第23話
三日後──
マシロ・コーポレーション本社ビルであったテロ事件は世間を騒がせていた。
まず、〈赤の旅団〉が襲撃したメインサーバからデータが流出し、隠蔽されていたさまざまな不正が判明した。その影響は、あらゆる企業、個人に及び、次々と捜査当局の手が入り、連日メディアを賑わせていた。
次に大衆の興味を引いたのは、マシロ・コーポが裏で行っていた非人道的な人体実験のことだった。数え切れないほどの少年少女の犠牲がセンセーショナルに報道された。あの白衣の男は、あのあと逮捕され、現在取調中だ。そのうちシュリのことも明らかになることだろう。
最後は、すべての元凶である真城コウタロウが、本社ビル屋上から転落して死亡したことだ。自死の疑い、遺体の無残さ、真城の死によって葬られた数々の真実、それらすべてが大衆の娯楽として消費されていた。
一方、本多は──
本多の部屋のソファーには、シュリが目を閉じたまま座っている。あの日以来、シュリは活動停止したままだった。充電しようが、再起動しようが、状況が改善しなかった。アンドロイド自体が壊れてしまったのか、それともシュリが成仏してしまったのか──
本多は、右手にコーヒーを入れたマグカップをもって、シュリの向かいの席に座った。
壊れた左腕は欠損したままだ。左腕は修理に出しているが、いまのところ修理代を工面できる目途は立っていない。右腕だけでの生活を余儀なくされているわけだが、利き腕が残っているとはいえ、片腕は不便だった。
吐血をしたわりに命に別状はなく、二日間の療養だけで、体調は元通りにもどった。我ながら丈夫な身体である。
しかし、二日間の欠勤のあとに神社に出勤すると、事態は一変していた。マシロ事件で流出したリストの中に、この神社の宮司の名前もあったらしく、本多が職場に着いたときには宮司がすでに逮捕されていた。駐車場には、本多が半壊させた空中浮遊車両が停まっていた。そして、三日前まで枯れかけていた御神木のクスノキは、信じ難いことに青々とした葉を見事に復活させ、生気に満ち溢れた姿へと一変していた。御神木が宮司に天罰をくだしたにちがいない。
本多は無職になった。
「シュリ。今朝出勤したらさ、職場がなくなってたよ。例の流出したリストのなかに俺の雇用主の名前もあったらしい。ッたく、俺も被害に遭うとはね。ま、いいけどよ」
返事はない。
「なあ、ほんとに成仏しちまったのか? まあ、それはそれできっといいことなんだろうけどさ、挨拶くらいしてけよ。いきなりだとこっちがびっくりするじゃんか」
返事はない。
「……あーあ、もう一度、お前がつくった料理が食べたかったぜ」
そう言うと本多は席を立った。マグカップは空になっていた。キッチンへ行こうとしたときだった。
「オマエっていうのやめてくんない」
と、きこえたような気がした。
幻聴だろうか?
本多は振り返ってソファーのほうを見た。
「……ハハッ」




