殺人鬼編 20話 勤勉な復讐者7
叫び声か、分からない。周囲に木霊したのは慟哭しながら発した私の声だった。
『……怒りですか。それとも哀しみですかね? いや、諦観にも近いような……興味があります。アナタの感情、アナタの思考、アナタの行動に。ですけど、私と対峙するには少し幼なすぎましたね』
途方に暮れ、絶望した先にした末の私の行動は『何もしない』事だった。
『……! なるほど、それがアナタの感情なんですね……』
その人とは決して呼べない異形は近寄ると母親の生首を私の顔に押し当てて来た。
『仕方ないですよね。尊敬してた人と自分を育ててくれた人が同時に亡くなったんですから。何も出来なくなっちゃうのも。何にも意味を見出せなくなってしまう事も。全てめんどくさくなってしまう事も』
違う。私はそんな事……
『いいえ、それがアナタの“罪“なんですよ』
私はただ『収集家』の行動に対して泣いているだけだったのに対し、ソイツは私に興味を無くしたのか、私に寄りかかっているユリの死体へ、母親の生首の眼を向けていた。
『まぁ……アナタ後回しです。まずは私の首を落とした百合ちゃんを……』
瞬間、ユリの死体から首から上がキレイに無くなった。地面にも斬撃のような攻撃を入れた痕がついており、『収集家』の手にはナイフが握られていたから、それによって行われた事なのだろう。
「あ……」
ユリの生首はすぐに『収集家』に抱えられ、代わり今まで手で持っていた母親の生首は要らない玩具を捨てるように放り投げられた。
そして、無くなった首の上を埋めるように『収集家』はユリの頭部をそこに置いた。すると、彼女の両方の瞳の中に骸骨の模様が浮かび上がり、ユリの声で、『収集家』の言葉が再生されるようになった。
「本当は百合ちゃんとはこんな形にはなりたくなかったんですけどね〜仕方ないです〜……あら〜? 意識してないのに百合ちゃんの喋り方になるんですね〜やっぱり脳を取り換えると勝手に勝手が変わるみたいです〜人間の身体って凄いですよね〜!」
その光景を見てようやく私の中に取り返しのつかないような後悔と罪悪感が沸き、そこでようやく理性を取り戻したのだった。
「さてと、まずはこの特異能力を試すべきだと思うんですよ〜」
するとユリの顔を持つ『収集家』から黒い靄状のERGが大量に放出されているのが分かった。
「オイ……! それはユリの……!」
「そうですね、この特異能力は百合ちゃんのものです〜。だからこそ、私達の特異能力なんですよ〜。これは百合ちゃんが認めてくれた証です〜」
目の前のコイツは一体何を言っているんだ。
ユリの顔でユリのように喋り、ユリの特異能力を使い……ユリがオマエを認めた?
「そんなわけないだろ……オマエ……馬鹿じゃないのか?」
私の頭がこの現状を理解できないでいた。
「心外ですね〜。私がここまでアプローチしてようやく一緒になる事が叶ったお相手なのに外野からどうのこうの言われるのはちょこっとだけ怒りそうになりますよ〜。ぷんぷん!」
言葉とは裏腹にずっと笑顔なままな彼女は、なぜか笑いながら頬を膨らませ怒っているふりをする。
そして、一瞬でその陰に拘束された私の身体は『収集家』に引き寄せられていく。
「百合ちゃんもやっぱり欲しかったけど、今一番欲しかったのは蘇芳ちゃんの身体なんですよ〜」
そんな事を言いながら彼女は陰を操り拘束具を具現化させて、私の頭部を動けないように固定させた。
「動けない……!」
「暴れちゃ……ダメですよ〜。綺麗なお顔が傷ついちゃいますからね〜。それに……やっぱり綺麗で大きな目ですね〜。この目が私に……そしてアナタが百合ちゃんになる……それが決まっていた運命ならとても素敵な事だと思いませんか〜?」
「どういう……事だ……?」
その瞬間、彼女は自身の左目を『シャドウ』でくり抜いてそれを愛おしそうにもう片方の右目で眺めながら、それを手で愛でていた。
「うふふふ〜痛いです〜。でもなんて……楽しいんでしょうね〜これが幸せの証明なんですね〜」
「ひっ……」
ようやく、これから何をされるのか悟った。
百合の目を私に移植して、コイツは私の目を自身に移植する気なんだと。
「さて……とても痛いと思いますけど〜蘇芳ちゃんもきっと幸せになれますから〜」
「やめろ……やめてくれ……」
「だって、貴女を救ってくれた人の一部が自分の一部になるんですから〜。幸せ……ですよね〜」
ユリの声でユリの口調でユリの顔をした化け物が私に愛を囁く。
「大好きですよ〜。だから、貴女も私と一緒になるんですよ〜」
瞬間、私の左目から一切の視力が大きな痛みと共に無くなった。
「あぁァァ!」
痛い! 怖い! 何……? なんなのこれ⁉︎
「私は馴れっこなので大丈夫ですけど〜蘇芳ちゃんは……きっとできますよね〜頑張ってください〜」
彼女は私の顔を自身の手で掴み、左目の空白に骸の模様が刻まれた瞳をはめ込んだ。その瞬間、私に流れ込んできたのはユリの感情であった。
『偽り』……?
「嫌……嫌……イヤ! 知りたくない……! こんな気持ち……こんな感情……!」
「……あら〜? おかしいですね〜なんで『恵投』が消えたんですか〜?」
私は咄嗟にはめこまれた瞳を取ろうとする。しかし、『収集家』にそれを阻止され、少しだけ不機嫌そうな彼女の顔が、まるで恋人同士との距離感のように近づいてきた。
「……? なんで嫌がるんですか〜? 貴女が好きな人と一緒になれるんですよ〜?」
その瞬間、全てが挫けそうで、全てを諦めてしまいそうだった私に喝を入れるかのようにユリの感情が流れ込んできた。
そして、自然と口が開いた。
「今更だけどさ……お前……おかしいよ……」
「別に私を否定するのは構いませんけど〜何故そう思うんですか〜?」
初めて彼女の笑顔ではない顔を拝めたことに気が付いた。
そして、ようやくそこで気が付いた。いや、この事実に気が付いた事自体、遅すぎるなんて事は無かった。
目の前のコイツがどういう存在なのか。
コイツも感情生命体なんだなと。
コイツにとって今は思い通りに事が運んでいない事に。
「それすら分からないなんて、本当に気持ち悪いな……」
「ん〜?」
「ははは……お前……人間失格だなぁ!」




