人魔大戦
市街地が激戦区になったことで、ベインさんとキリヤさんの魔法で別のところに移動した。
新しい環境……山奥の小屋を掃除・増築して住んではいるけど、自然豊かと言えば聞こえは良いけど虫は多いし夜は動物が怖いし、何より視界が悪いから悪魔の接近が分かりづらい。
それに、最近スコールさんの失敗が目立つ。
料理中にぼーっとして焦がしたり、忘れ物したりっていうのはまだいいけど。
戦闘中に躓いたり動きを読み間違えて怪我したり、音を立てて敵に見つかって囲まれるとか今までじゃありえないミスを連発している。
「やっぱり、みんなが死んだの引きずってるんだろうね」
「……スコールさん。顔には出さないのに」
今ここにいるのは私、ベインさん、キリヤさん、レイズさんとリリィちゃん、スコールさん、獣人の男の子。
ホノカさんとミコトさんは悪魔さんと一緒にどこかへと言ってしまった。
「いつもあんなだよ。ミナは人が死んでも気にしないようで、行動のミスに現れる」
「ずっと一人で抱え込むんですか、スコールさんって」
「うん、そうだね……いつか絶対、耐えられなくなるよ。いくら平気なふりをしていても心には確実にダメージが入ってるし」
最近のスコールさんは獣人の男の子と一緒に行動しているけど、帰ってくる度に二人ともボロボロだ。
たぶん、あの男の子も近いうちに……。
仲間が死ぬというのに悲しいという感情があまり強くない。
だんだんと、私も慣れちゃいけないことに慣れているんだと思う。
「キリヤさんたちはどういう戦いをしているんですか」
「んー……こっちは利害の一致だからねー、みんなバラバラ? 僕なんて最近また合流したくらいで、しばらく一人だったからよく知らないし。ベインだって少し前に仲間になって、監視も兼ねて僕が下についてる形だし……」
「みなさんの目的とかって」
「それは……レイズは家に帰りたくないから家出中の逃走中で、ベインはレイズにボコボコにされてついてきたし、僕はミナを一人で置いておくと不味いから一緒にいるし、ミナは……なんていうかよく分からない。さっきまでの敵にいきなり援護したり、味方を全滅させたりしてるから」
そんなことを聞いていると、遠くで爆発が起きて煙が上がった。
確かあっち側に出ているのはスコールさんと獣人の男のだ。
「派手にやってるねぇ。ヘリコプターでも落としたのかな」
「や、山の向こう側って確か州軍が……」
「ミナは場合によっちゃ空中戦やり始めるしねぇ。あれでも流体制御系がすごい得意だから空気とか水があればもうそこら中に武器防具足場があるようなものだし」
「スコールさんにできないことってなんですか……」
「え? 簡単だよ、関係の円滑な構築。絶対に信用しないから何かがあってもすぐに対応してくるもん。いつだったかな、コロニー戦力とどこかの合同戦線で味方見捨てようとした指揮官を悪魔の中に放り込んで」
「知ってますそれ。ていうか素直に言えないところが」
「だねー……てか、爆発が……あれもしかして絨毯爆撃?」
「あ、いまチラッと飛行機見えました」
「こっちに来るようなら撃墜するけど……」
キリヤさんが手を伸ばすと空中に魔方陣が広がる。
来るなら、というよりも先制で墜とせばいいのに。
「あ、あーあーなるほど。ベイン治療準備!」
ドアが勝手に開くとオオカミが飛び込んでくる。
真っ白で人よりも大きな白狼、ハティ。
スコールさんのペット? の、その背中には傷だらけでかなりの血を流している獣人の青年と、同じようにスコールさんも乗っていた。
「いったい何があった?」
「んなことよりもこいつの治癒を先にしろ」
傷の痛みを噛み殺しながら獣人の男の子を寝かせるスコールさん。
「お前の方が酷いだろうが」
キリヤさんとベインさんの魔法が発動するけど、スコールさんがその軌道を無理矢理に逸らす。
「慣れてないやつはショック症状を起こして簡単に死ぬ。先にやれ」
「ったく」
魔法でみるみるうちに傷が消えていく。
それでも青白い顔色はよくならない。
呼吸もかなり荒い。
「血液の合成はレイズじゃないと無理だ」
「魔力操作で物質を作れるのは数人しかいないから貴重だな」
「呑気に言ってる暇があったらそこに座れ!」
「後回しだ。次が支えてるんだ、危ないやつからだ」
今度は黒い狼に乗ってレイジさんと獣人の女の子が入ってきた。
女の子は意識がないようで、支えられている。
「誰だお前は」
「イリーガルと言っておこうか」
黒い狼から降りると女の子を寝かせて、立ち上がる。
途端にふらついて倒れた。
その背中には肩から腰までバッサリと……骨が見える深い傷が。
「重傷じゃねえかよ」
「ほっとけ、この程度軽傷の範囲」
「どこかだ」
すぐにベインさんの魔法で治療が始められるけど、効きがよくないのか出血すら止まらない。
スコールさんの方も傷が全然ふさがらなくて血がぽたぽた落ちている。
「何にやられたのさ」
「アトリが仲間になった世界、覚えてるか? 三番目だ」
「覚えてるけど、まさかあの剣使いたちが来たの?」
「あれだけならどうとでもなったが……いろんな使い手どもが聖水を使って来やがった」
「どゆこと? 聖水使えばこっちもあっちも魔法は使えないでしょ?」
「魔法以外だ。法力使い天使使い神術使いのあたりが厄介でな……ほぼ殺したが」
「で、誰にやられたのこの大ケガは」
二人が視線を合わせて言う。
「「人と魔族の戦闘に首突っ込んだら予想以上に酷かった」」
その次の瞬間、二人ともゲンコツを受けていた。
「バカかお前ら!」
「バカなの、死にたいの、何したかったの」
「いやほら……ちょっと圧力かけないとどんどん戦線が広がるから」
「だからってねぇ、そんなケガしてどうするのさ」
「収穫はあったぞ?」
「イリーガル、君、それを収穫って言う? 捕虜にも人質にもならないよそれ、単なるお荷物にしかならないよそれ」
軽いお説教が飛んでいると、獣人の女の子がゆっくりと口を開けて。
「……お腹、減った」
ごめんなさい、分けてあげられる食べ物ありません。
それに近くで大規模な戦闘が起こっているのなら、これはもう逃げないいけない。




