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237 (sideアリス) エイプ渓谷

「わかりましたわ。この休憩中にもう少し頑張ってみますわ」


「無理しないようにね。本当に無理しちゃだめだよ。この後に戦いが控えているのは間違いないからね」


 レイテは行軍中に魔力を使いすぎると先々の負担になるからやめた方がいいと思ったが、今のアリスに伝えても無理かもと考えた。


「そうですわね。レイテ。心配かけてごめんなさい」


「いいや、それはかまわないんだけどね。だだ、そろそろ・・・」


「よっしゃぁーーー。みんな休憩はこの辺で終わりだ。出発の準備をして、隊列を整えるんだ」


 レイテが話をしていると、トロンギルス部隊長の大きな声で出発の合図が響いてきた。


 横になっていたスノウラビット達も一気に立ち上がると、あっという間に整列していた。


「この調子で親玉の所まで突っ切るぞ!いくぜ!みんな!」


 トロンギルスの声が鳴り響き、戦勝気分にのったスノウラビット達は景気よく移動していた。


 途中にいくらかの抵抗が入るかと思ったが、不思議なくらい抵抗もなくまっすぐにカイザル丘陵を登って行った。


「なあトロンギルス、なんかおかしくねぇか?」


 もう少し抵抗があると考えて周囲を警戒しながら移動していたが、一向にスノウキャット達からの攻撃がないため、第2部隊長の片目のドロイアスは部隊長であるトロンギルスに自分の感じている違和感を伝えた。


「そうなんだよ。いくら何でもこれほど無抵抗なのは少しおかしいと思う。しかし、たった1回の襲撃で俺たちの強さを確認することなんて出来ない・・・・」


 トロンギルスはドロイアスに伝えながら、自分自身の中で間違っているような気になった。


 普通の襲撃であったとすると、たった1度では俺たちの強さをはかれない

 しかし、考え方を変えてみることは出来ないか?


「なあみんなっ、さっきの攻撃がもともと俺たちの強さを図る為のものだったとするとどうだろうか?」


「だけどね~ぇ。トロンギルスちゃん。キャット達ごときがさぁ~。そんな戦術を考えられるとはおもえないわよぉ」


「ああ、俺もそうだと思うぜ。トロンギルス」


 第3部隊長のヘロスの言葉に第2部隊長のドロイアスが同意していた。


「だがな、スノウキャット達を討伐派の族長が操っているっていう噂があるだろう。もしも、それが真実なら俺たちの強さを図るためだけの敵襲という考え方も出来ないわけじゃないだろう」


「じゃあなにか!?その~キャット達がどこかで待ち伏せてるっていうのか?あんな弱っちーーやつらがいくらかかってきても大したことなくねぇか!?」


「たしかに今の俺らは4部隊で12兎とアリスだ。これ迄の傾向ではキャット達は群れることはなかった。しかし、討伐派の族長に率いられるようになって群れて挑んでくる。考えられない数で挑んでくるかもしれない」


「はぁ~~もしかして俺らの倍の8部隊で24匹位が来るってのかぁ!?そんなバカげた数で攻めてくるキャット達なんかみたことねぇぞ!!」

「そうだぜ!隊長ありえねぇよ。わっははっ」

「そんな数でやってきたら同士討ちでもはじめるんじゃねえのか、ははははっ」


 周囲で話を聞いていたみんながそれぞれ否定した考えを言い合っていた。


「ははっははっ、そうかもな。考えすぎたか。すまない。この先はエイプ渓谷を横目にカイザル高地まで一気にすすんでやろうじゃねぇかーーーよっしゃぁーーー進め!!」


 トロンギルス部隊長は皆のやる気をそいではいけないと思って、周りの意見に乗っかることにした。


 しかし、この先にあるカイザル高地はかなり傾斜も強く、いくら俺たちでもそれほど一気に駆け上ることは出来ない。


 そんな場所で、例えば12部隊である36匹に相当する数を率いられたとすると我々には勝ち目はない。


 それどころか全滅の可能性すらある。


 しかし、もしもあいつらが俺たちの強さを探る為だけに戦いを仕掛けて来たという戦術を使ったとすると、その点に気づくかもしれない。


 しかも、率いているのは同じ種族の族長だ。


 我々のことをよく知っている族長が無駄な戦いを避けて、一気に決着をつける方法を取らないと言えるのか!?


 あーーーわかんねぇこと考えてもわかんねぇわ!!


 トロンギルスは考えているとめんどくさくなって考えるのを止めることにした。


 なるようにしかならねぇし、その時その時に考えればいっか!


 そうしてしばらく進んでいくとエイプ渓谷の入り口に差し掛かった。


「ヘロス索敵よろしくな。出来るだけエイプ達とは会いたくないからな」


 エイプ渓谷はその名のもととなったスノウエイプ達の住処だ。


 スノウエイプ達は渓谷に落下したモンスターや迷い込んだモンスター達を餌としているため、常に渓谷内のいたるところをうろうろしていた。


 そして、基本的に集団行動をとる種族の為、「1匹のスノウエイプがいたら、10匹が近くにいると疑え」といわれるほどに危険なモンスターとなっている。


「あいつらは音にも敏感だから出来るだけ静かに通り過ぎるぞ」


 さすがに普段馬鹿でかい声で話すトロンギルスもこの後のスノウキャット達と戦いが控えているから、むやみに大きな声を出して無駄な戦闘をしないように意識していた。


 そんな時、第3部隊長のヘロスが手を横に広げて移動を制止すると、


「トロンギルスちょっと止まって頂戴!!」


 トロンギルスに停止するように声をかけた。


 トロンギルスの動きに呼応するように何も言わずに全部隊が動きを止めた。

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