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九条先生の過去④ ー神宮寺帝斗の選択ー

<簡単な登場人物紹介>

九条くじょう まこと Ω(オメガ)

黒髪の美青年。20歳。

小中高大飛び級を繰り返し16歳で医学部を卒業し国家試験も満点で合格。特例で医師免許取得。自身が院長のΩ専用メンタルクリニックに勤める。

16歳で妊娠、17歳で出産しており3歳の愛息子・ルイがいる。

番は人気俳優・天上院 蓮だが、彼には一途な想い人「カレン」がおり、自ら身を引いて息子と二人で暮らしている。昔から今も蓮のファン。


天上院てんじょういん れん α(アルファ)

茶髪、切れ長の瞳にスタイル抜群、圧倒的イケメン。25歳。

子役時代から俳優として活躍し、今や国内外で人気のアイドルであり俳優。また世界的規模の天状製薬社長の息子であり、投資家などさまざまなジャンルを席巻している。

テレビに露出するたびに想い人「カレン」に愛を囁くことでも有名。


神宮寺じんぐうじ 帝斗ていとα

美濃部首相の第一秘書、真が通学していたころ傍付きだった。

番は中学からの友人であり総理大臣である美濃部礼二。


九条くじょう 修二しゅうじα

38歳。真の父親。

容姿端麗・文武両道。九条病院の院長であり、医学界の神と称されている。

世界で初めて認知症の治療薬を作り、世界最年少でノーベル賞を受賞している。

家族LOVE。害するものは許さない。


・「カレン」

蓮の想い人。詳細は不明。


美濃部みのべ 礼二れいじ Ω

内閣総理大臣、Ωだがαとして振舞っている。

歴代でも優秀な総理大臣として、国民からの人気も高い。

担当医は九条修二で、彼とは旧友。

番は中学からの友人であり第一秘書の神宮寺じんぐうじ 帝斗ていと

君の選択は正しい。

ただその選択が、ひどく残酷だっただけ。

ーーーーーーーーーー



「あなたはどうして私を真様の傍付きに任命されたのですか?」

「やりがいはあるだろう?」

「たしかに真様は、仕えるに相応しい主ではありますが・・・」

真の傍付きをして早二週間、神宮寺は国会で話し合われた政策の整理をしながら美濃部に尋ねる。

正直、真との日々は自分にとって刺激的なものではあるし、共に過ごす時間は心地の良い。

だが自分は美濃部の番であり、第一秘書。何か不測の事態が起きたときにすぐ対処できるよう、総理大臣であり、愛しい人の傍にいたいというのが本音であった。

「第二秘書を務めている峰岸みねぎしも、十分信頼できると思うのですが・・・それに真様は、どなたでも好意的かと」

「帝斗は優しいし、他人を思いやれる」

「それなら、峰岸も同じでは・・・・・」

「きっとこの先、僕が帝斗を選んだ理由に気づくーーーーー。気が付かないで終わることに越したことないけどね」

「はぁ・・・」

キョトンとした表情を浮かべる神宮寺に、美濃部はコーヒーを啜った。

神宮寺帝斗は聡明で、心の優しい持ち主だ。

他人を気遣うことができる、思いやることもできる、そして番を愛でることもーーーーーただ、他者と決定的に違うことは、どんなに他者に入れ込み、同情したとしても、必ず「正しい選択」をするということ。

たとえ番の自分が過ちを犯したとしても、わざとそれを見逃すようなことを彼はしない。

絶対的正義。

それがどれほど凄いことか、どれほど勇気のいることか、そしてーーーーーどれほど残酷なことか。

「(それに帝斗は、誰よりも鼻が利く)」

真の学校生活に、彼の正義が行使されませんように。

美濃部は首を傾げる神宮寺を横目で見ると目を伏せた。


**********


「(真様から、違う人の匂い・・・?)」

昼休みを屋上で済ませた真が戻ってきた時に、神宮寺は彼から嗅ぎなれていない匂いがすることに気が付いた。

「真様、屋上での時間はどうでしたか?」

神宮寺の問いに真は一瞬言葉に詰まらせるが、いつもの笑みを浮かべて言う。

「伸び伸びしていて、とても気持ちが良かったよ。差し支えなければ・・・今後はお昼を屋上でとってもいいかな?」

「ーーーーーーーもちろんです、手配させていただきますね」

「ありがとう!神宮寺さん」

その言葉に真は嬉しそうに微笑むと神宮寺に深く頭を下げた。

神宮寺も真が屋上を利用する前に下見したが、綺麗な庭があるわけでもなく、ただ青空を仰げ、校庭が見下ろせる、よくある屋上である。

真がここまで気に入るとは思っていなかった。一度見たら満足すると思ったのだが・・・。

一瞬考え事をしていると、真は神宮寺の顔を覗き込む。

「神宮寺さん、その・・・例えばの話なんですが」

「?。ええ、何でしょうか?」

「発情期を迎えていないΩが、他人の第二性の匂いを嗅ぎ分けることはできますか?例えば・・αから甘い匂いがする、とか」

あまりに唐突な質問ではあったが、神宮寺は自分の持つ知識を口にする。

「・・・発情期前のΩは無臭です。それに発情期前のΩがαやβの匂いを嗅ぎ分けられることは稀ですね。発情期が来たとしても、Ωは番となったα以外の匂いはーーーーーーー」

