殺人鬼編 6話 特異兵仗6
「まっ全力でやればこんなものね。……紅葉! いつかアンタのお爺さんにも負けないくらい速くなってやるんだから。今に見てなさいよ!」
得意げにドヤ顔で筒美さんを指差し言い放つ霧咲さんを見ていると私も何故だか自分のことのように誇らしくなった。
だが、筒美さんは先ほどから何か少し俯いて少しボーッとしている様子だった。
「ほむ、流石だよ、黄依ちゃん。いつか私より速くなるんじゃないかなって思ってたから。完全に追い抜かれちゃったね」
「……何よ! もうちょっと張り合いのある事言えないの?」
「……」
少しぼーっとした後、話しかけられたことに気づき筒美さんは自分の身体に違和感を覚えたのか自分の額に手を当てた後、壁の近くまで行きそこへもたれかかった。
「ん? どうしたのよ?」
「……うん。ちょっとフラッと来ただけだから。大丈夫、ホント大丈夫だから」
私から見れば紅葉さんはいつも無表情な為、その言葉が無理をして言っているものか、本当に大丈夫だから言っている事なのかは分からない。確かに私達でもよく特異能力を使った後はめまいとかそういうものに襲われる事があるけど。
「……前はそんな事なかったのに。無理してるのなら、また別の機会設けてもらうわよ?」
「そうっすよ、紅葉さん。特異兵仗は使った人に害の無い様にむしろそういう副作用を減らす様に作ってるから、製作者としては心配っす。私も暇では無いけれど、すこしの時間くらいなら開ける事出来ますから」
だが、筒美さんはそれを聴かず霧咲さんからナイフを受け取った。
「問題ないよ。別に、私は大丈夫だから」
そういい、ナイフを持ち構えると他の人の静止を無視して筒美さんは特異能力を発動させた。
「──『速度累加』」
瞬きする間すら隙の無い速さ──先程の霧咲さんと同じくらいの速さだったが、彼女は身体のコントロールをできなかったのか、まるで瞬間移動かのように少し離れた場所でうつ伏せで倒れていた。すぐ、顔を起こすが、彼女はそのまま考え込むような姿勢になっていた。
「……?」
「だから言ったじゃない。無理は良くないって」
「いや……これは……? うーん、ちょっとごめん。黄依ちゃんの言う通りだ。本格的に体調悪くなってきたかも」
筒美さんはそのまま突っ伏した状態で霧咲さんの言葉に返答した。そんな状態を見て朝柊さんは心配したのか、霧咲さんに特異兵仗の使い心地を問う。
「黄依さんは特異兵仗を使っても何も無いっすよね?」
「えぇ、勿論。やっぱり使用者以外が使うのは良くないんじゃないかしら」
「問題無く特異能力が発動してる時点で、そういうのはない筈なんすけどねぇ。紅葉さんが特殊体質なのもあるかもしれないっすけど……」
そしてしばらくすると、筒美さんは立ち上がり霧咲さんに再び特異兵仗を返したのだった。
「ほっとけば治ると思うけど、念のために今日はもうおやすみを貰うね。朝柊ちゃんの方は何か参考になりそう?」
「そうっすね。普通、特異兵仗っていうのはDRAG同様に他人が使っても何も起こらないようにセーフティロックみたいなものが掛かってる筈なんですよね。紅葉さんはDRAGのそのセーフティを外していたから、特異兵仗のセーフティも外す事もできて、今回黄依さんの特異兵仗を使えたんだと思うんすよねぇ……まぁそれ自体凄く異例な事だとは思うんすけど、そこまできたら後は普通の特異能力を使う時と同じで、特段制約でもかけていない限り副作用無しで特異能力は使えると思うんすよ」
朝柊さんは紅葉さんに長々と説明する。それを紅葉さんは無表情で真剣に聴いている。
「此処では言いにくいっすけど、一つ言えることといえば紅葉さん、無茶しない方が良いっすよ。……今回は私が言い出したことだし、無理さえしなきゃ大丈夫だと思うんすけど……その辺紅葉さんの主治医である瑠璃の兄さんに相談すれば良いんじゃないかなと思います」
朝柊さんはなんだか人に気を使えるようになったのか、今日はやけに人に対してアドバイスをする気がする。
「なるほどね、ありがとう。黄依ちゃんも心配かけてごめん、多分大丈夫だから。薔薇ちゃんも付き合ってくれてありがとう」
「まぁ良いわよ。こっちこそ、体調悪いのに付き合わせて貰って悪かったわ。さぁ、薔薇。アンタは朝柊に用事があるんでしょ? 私達の用事は終わったから、もう自由にして良いわよ」
私だけ話の流れを理解できないまま霧咲さんの会話にハイと答えた。だけど、足が止まっていた為霧咲さんに手を引っ張られ、朝柊さんの方へ連れていかれる。
「……ほら、薔薇、ぼっーとしてないで。行くわよ。紅葉の事なら大丈夫よ。さっ朝柊も、寮の方へ戻るわよ」
「うっす」
「ちょっと! 引っ張らないでくださいまし」
結局、私はこのまま寮の方へ戻り、筒美さんがこの後どうしたのかはわからなかった。




