表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/26

終ワリノ音

 それは唐突だった。

 レイジさんと獣人の女の子、イクリスさんが死んでからほんの数日後のこと。


「スコールさんやめてください!」


 青い刃を片手に、燐光を散らしながらいきなりレイズさん以外のみんなを攻撃し始めた。

 キリヤさんに魔法を撃ち込まれたらそれを取り込んで撃ち返して、別の魔法にして更に強い攻撃を放って。

 ベインさんに物理攻撃をくらうと一瞬で移動して、さっきまでいた場所には青い光が残るだけ。

 何も通用しない。

 レイアちゃんが至近距離で対物ライフルを撃つけど、それも躱されて近づかれて刺された。


「どうして……スコール」

「恨んでくれて構わない。消えろ」


 崩れ落ちながら光になって、レイアちゃんが消滅した。


「お前!」

「ミナ、レイアは絶対に守るんじゃなかったの!」

「どーせ守れやしない……だったら……」


 ヒュンと刃を振り下ろして、迫ってくる。


「キリヤ、そいつ連れて逃げろ」

「……分かったよ。さよなら」

「完全消滅はしねえよ……記憶が消えてもまた、な」

「うん」


 靄が見えた。

 キリヤさんの転移魔法に包まれて、一瞬で雲の上の……あの白い場所にいた。

 どうにもならないと分かっているけど、どうにかしたかった。

 なんでいきなりスコールさんがあんなことをしたのか。

 全然分からない。

 守れないなら自分の手で?

 …………。


「ねぇ、君はどうしたい?」

「キリヤさんはどうにかできるんですか」

「……できないよ。ミナの力を見ただろう? あれはなにも通じない。攻撃しても無駄、言葉を送っても受け付けない」

「受け付けなくても、届きはするんですよね」

「どうだろうね。ミナはときどき機械みたいになるから……ロジックに従って動くだけなら届いても受け入れてもらえない。意味なんて無い」


 警報が鳴り響く。

 地上から……雲を切り分けて青い斬撃が飛び出る。


「やっぱ来るよねー……」


 下の方から爆音がして、妙な浮遊感がし始める。

 これ、落ち始めてる?


「キリヤさん」

「逃げようか。一人ならなんとか連続転移で連れて行けるし」

「そうじゃなくて、スコールさんを……止めませんか」

「どうやって? 僕はミナ相手に勝ったことはないよ。そもそも勝てる知り合いがいない」


 地上からの攻撃で、この空に浮かぶ場所がどんどん壊されて不安定になっていく。

 ……スコールさん、どうしていきなりあんなことを。

 あちこちから悪魔たちが飛び立って避難していく中、キリヤさんは涼しい顔でいつの間にか杖を持っていた。


「逃げるんですか」

「いいや。勝ったことはないけど負けたこともない、僕はミナ相手に唯一ほぼ確実に引き分けに持ち込めるからね」

「でもそうやって。だってスコールさん魔法は吸い込んじゃうんですよ」

「そだよ、だからそこを利用するのさ。あの状態のミナは魔法を受ければ、自動的に吸収して適宜解放して使うか分解して別の魔法に組み直す。だったらたくさんの魔法を空定義で同一座標に多重生成、そのまま撃ち込んでやれば無駄な処理で動きが鈍る。後はその繰り返しだね、何でか知らないけど僕がやった場合は通用しちゃうからこれでなんとかする」

「……だったらなんで引き分けなんですか」

「魔法って奪われても詠唱者の演算負荷はそのまま残るの。使ったリソースが解放されないから、パソコンで言えばどんどんメモリが圧迫されて最後には何も出来なくなる。それとおんなじ感じだねぇ」


 呑気に言いながらもピリピリした空気を発し始める。

 やっぱり、同じ場所に並ぶことすらできないんだ。

 下から見上げて手を伸ばしても届かない、いくら追いかけても追い付くことがない。

 そもそもの立場が違うのなら、考え方だって分かるはずもない。

 今の私には、スコールさんが何をしたいのかさっぱり分からない。

 私が、私たちが勝手に止めようとしても、それは……。


「ま、君は逃げな。僕はいつも記録に残らない戦いをする貧乏クジ担当だから、君たちは次の世界でのんびりやればいいよ」

「みんな次の世界次の世界って……いったいなんなんですかそれ」

「いろいろ聞いたでしょ。この世界は現実の模倣、偽物の世界なの。僕たちは次々と生まれる偽物の世界を渡り歩きながら戦う。一番新しい世界ではある程度の事象には干渉しやすくなるし、そこで気に入らない人を消せば現実でもちょっと反映される。……ま、新しい世界への行き方はいろいろだけど、周回の少ない人らは記憶を失った状態でその世界の一部としてスタートしてそのままってこともあるからね……」


 杖が私に向けられる。


「キリヤさん」

「まだ新しい世界は完成してない。この世界がもう少ししたら破棄されるから、そしたら総移動が始まる。君は一周目で理から外れた、その意味が分かるかい?」

「……分かりません。でも私は」

「戦う力が無いのに逃げられない戦いの中に放り込まれるんだよ。平和が当たり前、何かあれば警察が来るとか中立の誰かが止めに来ることもない、本当に危ないところに放り込まれるんだよ」


 足元から光が溢れ始める。


「とりあえず先に……この五番目から六番目に送るよ。初期状態で組み込まれたら敵にも見つかりにくいから、頃合いを見てまた記憶をね」



 ――それでも私は。

 私は置いて行かれたくない。

 まだ、やり残したことが、やりたいことがある。

 ここで終わりじゃない、これ以上進めない訳じゃない。



「そう……それともう一度言っておこうかな。君は何度も繰り返した光景を忘れ、何度でもまたミナに近づいていく。何度繰り返しても、ミナは変わらない。でも、少しずつ進んでるね……」



 ――また、スコールさんに会いに行こう。

 こんな間際で私の知らない私の記憶が溢れてくる。

 今まで何度も、いや何百という回数やってきたみたい。

 今回はかなり進んだ……でもまた忘れるんだ。

 それでもいい。

 やっと同じ場所に立つために、流れの縛りから抜け出せたのだから。

 次の世界で。

 またスコールさんに会いに行こう。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