西雲と新たなプレイヤー
:2021年10月31日付
細部調整
3月6日、谷塚駅周辺では周辺住民も予想していなかった事が起きたと言う。各駅停車以外の電車が止まらないような駅で、100人単位とも言えるような観光客――。これは驚かない住民の方が少数かもしれない。
実際、駅員もここ数週間を切り取らずに数カ月で見れば、駅を利用する客の人数はサラリーマン等の通勤客でない限りはゼロだろう。
それが――ARゲームの中継が引き金となって、大勢の観光客が訪れるのだ。オケアノスは草加駅からも行けるのだが、今回は草加駅と同等の観光客が訪れているかもしれない。
駅ナカ店舗の店員も、この光景は見慣れているが――何時もと違う規模には驚いている。そう言う物だろう。
「急に客足が増えたような――」
「話によるとARゲームの新作が来たらしい」
「ARゲームは、基本的に現地でしかプレイできないらしいからな」
「アミューズメント施設もある程度は存在するのに、何故にARゲームを?」
「それはプレイヤーに聞くべきだろう」
店員は手を止めている状態だが――駅ナカに立ち寄らないので、結局は同じらしい。稀に近くの喫茶店へ入っていく客はいるようだが、さすがに少数派のようだ。丁度、駅を出た所にはファストフード店やコンビニと言った店舗もあるからである。
今日は谷塚エリアにも更にランダムフィールドが設置されていた。設置初日と言う事で盛り上がったのかもしれない。
しかし――いくらなんでも平日に設置して利益が出る物なのか? ゲーセンの筺体も土日に設置作業を行う訳ではなく、平日に設置及びバージョンアップが多い。
ARゲームで休日に稼働できない状態は、集客を逃す事に繋がるので致命的なのだ。
【ランダムフィールドの設置エリアが増えたな】
【あの実況中継が影響しているのかもしれない】
【しかし、アレで視聴率が上がる物なのか?】
【実際はプレイヤー主導型という形式をとっているらしい。つまり、メーカー主導型よりは――】
【ARゲームは全て運営が主導しているのではないのか?】
【運営はあくまでもチートや不正を取り締まる為に存在しているに過ぎないだろう】
【???】
【ARゲームの運営は、蓋を開けて見れば――】
つぶやきのやり取りで一部のメッセージだけが黒塗り状態になっている。本来、黒塗りと言うのもあり得ないような状況だが――何があったのか?
「検閲とは――考えたくないが」
谷塚駅より1キロ以上は離れている国道103号線、その付近に新設されたランダムフィールドが存在していた。駅を経由するよりは竹ノ塚からバスで行けるだろう――その見積もりは若干甘かったかもしれない。
確かにエリアの近くにバス停はあった。しかし、整備されているようなバス停と言い難いのは事実だろう。
整備はこれからと言うべきかもしれないが――それに対して税金を使って整備するべきかと言われると、意見は割れる。
「この距離ならば――自転車でもよかったか?」
ヴェルダンディは近くにアンテナショップが建っているのを目撃し、そこで着替えをする事も可能では――と今更思う。コスプレに関しては草加市内では特に問題視されないので、それを分かった上で賢者のローブを着用しているのだが。
その一方で、谷塚駅近くのフィールドでプレイしていたのはビスマルクである。やはりというか――圧倒的な能力の前では、地力の足りないプレイヤーでは歯が立たない。
プレイスタイルを変えた事で『今までのスタイルと比べて隙がある』とでも考えたプレイヤーが挑むが、結局は返り討ちにあっている。
10キロルール以外ならば勝てると思うプレイヤーでも、このフィールドは10キロ固定なので別のモードで戦うにしても別の場所へ行く必要性があった。
別のプレイヤーは、混雑の少ない場所へと移動しているようだが――ビスマルクはそのまま残るような気配である。
「さて、と――ここからが本番かな?」
周囲を見回すのではなく、ARガジェットのマッチングリストを確認し――ある名前を発見する。
その名前は彼女にとっても見覚えのある物であり、宿命とも言える名前かもしれない。
「西雲――春南」
西雲春南、ビスマルクにとっては宿敵とも言える存在になっている。最初の内は完封していた一方で――マッチングとは別のスコアトライアル等では、リードを許してしまう事も稀にあった。
パルクール時代のプレイスタイルで挑めば完封は出来るだろうが、それでは再びネット炎上を許すのは目に見えている。
つまり、今のビスマルクは西雲と対等に近いレベルになっていたと言っても過言ではないだろう。
ここ数回のビスマルクのリザルトは既に確認していた西雲は、メイド服姿のままでビスマルクの目の前に姿を見せる。離れている距離は、わずか10メートルにも満たないだろうか。
「ビスマルク――今度こそ、直接対決では負けない!」
「今度こそ決着を付けましょう。お互いに――あの時とは違うのだから」
周囲のギャラリーも待っていたかのように盛り上がり、レースの方も始まろうとしていた。
お互いに決着を付ける必要性があるのは――分かっている。様々なネット炎上案件もあるだろうが、それを意識している余裕はない。全力でぶつからないと、おそらくは――。




