殺人鬼編 19話 勤勉な復讐者6
そんな様子を見せたユリに私は思わず声を出してしまった。
「ユリ……?」
「……ごめんなさいね〜。今、少し言葉を整理してるんですよ〜これは私が招いた罪ですから〜」
ペタリとユリは倒れていた私の隣に体育座りをし、私の顔を覗き込んで、少しずつ話していく。
「二ヶ月以上前……私がまだ護衛軍をやっていた頃の話です〜。突然、あの『収集家』が私の実家を強襲したんですよ〜。そして、パパとママの意識を奪って殺した後に、『私を殺したければ護衛軍を辞めてから蘇芳ちゃんと会ってください』って言われたんですよ〜」
「私と……?」
「そうですよ〜。今回私たちが襲われた原因を作ったのは私自身なんですよ〜。おそらく、アイツは蘇芳ちゃんが特異能力者になる可能性がある事を何らかの方法で知っていたと思うんですよ〜。だから、覚醒直後まだ完全に特異能力に目覚めてないうちに、あなたから体のパーツを奪おうとしたんでしょうね〜。だから、蘇芳ちゃんには本当に申し訳ない事をしてしまいました〜自分の復讐の為にあなたを巻き込んでしまって……」
本当に申し訳なさそうな顔をしながらユリは肩で息をしていた。
「そんな事、別にいいよ。ユリのお陰で私はこの力が使えるようになったし……それにユリにはそんなになるまでに守って貰えたし。ところで何でユリは私がその特異能力者である事を確信できたんだ? 『収集家』は私に会えって言っただけなんだろう?」
「……さすが、鋭いですね〜。でも、結構簡単な理由なんですよ。あなたを一目見た瞬間、アイツの目的を察せたくらいですから〜」
それは一体……? 遺伝以外にも見ただけで分かるような何かしらの特徴が特異能力者にはあるのだろうか。
「……その理由聞きたいですか〜?」
「……まぁ、うん」
悪戯っ子のように目をキラキラと輝かせながら、上目遣いでユリは私に尋ねてきた。
「あなたがとってもかわいいからですよ〜」
「……はい?」
彼女が何を言っているのか一瞬理解できなかったが、あまりの馬鹿さ加減に少しだけ溜息を吐くと、それに反論するようにユリは私の頭を撫でた。
「重要な事ですよ〜。可愛いって。実は特異能力者に必須な条件なんですよ〜」
「うーん……」
それって暗に自分の顔も良いって言ってるようなものだけど。まぁ、間違ってはないけど……
そんな事を考えていると、さっき言った冗談のような言葉が嘘だったかのようにユリは私の顔を真剣に見つめてきた。
「……」
「どうかしたのか?」
それは今にも泣きそうな顔で、まるで今生の別れをこれからするかのような、そんな顔だった。
「……ごめんなさいね〜本当に……本当に……」
彼女がそれを呟くと、彼女は自身の服をはだけさせ背中を見せ大きく切り傷がついており、内臓が今にも飛び出しそうになりながら、人の身体には無い何か得体の知れない無数の蔓のような小さな触手が蠢いているのが見えた。
まるでそれはユリがもう人間ではないかのような……
「……!」
「私……取り返しのつかない事しちゃいました〜。こうでもしなきゃアイツを殺せなかった私を許してください〜」
「もういい、やめろって……」
「本当はもっとあなたに筒美流奥義を……特異能力の使い方を教えたかったです〜」
ユリは私の頬を撫でながら、涙を堪えて声を震わせながら言う。
「やめてくれ……そんな事……」
「このまま、放っておくと……私……感情生命体になってあなたを殺してしまうかもしれないじゃないですか〜。だから、あなたに私を殺させる訳にはいかないし……。きっとあなたにはトラウマを植え付けてしまうかもしれない……だけど、それがまたあなたを強くする筈だから……」
私はそれを静止する為にすぐさま叫ぶように声を出す。
「……おい、ふざけんな! 私達仲良くなったばっかじゃん! まだ、私も……これからもっと強くなれるはずだろ⁉︎」
だが、ユリは首を横に振ると私の額に自身の額をくっつけて、真っ直ぐ私の目を見つめた。
「そうですね〜。出来れば、あなたとチームを組んで一緒に戦ってみたかったです〜。だけど……だから最後に、伝えておきますね〜」
次の瞬間、ユリはユリ自身の手で自身の胸に手を作っ込み、心臓を握り潰し私に寄れかかるように息を引き取った。
再生機構と核となる筈の部分を潰したのだ。
即死だった。
そして、私に残された最後の言葉は……
…………
……感謝と好意、そして私の幸せを願う言葉だった。
「……なんだ、知ってたのか。それでも私を……ありがとうな。ユリ……」
その動かなくなった亡骸を見ると笑顔だった。その顔を見て込み上げてきたものは、儚く、同時にそれが私を強くしてくれるものだということがわかった。
「こんな哀しみが起きないような世界にするから……」
言葉にしたのは私の誓いと夢。そして、私の目的が明確になった瞬間だった。
そんな私が覚悟を決めたタイミングで、私は同時に最悪な事実に気が付いた。いや、聴こえたと表現した方が正確だった。
『百合ちゃんは死んじゃいましたか……早くしないとです……』
「……ッ⁉︎」
幻聴。否、どこか聴き覚えのある30代後半の女性の声。
いや、違う、ユリに頭を潰され、生きていられる筈の無いアイツの声、正確にはアイツの声じゃない筈なのに、アイツのものだと分かる確信があった。
『良い経験でした。この特異能力って死んでも、頭を潰されても発動するんですね。それを知れて良かったです』
そこで、私は事実を目の当たりにした。
残虐に切り刻まれた私の両親の死体。首のない化け物が異様な雰囲気を醸し出しながら母親の生首を弄んでいるその様子を。




