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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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殺人鬼編 4話 特異兵仗4

 模擬戦室に着くと早速霧咲《きりさき》さんは折りたたみ式の定規のようなモノを取り出した。


 霧咲さんが幼い時、暴力事件を起こした時に使用した包丁を加工して作ったバタフライナイフ。グリップの部分は黒光りしており、内蔵された刃は人の肉位なら簡単に切り裂く事のできる切れ味となっていた。


 コレが特異兵仗《アイデン》であるのだが、彼女がそれを振ると刃が飛び出す。今の刃を出す動作は『Quick draw』と呼ばれるバタフライナイフの技で、最速で刃を出し、収納することができる技であった。


「比較も含めてまず本来の使用者である私が使ってみるわよ。紅葉《もみじ》、斬撃を飛ばすから色んな所に防御術で的を作って」

「りょーかい」


 筒美《つつみ》さんは分かりやすいように色を緑色に変化させ、やや強度の落とした防御術の結界を空中に沢山貼った。一方、霧咲さんはバタフライナイフをクルクルとペン回しのように器用に回し始める。


 一度、『Horizontal close』でナイフを閉じ、『Behind the 8 ball』、『Index rollover』と技を続けていき、最後に『Short stop』という技で刃を突き出したまま逆手持ちでナイフを握った。


 そして、ナイフの軌道に合わせて次々と見えない斬撃により的が割れていった。


『僻遠斬撃《リモートインパクト》』をオン・オフしながら、斬撃の軌道上に敵がいる場合だけナイフの回転で出来た斬撃を飛ばす。タイミング的にシビアな使い方だが、霧咲さんにはもう一つの特異能力《エゴ》──『速度累加《アクセラレーション》』による『思考加速《フロー》』がある。それによって強化された動体視力で『僻遠斬撃《リモートインパクト》』のコントロールを行えば、狙ったところへ肉を削ぎ落とすような即死級の斬撃を飛ばすことは難しくない。


 また、敵視点から見れば霧咲さんはただバタフライナイフを回しているだけである。その為、従来の『僻遠斬撃《リモートインパクト》』のように分かりやすい攻撃体勢に入らなくても攻撃が可能となったわけだ。


 この動きで斬撃を生み出す理由になったのは、大きな構えをせずとも『僻遠斬撃《リモートインパクト》』を放つ為にしたと言っては過言ではないが、一方で初見では確実に気付かない攻撃方法であり、もし途中でバタフライナイフと攻撃との関連性に気付いても、その軌道を読み切る事は『速度累加《アクセラレーション》』により、斬撃が生み出されるタイミングと斬撃そのものの移動スピードをずらす事ができる為ほぼ不可能であるだろう。そもそも、空気の動きを読むレベルの筒美流の使い手で無ければ斬撃自体避けることすら不可能である。


 霧咲さんの特異能力《エゴ》は特異兵仗《アイデン》を得て初見殺しだけでなく、対応してきた相手にまで罠を張るというものになった。


「相変わらず凄い火力だよね! 昔なら威力をコントロールしながらやってたから一回『僻遠斬撃《リモートインパクト》』を使っただけでかなり集中力を使って結構バテてたけど、特異兵仗《アイデン》のお陰で無駄な体力の消耗も少なくなったし、威力もそのまま。とっても強くなったんじゃない?」

「そうですわね。普通の相手なら守りに入った瞬間、後手に回ってしまいますわ」

「世辞は良いわ。今は私の事なんかじゃなくて、同じことが紅葉にもできる事を確認するのが重要でしょ?」


 霧咲さんはそう言いながら、ナイフを閉じ、筒美さんに投げ渡す。


「いやぁ……多分、黄依ちゃんのようにはいかないよ。薔薇ちゃんその辺に防御術で分厚い結界を張ってくれる?」


 ナイフを受け取った筒美さんはそんな事を言いながら、ナイフを開き、手を伸ばして天井にナイフの刃先をを向けた。


 私は何枚もの防御術による結界を張ると筒美さんが頷き、軌道上から避けてほしいと合図をした。


「いくよー」


 彼女がそう言うと高速で手が下されると同時に轟音が鳴り響き、煙が立ち上がった。


「きゃっ……!」

「あちゃー」

「ひぇぇ」


 煙が晴れると結界は縦に割れ、同じERG(エルグ)製とはいえもっと硬く作られている筈の床や壁にも深く斬撃の跡が付いていたのが分かった。


 その様子を見ていた朝柊さんは私の腕に捕まり怯えていた。


「相変わらずバカ威力ね。いい加減火力調整くらい覚えなさいよ」

「なるほどー全力でやるとこうなるのか。よっぽど、硬い敵が来ない限り私は使わない方がいいね、コレ」


 筒美さんはナイフをプラプラとさせて遊びながら言う。その様子は子供が刃物で遊んでいるようなモノであった。


 そして、しばらく間を置いた後に朝柊さんが口を開いた。


「私が作ったモノがこんなんになるなんて……やばいっすね」

「珍しい反応ね、朝柊。いつもなら興奮気味に使い方を教えてくれるじゃない」

「いや……まぁそうなんすけど……。私が好きなのはあくまで色々な工夫を試すことで強くなってもらう事っすから、紅葉さんのはなんかちょっとベクトルが違って驚いてるだけっす。気にしないでください。それよりも、特異兵仗《アイデン》で特異能力《エゴ》を発動させた感想はどうっすか?」


 筒美さんは暫く言葉を考えてから口を開いた。


「うん、前よりは体力の消費は少ないかな。でもやっぱり私には葉書《はがき》お姉ちゃんとの『同化《アシミレーション》』があるから体力には余裕あるし、私のをあえて作ってもらう必要はないと思うよ」

「なるほどっす。『僻遠斬撃《リモートインパクト》』の方は分かったっす。それじゃあ『速度累加《アクセラレーション》』の方はどうっすか?」


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