210 (sideギィ)ターキウス前族長
スノウラビット族 アンデス (衛兵隊長:白熊討伐派)
レニーエス (アンデスの妹:白熊討伐派)
アリウス (スノウラビット族の族長で穏健な白熊討伐派)
ロレンズ (スノウラビット族の族長補佐で穏健な白熊討伐派)
ターキウス(スノウラビット族の前族長で苛烈な白熊討伐派)
アイニャ (ターキウスの妻)
ターニ (ターキウスとアイニャの上の娘)
ターイエ (ターキウスとアイニャの下の娘)
ターキウス前族長は苛烈な白熊討伐派として部族の中でも恐れられていた。
しかし、そんなターキウス前族長も依然はこれほど苛烈ではなかった。しかし、ターキウス前族長はある日を境に今のような苛烈な白熊討伐支持者となってしまったのだ。
それは、ターキウス前族長が族長に就任した直後の出来事だった。
2年前
「アイニャよ。次は我が家の娘が生け贄になる順番が回ってきた」
「ねえ、ターキウス。あなた族長でしょ。今回1回だけ生け贄の順番をとばせないの?娘のターニは10の積雪後に婚姻が決まったじゃないの。この村では定期的に生け贄が必要だから新しい婚姻は必要でしょ」
ターキウスは妻のアイニャから娘のターニの婚姻が控えていることを理由に飛ばせないか相談していた。
「それに、本来であればもう1周り語に生け贄になるはずだったじゃないの」
「仕方がないんだ。生け贄の順番はどうしても変えられないんだ」
アイニャはその場に崩れて泣き出していた。
ターキウスはどうしようもなく肩を抱くことしかできなかった。
そんなターキウスには更なる悲劇が待っていたのだ。
ターニはどうしても生け贄になるのが嫌で、婚姻の相手と共に村を抜けだしたのだ。
村全体で捜索を開始した。
しかし、生け贄の日までにターニの姿を見つけ出すことはできなかった。
ターキウスの不幸はそれだけではなかった。
「ターキウス族長、わかっているだろう。生け贄は順番なんだ。ターニがいない今、ターイエが順番になるんだ。辛いのはわかるだが、わかってくれるよな」
「待ってくれ補佐、ターイエの順番が来るのは3周りの先の話じゃないか。それに今自分の所にはターニとターイエしかいないんだぞ」
「辛いのはみな一緒だ。分かってくれ」
「そんなぁ」
ターキウスは崩れるように泣いた。
そして、その事をアイニャに伝える事がさらにターキウスを苦しめた。
「ターキウス、ターイエはまだ3周りも先でしょ。どうして今なのよ。あなたは族長じゃない。何とかしてよ・・・・ううううっぅ」
無常にもターニは見つからずに、ターイエの生け贄の順番はやってきた。
「母さん嫌だよ。行きたくないよ」
「ごめんね。ターイエ・・・ごめんね。本当にごめんね」
「ターイエ。力不足の父を許しておくれ。すまない」
ターイエは補佐に連れられて生け贄となった。
その日以降、アイニャは食事をとらなくなった。アイニャは日に日に痩せていき、次第に言葉すら発することもなくなった。
ターキウスは毎日アイニャに声をかけ続けて、気持ちが落ち着いてきたところで少しづつ食事をとり始めた。
これで何とかアイニャは助かると思った矢先、ターニがスノウキャットに殺されたという報告が入った。
婚姻相手が命からがら逃げてきたことで発覚した。
「今のアイニャには辛すぎる。どう伝えればいいんだ。どうして自分にばっかりこんな不幸が続くんだ。誰か教えてくれないか」
ターキウスはどうしてもターニの事をアイニャに伝える事が出来なかった。せっかく最近食事をとるようになったので、もうしばらく体力が回復してから伝えようと思っていたのだ。
それなのに、逃げ出した婚姻相手が突然、アイニャの元に謝罪に来たのだった。
「ターニが・・・ターニが・・・どうして、私の娘ばかりが・・・・・」
ターキウスは家に戻った時、床に伏している婚姻相手を見て愕然とした。
「あなた・・・どうして、ターニの事を教えてくれなかったの。どうして・・・・、どうしてなのよ・・・許せない」
あの時のアイニャの憎しみに駆られた目を忘れることはできない。
そして、あれほどの殺意を婚姻相手に覚えたのもまた、忘れることはできない。
この日を境にターキウスは苛烈な白熊討伐派となった。
アイニャはその日以降食事をとらずに、ただでさえ弱ったからだを痛めつけた為に数日後息を引き取った。
スノウキャット族には族長だけに伝わる秘術があった。
それは、ミンザの実の副作用で洗脳が出来るということだ。
ミンザの実を規定以下に薄めて半睡眠状態にする。そして、その状態で繰り返し洗脳させる言葉をつぶやくことで洗脳させることが出来るのだ。
まずは、ターニの婚姻相手であったアンデスに使用した。
アンデスは自身が気づかないうちに苛烈な白熊討伐に向くように仕立て上げた。この結果は明らかに実を結んだ。
そして、ターキウスはスノウキャットに食べ物を使って洗脳させる秘術を思いついた。
食べ物に混ぜて洗脳させる為には繰り返し調整が必要だった。
そのために、必要以上に村にあるミンザの実と食事に手をつけたのだった。
「ひひひっ、これで、スノウキャット達を白熊にぶつけて、後は村の連中をけしかければ悲願がかなうよ。アイニャ。ひひひっ」
しかし、このことが引き金となり、ターキウスは村から追放となった。




