、現在『暴食ノ王』も利用しているとしたら、数はもはや全く合わない。
さっきここへ瞬間移動した時もそうだ、6つ以上の能力を同時に使用なんて絶対に不可能だ。それこそ、この場にいる萵苣ちゃんだって無理だろう。
…………何か仕掛けがあるか?
「無駄だよ。瑠璃の身体を奪えなかった時点で、キミはじきに死ぬ。護衛軍を舐めたからそうなったんだ」
「舐めていませんよ〜それに言ったじゃないですか〜殺されに来たって〜。でも、それは貴女にではないです〜」
「萵苣ちゃん……! ソイツにはまだ何かある! 絶対に逃さないで!」
それを叫んだ瞬間、柘榴はまた長距離の瞬間移動を行う。おそらくまた、『調律』により能力を強化した。
「クソ……! 逃げられた……!」
「……ごめん。特異能力を打ち消す特異能力を再現するのには流石に時間がかかるから。あの殺人鬼、最初からその気だったから、対面した時から作ってたけど……光速で逃げられたから……」
そんな特異能力もあるのか、と私の中で戸惑いが生まれるが、今はそういう話をしたい訳ではない。
おそらく、柘榴はあの旧霊園に戻った。なら、もう詰みなのは確定しているとして……。
「高速…………? いや、そういう事じゃなくて……なんでアイツ──柘榴は特異能力を6つ以上同時に利用できているか……それが引っ掛かって……」
「……? え? 彼女の使っていた特異能力は丁度5つだったよ」
…………?
そんな馬鹿な。まず、『知能向上』、『死体操作』、『人格形成』の三つは外すことのできない標準装備だ。
それに、『陰影舞踏』、『調律』、『中継地点』は確実に使っていた。『強制睡眠』も使わなければ、『死体操作』での身体強化であんな竣敏に動く事ができないだろう。
それに『暴食ノ王』も発動されていた。もう、何がなんだかわからない。
「紅葉が何を言いたいか分からないけど"彼女が"使っていた特異能力は『人格形成』、『死体操作』、『知能向上』、『陰影舞踏』、『調律』の5つだよ」
「…………?」
「あぁ、もしかして、さっきの光速移動の事を瞬間移動か何かの別の能力だと思ってる?」
「……は?」
私は萵苣ちゃんの後ろに隠れている瑠璃くんに目を合わせ、彼にも問いかける。
「瑠璃くんもそう思う……?」
「…………うん、あれはそうだね。多分だけど……」
私はその言葉を聴いた瞬間、困惑した。だって、だって、瞬間移動の特異能力は……
だって、ふみふみが言っていた。
「──あの能力は光の速さ……つまり光速で動くERGを用いた『陰影舞踏』の能力の一部だよ」
──あ。
その事実に気づいた瞬間、遂に脳内麻薬分泌されなくなったのか、私の視界は強制的にブラックアウトした。




