238 (sideアリス) エイプ渓谷とスノウエイプ
「ねぇ~トロンギルス。いるわよ、エイプ。2匹は確実ね。もしかするとそれ以上かも、でも私の索敵には今の所2匹だけよ。きっとカイザル丘陵で私たちが倒したキャット達を探しに行っている可能性があるわよ」
第3部隊の探査・索敵を担当しているヘロスが小さな声でトロンギルスに耳打ちしていた。
「なら今の所俺たちの事に気づいているわけではないということだな」
「そうなるわね。だけど、あの2匹の移動経路を想定すると私達と接触することはないと思わ。でも、しばらくここで待機が必要だと思うわよ」
「2匹程度ならかまわないんだが、出来るだけエイプ達とは戦闘したくないからな」
10数匹程度なら大したことないのはわかっているが、スノウエイプ達は後から後から湧いて出てくる。その為、戦闘しないで通り過ぎるにこしたことはないと考えていた。
「お前ら、しばらく待機だ。出来るだけ音を立てるなよ」
スノウラビット達は体全体が白い毛でおおわれているので、離れている場合なかなか見つけにくいのだ。
しかし、体が大きな戦闘部隊であるので立ち上がったままだと、普通よりも見つかりやすい。
その為、待機といわれたので全部隊の隊員たちはその場でしゃがみ込んだ。
音を立てないように気を付けながらゆっくりと手を着き、耳を下げて、体を丸めるようにして待機の姿勢を次々に取っていった。
やべぇな。
こういう待機って苦手なんだよな。
ドロイアスはおおざっぱで細かい作業が苦手だった。
しかも、片目を昔の戦いで亡くしているので、周辺に関する死角が出来てしまう。そして、この事がドロイアスに緊張を加速させていった。
周囲には何もないよな。
頼むぞ。
何もないな。
ないな。
これだけしっかり見れば大丈夫だろう。
パキィ!!
「やべぇっ」
やはり見落としていた枝が雪の上に転がっていた。
下手に動いてしまうと、その動作でスノウエイプ達に気づかれてしまうかもしれないと思うとドロイアスはその場で石のように固まってしまっていた。
ただ、ドロイアス以外のスノウラビット達全員からの痛い視線のようなものが飛んできているのははっきりと伝わった。
部隊全員が第3部隊の探査・索敵担当のヘロスの声がいつ来るか集中していた。
皆が自分の鼓動がドクッドクッと聞こえてくるのではないかと思えるほどの緊張感が続いた。
トロンギルスは背筋に大粒の汗が流れていくのを感じて、このまま緊張を持続させるか、いっそのこと倒してしまうかの選択肢に迫られていた。
「まって・・・・まだ動いてはだめよ。トロンギルス。大丈夫だからねっ!」
ヘロスはニコっと笑顔でトロンギルスを制した。
あまり可愛いとは言えないが・・・・。
それでも、ヘロスはトロンギルスの葛藤に気づいていた。
意識していたから、小さな木の枝の音が気になったが、大自然の中では気が折れる音などは少なくない。
その為、スノウキャットの2匹は特に気にすることもなく餌場に向かって進んでいた。
「皆もう大丈夫そうよ。でも、まだエイプ渓谷の途中だから静かにね・・うふっ」
ヘロスは嬉しそうに部隊長達に伝えると、トロンギルスの手による合図に従って動き出した。
「レイテ、緊張したね」
アリス達はドロイアス達とは距離が離れていたが、それでも、緊張感は伝わってきていた。
「うん、あいつら1匹と戦っていたら、いつの間にか行列が出来る位集まってくるから厄介だもんね」
「へぇ、そうなんだ。それで名前はなんていうの?」
「スノウエイプだよ。この渓谷はスノウエイプ達が住み着いているからいつの間にかエイプ渓谷って呼ばれるようになったんだ」
「そうなんですのね。ありがとう、レイテ」
もしかすると、今後、関わることがあるかもしれないと思ってアリスは気をつけることにした。
その後は特にスノウエイプ達の襲撃も、スノウキャット達の襲撃もなくスムーズに進んだ。
なだらかな登りがずっと続いていたけど、少し先は明らかに斜面の角度が上がってきているのが見て取れた。
これまでカイザル丘陵を進んでましたけれど・・・。
これからはカイザル高地に入っていくんですのね。
そうすると、ここから本格的な戦いが始まるんですわね。
アリスが自分の中で緊張感を高めていると、
「よーーし、この辺で一度休憩を取るから各自休んでいろっ!」
エイプ渓谷を過ぎているので、トロンギルス部隊長の声の大きさは元に戻っていて、馬鹿でかかった。
ここで休憩ですわね。
それでは・・・・・。
アリスはこの休憩時間を使って、身体強化魔法の訓練の続きをするために木の陰で酸性弾を維持させた。
この魔法の骨組みが分かればよろしかったですのね。
しかし、骨組みですか・・・・・・。
アリスはレイテの言っていた骨組みというのがどうしても理解に苦しんだ。
キルアント族は外骨格で形作られていたので、体の中に骨の存在がなかった。
それで、骨組みという言葉に違和感しかなかったのだ。
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