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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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殺人鬼編 36話 賊害に於ける呵責4

「『畏怖嫌厭アイルビィタイガァ』──"残月ひとのこころ"」


 そう考えた矢先、ところかなめが一段階、特異能力エゴの出力を上げた。それに伴う形態変化は虎の姿から人へと戻ったような姿であった。


「己が業に深く浸かり込み、それを保って尚の理性で人へと戻るのですかぁ〜人が也たるかを理解してなさるのですねぇ〜素晴らしいですぅ〜」

「お褒めに預かり光栄だけど、その顔とその声で二度と喋らないでもらえるとありがたいかな。僕は君の身体の本来の持ち主達を"嫌い"たくないんだ」

「あらあらぁ〜なら、私のことも好きになってもらえると嬉しいですぅ〜」

「それは絶対にないね」


 自己から竜胆りんどうへと所要の嫌悪の対象が向く。


 現在の所要の特異能力エゴは他者から嫌悪され、それを力にする感情生命体エスターの機構のようなもので、実際にはそれ以上に効率良く感情から発せられたエネルギーを戦闘力に変換している。


 だがこれは『反転アンチテーゼ』によって起きたものであり、所要の真の能力は『他者から好意を受け、その好意を力に変える』というもの。だから、本来とは真逆の能力が現実で発生している。


 その為、所要の嫌悪が他者へ向くという状況が現実に及ぼす影響は『他者への害意の具現化』なのだ。身体能力向上に加えて起きるその事象は『対象の脳の処理を妨害する』もの。一見、一つの能力に見えるそれは単純な副産物に過ぎないものではあるが、実際に体験した事のある僕からすれば『弄ばれている』といった感覚や『掌の上で転がされている』という感覚に近くなる。


 この能力が能力として成り立っているのは身体能力向上により純粋に所要の手数が増えることが原因なのは勿論な事、所要は『力動』の使い所が上手い。技術が高いと一纏めでいってしまえば楽なのではあるが、技能があるという訳ではない。所要は筒美流の『師範代』となる為使えても急ノ頁まで。参考程度に言えば僕の父は『師範』で一部なら終ノ頁も使える。それを所要は特異能力エゴによるバフでそれが終ノ頁の完成度に見えるようにしているだけに過ぎない。


 だから、こうなってしまえば竜胆には僕に割く余裕や他の特異能力エゴとのシナジーを考える余裕が少なくなる。相変わらず、所要のチームワークは上手い。僕のやりたい事をやらせてくれる。


「どけ! 所要! 僕がやる!」


 そう声を出した瞬間、彼女は此方を凝視する。それを見て所要は口角を上げて笑う。


「いいのかい? 余所見して。僕を片手間で相手出来るようには見えないけど」

「本当に……本当に人って面白いですねぇ〜貴方の願いが蘇芳すおうちゃんの願いと相対することになるなんてぇ」


 彼女は歪んだ笑顔で所要の方を見直しようやくその腰に付けていたナイフを手に持った。


 やはりその口ぶりから他人の特異能力エゴを体験せずともその本質を知る事のできる能力を持っている。後に繋げる人らの能力が彼女に知られてなければいいが。


「減らず口はそこまでだ。これからお前をリンチにする。今更、嫌だなんて言わないよな」

「当たり前ですぅ〜。さぁ、早く私と殺し合いましょう?」

「簡単に死ねると思うなよ」


 ……『死体操作マリオネットコープス』──『柊夜しゅうや』。


「その力借りるよ父さん」


 今度は僕から竜胆へと距離を詰めていく。父さんに繋がっていた透明な糸が切れ、父さんは自由に僕は義手の片手が自由になる。


 ……筒美流奥義攻戦術終ノ項──『百花繚乱』。


 僕の片手で繰り出されたそれは呼応する様に父さんにも伝わり同じ技を出す。所要もそれに合わせる形で攻戦術を繰り出した。竜胆を三方向から囲む形で数百もの乱打と蹴りが花弁状のERG(エルグ)と共に舞い散った。


「ふふっ……ふふふふふ〜! コレは捌けませんねぇ〜」


 身体に何発もめり込む程の、抉り込む程の衝撃が彼女に伝わっていく。ようやく痛みが通じたのか、体勢をよろめかせ、時を止めるのに最高のタイミングが出来た。この機を逃す手は無い。


 即座にもう片手の義手から題先輩を切り離し、父さん同様に力を借りる。


光風霽月アタラクシア』──『【正位置:卯ノ刻/逆位置:酉ノ刻】──【一時停止ポーズ】』。


 瞬間、先輩を中心にして世界へ波動のようなものが広がり、次から次へと色のない世界へと変貌していく。光すら止まっているのだ。僕らがこのように世界の形を認識している時点で物理法則を完全に無視している。もはや歪といってもおかしくは無い。どのような願いがあればこれだけの能力を実現させる事ができるのだろうか。


 コレが題先輩の能力。

 "世界に干渉する"という能力。


 明鏡止水……光風霽月と形容できるこの世界で、僕がこれから行うのはこの世界を穢す行為。


「所要、コイツの身体は異常に硬い。先ずは腕だ。それでバランスが崩れれば一石二鳥だ。一緒にやるぞ」

「了解」


 "逆位置"の能力で父さんと所要はこの世界の中でも動けるようにした。だから、4人とも動ける。


 動きを止めた竜胆のナイフを握った右腕の根本、つまり右肩の骨を所要は思い切り砕く。その衝撃でナイフは飛んでいく。


白夜はくや君はやらなくて大丈夫かい?」

「…………それは多分、俺の腕だ。だから……。だから!」


 深呼吸をし、心を落ち着ける。どうせ動けるのはあと数秒。やるなら思い切りに。


 そう思った瞬間、僕の身体は自然と彼女の右腕を引きちぎっていた。


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