神宮寺はそこで言葉を止めた。

いや、発情期前のΩが感じ取れる匂いが一つだけある。


ーーーーー帝斗から、すっごい甘い匂いがするんだけどーーーーー


「ちなみに、その匂いがどんな匂いだったのでしょうか?」

「すごく甘くて、でも鼻につくようなしつこさはなくて・・・・居心地が良くなる、ような?」

「そうですか・・・・・」

「でも、そうだよね!僕もいろいろと医学書を読んできたけど、発情期前のΩが他人の第二性の匂いを感じ取れるっていう記載は見たことがなかったから・・・あ、ふと思っただけだから!深く考えないで!」

「・・・・・・・」

「あくまで、例えばの話だから!」

慌ててそう言う真を見て、神宮寺はつい笑みをこぼす。

美しく、賢く、可愛らしく、それでいて凛々しい一面もあって、儚げで、優しくてーーーーーああ、この子はそれでいて、どうしてこんなにも嘘をつくのが下手なのだろうか。


ーーーーーすごく甘くて、でも鼻につくようなしつこさはなくて・・・・居心地が良くなるーーーーー


真が話したその匂い。

同じようなことを初めて出会った彼から言われたことがある。

「美濃部礼二ーーーーーー私の、運命の番」

妙に胸騒ぎがした。



神宮寺は真が下校したことを確認すると防犯管理室に向かった。

「12時ー13時の屋上の防犯カメラの映像を拝見することは可能でしょうか?」

「神宮寺さん!いつもお疲れ様です。問題ないですよ、今出しますね」

管理人がモニターに映像を映し出した。

そこにはベンチに座り昼ご飯を食べる真とーーーーーもう一人、生徒の姿。

神宮寺は右手で自身の顔を覆う。

真が屋上に入ってから出口を見張っていたが、まさか先に誰かがいたとは夢にも思わなかった。

なぜ真より先に屋上の安全を確保しなかったのか。考えが甘かった。

幸い二人の接触はなく、真は特に手を出されていないようで胸を撫でおろす。

彼から甘い匂いを感じ取ったのだろうか。

彼の第二性は不明だが、αでなければ真の勘違いで片づけられる・・・・

「あー!この人、天上院蓮さんですよ!今放映されている学園ドラマの主役やってるイケメンさん!うちの学校でもすごい人気でねー!!αの中のαってこういう人を言うんだなーって」


ーーーーー発情期を迎えていないΩが、他人の第二性の匂いを嗅ぎ分けることはできますか?ーーーーー


神宮寺は毎日、美濃部に真の様子を詳細に報告し、美濃部がそれをまとめて九条修二に伝えていた。

そもそも真が通学を許されている条件の一つに、他生徒との接触の禁止がある。

恐らくこうしてαと愛息子が接触したと報告したら、真は転校を余儀なくされるだろう。

たとえ接触した人間が、真の運命の番だとしても。


「(屋上で共に過ごしただけだ。接触はない。わざわざ報告しなくても・・・)」


ーーーーーきっとこの先、僕が帝斗を選んだ理由に気づくーーーーー。気が付かないで終わることに越したことないけどねーーーーー


美濃部の言葉が脳裏をよぎる。

ああ、あなたはなんて残酷な人なのだろう。

神宮寺は美濃部の言葉の意味をようやく理解した。

彼はどこまで予見して、自分を真の傍付きにしたのだろうか。


ーーーーー神宮寺さんとは、気軽に話せる仲になりたいんですが・・・・・・差し出がましかったでしょうかーーーーー


「ただあなたは、私が真様に心を許し、慕っていることまでは・・・予見できなかったでしょう・・・?」

天上院蓮が九条真の運命の番ではない可能性はもちろんある。

ただ同時に言えることは、運命の番の可能性も十分にあるということ。

「(私の選択によっては・・・・彼らを、運命から引き裂くことになる)」

ああ、なんて残酷な選択なのだろう。

もし学生時代に、自分と美濃部の仲を他者が無理やり引き裂かれていたならば、自分は正気を保っていられなかっただろう。

それほど運命の番は相手にとって大きすぎる存在なのだ。

どうか、明日以降、真が屋上に行ったら、その場に誰もいませんように。

そんな神宮寺の淡い願いは叶うことなく、翌日以降二人は屋上で、まるで昔から親しかったかのように、運命かのように、甘い幸せな時間を過ごすことになる。

そして天上院蓮が真に執着を見せ始め、校内で真を探すようになり、挙句の果てに校長室に押し掛ける事態が発生する。しかも校長が、彼の前で真の存在を認めてしまったーーーーーーこの学校の信頼も地に落ちた。

「(もうこれ以上、隠すことはできないーーーーー。)」

神宮寺は、選択せざるを得なかった。

彼の、絶対的正義が行使される。


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