231 (sideギィ)大粒の汗
スノウラビット族 アンデス (衛兵隊長:白熊討伐派)
タンゲ (衛兵隊の隊員、アンデスの幼馴染:白熊討伐派)
レニーエス (アンデスの妹:白熊討伐派)
アリウス族長 (族長で穏健:白熊討伐派)
ロレンズ族長補佐 (アリウス族長の補佐:ターキウス族長の追放理由を知っている)
うわぁぁ、なんだか手が動かなくなってきちゃった。
これ以上は無理だぁ。
この辺は雪が多くて、爪で雪をかいていてもなかなか地面まで行きつかなかった。ギィはこれ以上動くのも嫌になり雪に体を伸ばしてくつろいでいた。
ガジガジと雪を食べて水分補給をしながら、ふっと思いついたことがあった。
もしかして・・・・!
ギィはタンゲに気づかれてはいけないといわれていたことを思い出して、出来るだけ小さくしてみてはどうかと思い、小さな声で唱えた。
・・ファイヤーアロー・・
しゅっ!
じゅう~~。
小さな炎の矢が雪に向かって飛び出して、その後周辺の雪を溶かしていった。
やったぁ、成功じゃん!
でも、周りに見えたらいけないから・・・。
ギィは最初に出来た穴に手を突っ込んでそこから、何度もファイヤーアローを小声で唱えていった。すると、見る見るうちに周辺の雪が溶けだして、地面があらわになっていた。
するとそこにはトーロモイらしき根が少し出てきていたので、温まった爪でほじくり返すと白くてとろ~りとしたトーロモイがたくさん出て来た。
それなりにお腹の状態も落ち着くと、少しウトウトとしてきた。
ふわぁぁ・・むにゃ・むみゃ・・・・。
明るくなるまで少し休んでおこうかな。
温まった地面でだらしなく眠っていた。
※ ※ ※
タンゲは衛兵所へ向かうと、ゆっくりとテントに入って行った。中はとても静かで、誰かがいるような気配もない位だった。
奥まで進むと、そこにはアンデスが暖をとりブツブツと何かをつぶやいていた。
きっと、明日の部隊の選別をしているのだろう。
タンゲはリザード族の件をどうしようか迷っていた。
黙ったままでいるのがいいか?
それとも、聞いた方がいいのか?
考えがまとまらないまま、アンデスの前に立っていた。
「おう、タンゲ。明日まで時間がないかならな。急いで選別してしまおうぜ」
「ああ、そうだな・・・」
「どうしたんだ!?元気がないな。そんなんじゃ。レニーエスを取り戻せないぞ。明日はきっと戦いになる。心配なのはレニーエスが大けがを負っているのではないかということだ。まあ、死んではいないと思うが、最悪はその点も考慮が必要だな」
タンゲはレニーエスについて感情がこもっていないような感じで話しを進めていたことに違和感を感じた。さらわれた現場では、もっと兄として怒りの感情があったはずなのに・・・。
「おい、アンデス。レニーエスの事だぞ。なに、そんなに平然とそんなことが言えるんだ!?」
「タンゲどうしたんだ、突然っ!」
「だって、お前、レニーエスがもしも死んでいたなんて想像できないぞ。しかも、そんなことを軽々しく・・・最悪は・・考慮だとっ!!」
タンゲはアンデスに怒りが抑えきれなくなった。
「それに、あいつは何なんだ?」
「あいつって・・・何のことだ!?」
「門番から聞いたぞ。リザード族を連れて入ったそうだな」
アンデスの表情が驚きに変わると、スッと目をそらした。
「こっちを見ろよ、アンデス。リザード族はあいつの仲間かもしれないんだぞ。あいつの為にどれくらいの数が生け贄になったと思うんだ。あのリザード族はどうしたんだよ?」
アンデスのレニーエスに対する言葉があんまりだったせいで、タンゲは自身の制御が利かなくなり、思わずリザード族の事を口に出してしまった。
「あいつは・・・俺はあいつを白熊にぶつけるつもりだ」
「あっ・・・な・・そんなこと・・」
タンゲはアンデスが口にしたことに、驚きで何をどう話したらいいのか分からなくなった。
「俺はあいつを隠している。タンゲこのことは秘密だ。誰にも言うなよ。ただ、レニーエスは・・・・」
アンデスは俺とは目線を合わせずに、最後は声が小さくなり聴き取りにくくなっていた。最後にレニーエスといったの言葉が聞こえた気がしたが、それ以上は語らなかった。
「今は時間がない。この件はレニーエスを救出後に話をさせてくれ」
「わかった」
アンデスのレニーエスに対する発言も含めて、タンゲは考えがまとまらなかったので、これ以上追及するのはやめることにした。
しかし、それとは別に、すでにリザード族は逃がしているので、この事はどうしようと背筋から大粒の汗が次々と流れていた。
※ ※ ※
「・・・・たか・・・集合・・・。・・・いいか。戦いに行くわけじゃないぞ。確実な証拠がない以上、まずは穏便に交渉してからだ。とくにアンデスわかったか?」
「・・・・アンデしゅ・・はっ、寝すぎた」
ギィはアンデスという言葉で目が覚めた。
やばい、気持ちよすぎて寝過ごすところだった。
積雪の雲はまだ上空に残っていて、薄暗がりの状態だった。完全に明るくなるまではまだ少し時間がかかりそうだ。
ギィは声の聞こえた門の方を見ると、タンゲがキョロキョロしているのが見えた。自分を探しているのだろうと気がついたので、穴から出て軽く手を振ってみた。
キョロキョロしていたのが止まったので、タンゲが自分に気がついたとわかった。
丁度その時、
「それでは出発だ」
部隊の隊長らしきスノウラビットが声を出すと移動を開始した。
ギィは出来るだけ気配を消す努力をして、着かず離れずの距離でついて行った。
読んでいただきありがとうございます。




