第五話
「リサーナ達が困ってるのも分かるけど、昨日の今日で君は勇者だから助けてくれって言われても困るよ。それにじゃあ、私以外のみんなは、どうなるの?」
凛は、乾いた笑いを浮かべ茫然とした光征を気の毒そうに見つめ、さらに綾や流、健一の方に目を向けた。
光征以外の3人は、縋るような目で凛を見つめている。
「……リン。どうかお願いします。」
リサーナは、再度祈る様に凛に対して頭を下げた。
もう我慢出来ないといった様子で健一が大きな声を出す。
「ちょとまてよ!凛が勇者っていうのはなんかよくわかんねえけどそういうもんだとしてよ?凛が言った様に俺達はどうなるんだよ?元の世界に帰れるのか⁈」
「・・・・・・異世界を繋げる儀式には、大変厳しい条件が有ります。はっきり申しますとあなた方を今すぐに元の世界に返すことは、不可能です。」
「ふざけんなよ‼︎じゃあ、俺達は、どうすりゃいいんだ⁈」
「やめろ、健一。ここでリサーナ様に文句を言ってもしょうがないだろ!」
「・・・・・・っ!」
余りにもこちらの都合を無視したリサーナの回答に健一は、激昂し詰め寄ろうとしたが、流に肩を掴まれ押し留められた。
「ただ、じゃあどうすれば俺達は凛も含めて元の世界に戻れるんですか?不可能って訳じゃないんでしょう?」
流は、リサーナの方に厳しい視線を向け、説明を求めた。
それに対し、彼女は、大きく頷き話し始めた。
「もちろんです。少し長くなってしまいますが、説明致します。そもそも何故、魔王、ひいては魔族と我々人類が戦っているかなのですが、それはマナと呼ばれるこの世界特有の元素に関係してきます。このマナは、空気と同じで世界中に満ち溢れており、マナを使う事で我々は様々な恩恵を得ることが出来ているのです。そのマナの発生源がこの世界には、幾つかあり我々は、聖地と呼んでおりますが、魔王はその聖地を破壊しようとしているのです。聖地が破壊されてしまえば新たにマナが、生成されることも無くなり我々人類が築いてきた文明が一気に廃れてしまうことになります。更には、マナによって保たれて来た自然界のバランスが崩れこの世界は、崩壊の一途を辿ることになるのです。其れを防ぐ為に私達は、戦っているのです。」
「なんとなく、何で魔王と人類が戦ってるのかは理解しました。それで、その事と俺達が元の世界に帰る方法とどんな関係があるんですか?」
「召喚魔法には、多大な労力がかかるのです。実は、今回の召喚には聖地が枯渇するほどのマナを使用しているのです。一度マナが枯渇した聖地は、復活する迄に10年ではきかない年数がかかります。そして現在人類側が抑えている聖地は、そう多くありません。魔族と戦争中の今あなた方を再度、元の世界に戻す為のマナを用意する余裕がないのです。つまり、早く元の世界に帰るには、魔王を打倒し魔族が持つ聖地を奪還する他方法は、ありません。」
リサーナの説明を聞いた凛達4人は、がっくりと肩を落とし俯いた。
彼らが、こんな状態になるのも当たり前である。いきなり、見たことも聞いたこともない世界に連れて来られ、1人は勇者で魔王を倒してくれ、他の人は巻き込まれただけだけど、誰かが魔王を倒して戦争に勝たないと元の世界に帰れるか何時になるか分からないと言われたのだ。
余りにも理不尽な事である。
リサーナは、そんな彼らを哀れむ様に縋るように見つめた。
沈黙が、その場を支配し始めた時、凛が声を出した。
「・・・・・・私やってみるよ。正直、怖いし、誰かと闘うなんて嫌だけど。でも、みんなが困ってて、悲しんでる人もいて誰かがしなきゃいけない事で、それが私にしか出来ないかも知れないなら私やるよ。」
自らを振るい立たせるように凛は、そう言って顔をあげた。その目には、薄っすらとだが覚悟の色が浮かんでいる。
「凛、そんなやめようよ。凛が危ない事する必要ないよ。もっと別の方法がないかみんなで考えよ?ね?」
「綾の言う通りだ。もっと良く考えて決めよう。」
「俺も綾や流の言う通りだと思う。凛が責任感じる必要ねえよ。」
凛の言葉と何時になく真剣な表情に、3人は焦ることないと言葉をかける。
「私は、大丈夫だよ。さっきも言ったけど誰かがやらなくちゃいけないことで、私にしかできないことなんだから。うん、大丈夫。私に任せてよ!」
先ほどよりも強い意志のこもった凛の言葉に3人は、顔を見合わせた。
こうなってしまった彼女は、もう引かないということを彼らはこれまでの付き合いからなんとなく察している。
3人はお互い顔を見やるとため息をつきそして笑顔を作った。
「しょうがないな凛は。そこまで言われたら、俺も凛を止めない。けど凛を1人に背負わせるなんてことできなし俺も出来るかどうか分からないけど協力するよ。」
「おい、流。抜け駆けはずるいぞ。俺だって凛1人で戦わせる何てことさせねーよ。俺も凛と一緒に戦うに決まってんだろ!」
「2人ともずるいよ。私だって凛の親友なんだから、私も協力する。凛1人だけ危険な目にあわせたりしない。」
「・・・・・・みんな。ありがとう。」
彼らの温かい言葉に胸を押さえながら凛は、感謝の言葉を言った。
そして、互いに顔を見合わせた後、リサーナの方を向いて力強く宣言した。
「私やります。勇者になってみんなを助けます。」
その言葉と強い意志を持った瞳に対して、リサーナは深く、深く礼を返した。
三代目勇者誕生の瞬間だった。