第18話
シュリが目を覚ますと、椅子型の電脳ユニットに身体を拘束されていた。ここはどこだろう。視界がぼやけてよく見えない。
遠くから話し声がきこえる。
「代表、これを見てください。シュリ様の精神波とまったく同じ波形パターンを示しています。これが意味することは、──信じ難いことですが──このアンドロイドの機体のなかにシュリ様の情報思念体が内包されているということです。まことに素晴らしい。このデータを発表すれば学会は震撼するでしょう」
「学会? そんなことはどうでもいい。〈転送機〉が完成するのかどうか、ドクター、あなたはそれだけに注力してください」
「は、はい。失礼いたしました」
──夢から醒めたときのような記憶の混濁があった。なんでこんなところに。私はたしか、本多さんを送り出して……そうだ。いきなり兵士みたいな人たちが部屋に入ってきて、スタンガンか何かで気絶させられたんだ──
「機体のまま交信が可能ならば管理し易くていいのですが」
「はい。しかしいまのところそれは困難です。やはり、生体脳と電子頭脳という基盤の違いに、なにかしら要因があるのでしょうが」
〝代表〟と呼ばれたスーツ姿の男がこちらにやってきて、
「やはり情報思念体を元の身体に戻すしかありませんか」
と言った。
「いまはそれしか」と白衣の男が答える。
スーツ姿の男がシュリの顔をのぞきこむ。シュリの口から、か細くかすれた音がもれる。
「お……父……さん」
真城コウタロウは顔色ひとつ変えることなく、
「急ぎ作業に取りかかってください」
と白衣の男に命じた。
次の瞬間──建物が揺れた。
地震だろうか。地鳴りもする。遠くでサイレンのような音がきこえるが、音がこもっているのは部屋の外の音だからか。
唐突に睡魔がシュリを襲う。シュリは泥濘のなかへ引きずりこまれるように、再び意識を失ってしまった──
──そこは、いつものネット空間とは風景が異なっていた。ネットはもっと極彩色で輪郭もはっきりしているが、ここは色が淡く線も曖昧な感じがする。
おそらくここは、ネット空間の外側の世界。〈ノード〉と〈リンク〉だけで構成された、純粋な情報層の世界。肉体を失い、情報思念体のみになった者が訪れる〈死後の世界〉なのだろう。
これは、プールの水に力をぬいて浮かんでいるような感覚に近かった。
私はこのまま消えてしまうのだろうか──




