九条先生の過去③ ー神宮寺帝斗の悔恨ー
<簡単な登場人物紹介>
・九条 真 Ω(オメガ)
黒髪の美青年。20歳。
小中高大飛び級を繰り返し16歳で医学部を卒業し国家試験も満点で合格。特例で医師免許取得。自身が院長のΩ専用メンタルクリニックに勤める。
16歳で妊娠、17歳で出産しており3歳の愛息子・ルイがいる。
番は人気俳優・天上院 蓮だが、彼には一途な想い人「カレン」がおり、自ら身を引いて息子と二人で暮らしている。昔から今も蓮のファン。
・天上院 蓮 α(アルファ)
茶髪、切れ長の瞳にスタイル抜群、圧倒的イケメン。25歳。
子役時代から俳優として活躍し、今や国内外で人気のアイドルであり俳優。また世界的規模の天状製薬社長の息子であり、投資家などさまざまなジャンルを席巻している。
テレビに露出するたびに想い人「カレン」に愛を囁くことでも有名。
・九条 修二α
38歳。真の父親。
容姿端麗・文武両道。九条病院の院長であり、医学界の神と称されている。
世界で初めて認知症の治療薬を作り、世界最年少でノーベル賞を受賞している。
家族LOVE。害するものは許さない。
・「カレン」
蓮の想い人。詳細は不明。
・美濃部 礼二 Ω
内閣総理大臣、Ωだがαとして振舞っている。
歴代でも優秀な総理大臣として、国民からの人気も高い。
担当医は九条修二で、彼とは旧友。
番は中学からの友人であり第一秘書の神宮寺 帝斗。
自分の正しい行いが、
彼の青春時代にピリオドを打ったとしたら、
それは果たして、正しい行いと言えるのだろうか。
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「帝斗!この前アルバムを整理してたら僕たちの学生時代のアルバムが見つかって。ほら!懐かしいだろう~~~♪」
神宮寺 帝斗は朝から楽しそうな笑みを浮かべて高校のアルバムを開く、現・内閣総理大臣である美濃部 礼二を見る。
美濃部とは中学で出会い、今は彼の第一秘書、且つ番の間柄である。
「この前の、α・Ωの抑制薬且つΩ避妊薬の保険適応案ですが、生活保護の見直しで浮いた予算で大方カバーできそうです。鶴見厚生労働大臣も納得いただけたようで・・」
「あの狸じじい、元から法案に賛成のくせに時間かけさせて困ったもんだよ。まあ、もっと粘られるかと思ってたから、良しとするか・・。そのおかげで、今日はそんなに仕事詰めなくても良さそうだし」
美濃部はアルバムを見ながら微笑んだ。
「あの頃のお前は今よりずっと不愛想で、でも可愛かったんだよな~!」
「あなたの可愛さには敵いませんが」
神宮寺は美濃部のアルバムに収められている写真を眺める。
あの頃はとても楽しかった。
仲良い友人たちとくだらないことで騒いで、番である美濃部と出会い、喧嘩をして、恋に落ちた。
ーーーーー神宮寺さんーーーーー
「・・・・・・・そんな顔をするな」
そう言うと美濃部は苦笑し、神宮寺の頬に手を添える。
「お前は正しいことをした・・・・大丈夫、九条真は、必ず幸せになる」
「・・・・・・・あなたは、どうして私の考えていることが、分かるのですか・・」
私の愛しい番には何もかもがお見通し。
幸せだった学生生活を振り返ると、いつも彼のことを思い出してしまう。
ーーーーー神宮司さんは正しかった、そうでしょう?ーーーーー
彼のあの切なすぎる笑顔が、今も脳裏に焼き付いていた。
*********
「はーーーーーーー!お前のそばにいるからこそ意味があるのに、日中ぼんぼんの世話をしろ、だ?意味が分からん、バカ礼二、バカ番、あんぽんたん・・・」
神宮寺はぶつくさと小言を言いながら学校の廊下を歩いていた。
今朝突然、日中は九条真という少年のボディーガード兼話し相手をするようにと美濃部に命じられ、反抗する前に車に押し込められ放り出された。
何でもその少年は、飛び級し13歳で本校に進級、本校は全国でもトップクラスの難易度を誇るが、ほぼ全教科満点で入学したらしい。
しかも世界的に有名な九条修二の息子でΩ・・・、教室では教師とマンツーマン、隔離生活、いくら自分の子供が可愛いからと言って、どう考えても特別扱いが過ぎる。
「小さい頃から甘やかされて育てられて、ごりごりの我儘坊ちゃんだろ・・・どうせ」
自分が尽くす相手は自分の認める相手が良い。そのことを美濃部も理解しているはずなのに・・・!
神宮寺は指定された教室に着くと、乱雑に教室のドアを開けた。
「失礼します。本日から九条真様の側付きを務めさせていただきます、神宮じ・・・・・・・」
そう言いかけて、自分は言葉に詰まってしまう。
教室の窓辺に佇む少年の姿が、あまりに美しく、儚げで、つい見惚れてしまったからだ。
少年は自分を見ると、優しく微笑んで深くお辞儀をした。
「九条真です。美濃部さんから話は伺っています。お忙しい中、ご迷惑をお掛けいたしますが、何卒よろしくお願いいたします」
13歳とは思えない所作と雰囲気に思わず固唾を飲む。
「神宮寺さん、とお呼びしても?」
「は、はい・・・九条様」
「僕のほうがずっと年下なので、気軽に真と呼んでください」
「い、いえ・・・・・・」
「僕はきっとこの学校で友達は一人もできないと思うので、神宮寺さんとは、気軽に話せる仲になりたいんですが・・・・・・差し出がましかったでしょうか」
「え、て、天使?」
「天使?」
圧倒的な美しい容姿に、他者に対しての優しさに溢れ、しかも賢く、あざとく・・・ああ、これは確かに、過保護になりすぎてしまう。
自身の番である美濃部とはまた違う魅力が彼にはあった。
もちろん性的欲求は一切感じないが、守ってあげたくなってしまう・・・・これは、強烈な庇護欲だ。
それに気が付いた時には体が勝手に真の前に跪いていた。
「あなたを・・・・守らせてください、真様」
「え!あ、はい!よろしくお願いします・・・神宮寺、さん」
「(きゃわいい~~~~~~~~~~~~)」
微笑む真に神宮寺はすっかりキャラ崩壊し、彼のファンになってしまった。
授業中、神宮司は教室の隅に佇み、休み時間や自習時間は真の傍に赴き他愛のない話をした。
「真様は、リモートという選択肢は考えられなかったのですか?」
「僕も迷惑かけて申し訳ないし、父に進言したんだけど、美濃部さんが折角の学生生活だし、通学して雰囲気でも味わったらって」
「なるほど・・・・・」
「でも実際、こうして神宮寺さんと話せたり、先生方の授業を直接聞けるのは貴重だから、通学にして良かったよ」
「はーーーーーーー、あなたって人は」
体育祭、文化祭などのイベント、同級生との他愛のないやり取り、そして愛する者との出会いーーーーーー自分が当たり前のように過ごしていた学生生活が、如何に貴重で楽しかったか。
真の学生生活を見ていると、より身に染みる。
「神宮寺さん、実はしてみたいことがあって・・・」
「言ってください、ぜひ。私で叶えられることがあるのなら」
「僕が好きで見てるドラマが学園ものなんだけど、屋上から見た景色がすごくキレイで・・・屋上に行きたいな、なんて・・・・」
「すぐに手配しましょう」
「も、もちろん無理だったら全然!」
「真様、折角学校に来ているんです。少しでも学生生活の思い出を作りましょう!」
彼の学生生活が、少しでも思い出に残りますように。
神宮寺はその一心ですぐに校長に進言、幸い屋上に生徒が出入りすることはなく、教員用の直通エレベーターを使用すれば人とすれ違う可能性も低かったため、真が少しの時間、屋上で過ごしても大丈夫だろうという結論に至った。
授業を終え、お昼休みに屋上の入り口手前まで真を見送り、出口で待機。屋上内では真が一人で過ごすようにした。真は遠慮していたが、たまには他人の目がない所で過ごす時間も大事だろうという神宮寺なりの配慮だった。
まさか屋上に先客がいるなど、夢にも思わずーーーーーーーーー。
*********
真は初めての屋上に胸を高鳴らせていた。
放送されている天上院蓮主演の学園ドラマで、屋上で綺麗な景色を見ながらお弁当を食べる彼のシーンが羨ましく、自分もできたらと考えたのがきっかけだった。
まさか本当に屋上で過ごせるとは思っていなかった真は、迅速な対応をしてくれた神宮寺に心から感謝する。
「風が気持ちいいー!」
屋上は自分が想像していたよりずっと綺麗で、心地よい場所だった。
ベンチを見つけ、真はそこに歩み寄ろうとしたとき、ふわっと甘い匂いがする。
心地よいその匂いの方向に目をやると、真は目を見開いた。
そこには、ずっと憧れて大好きな、天上院連の姿があったからだ。
「(あ・・・・ーーーーーー)」
真は慌てて彼から顔を逸らすとベンチに座る。
自分と目が合った時、蓮が一瞬怪訝そうな表情を浮かべたのに気が付いた。
幼い頃の思い出など、彼はきっと知る由もない。
自分にとっては人生を左右する出来事でも、彼の中ではきっとささやかな出来事で、彼にとって自分は、大勢いる人の中の一人------。
「(それでも、彼に救われたことには変わりない・・・自分が彼のことを、敬愛する気持ちは・・・この先ずっと変わらない)」
真は朝手作りした自身のお弁当を食べながら思う。
会話はなくとも、彼と同じ空間で、同じ時間を過ごせるだけで、幸せだ。
いつもと変わらないお弁当の味が、いつもよりずっと美味しく感じた。