第六話
凛が勇者になると宣言してから、2週間がたった。あっという間のことだった。
あの後、リサーナに感謝の言葉を散々言われ、リサーナの父親すなわち帝国の国王に謁見し、再度勇者として戦うことを緊張しながら凛は、宣言し感謝の言葉を国王からもらい、歓迎の宴に招かれたりした。
次の日から凛たちは、現在の戦争の状況、この世界ポルセのことをリサーナから聞き知識を得ると同時に魔族と戦う為の訓練を開始した。
神器に選ばれている凛はもちろん、光征以外の3人は、魔法適正が高く使える属性が2つ以上有りまた、マナの運用の才能もあることから、城の宮廷魔道士をうならせたのだった。
太陽がすっかり昇りきり、日差しの強い午後の昼下がり、城の練兵城で1人光征は、練習用の刃を潰した剣を持ち、戦闘の基本であるマナでの身体強化を行いひたすらに素振りをしていた。
以前は、慣れ親しんだ剣の感覚に光征は、いまや完全に嫌気がさしていた。
そして、1人力無く呟いた。
「何やってんだろ。」
無様だ。
胸中にあるのは、自分が勇者でなかったという深い失望感だ。
光征は、前回の召喚時の戦いで自らの無力さを噛み締めてその思いをひっそりと胸に抱き今までを過ごしてきた。
自分がもし本当の勇者だったなら、かつて戦いで喪った大切な人達を守るだけの力があったのではないか?
或いは、自分じゃなく今回のように本物の勇者が、召喚されていたら死んでいった人達を助けられたのではないか?
傲慢だと分かってはいても、どうしても光征の頭の中にはそんな考えがぐるぐる渦巻いて、それは消えることがない。
実際に神器に選ばれた勇者である凛の潜在能力は、光征から見ても4人の中で群を抜いてる。
訓練を開始してまだ2週間足らずだが、この感じなら光征が死ぬ気で修行して到達した境地にも案外2、3年で辿りついてしまうのかも知れない。
他の3人も光征と違い複数の魔法適性があり、光征が召喚された年齢が低かったのもあると思うが成長速度は、光征よりも早い・・・・・・かも知れない。
当代の聖女であるリサーナや教育役をかって出た騎士団の人は、凛達の能力に良い意味で驚き、とても喜んだ。
しかし、物事は良いことづくめでは無く、光征の魔法適性の低さと向上心の無さには、口を閉ざした。
当初は、5人一緒にする筈だった簡単な護身の為の訓練も光征は、4人についていけず遂に今朝になって別枠での訓練となってしまったのだ。
自身に巡らしたマナをみるが、流れは淀み薄っすらとしか魔力を感じる事が出来ない。
こんな状態をかつての師匠や仲間が見たら、なんと言うだろうか。
どの道、偽の勇者だった時点で会わせる顔など無いのだからどうでもいいか。
そんな事を鬱々と考えながらそれでも光征は、壊れた機械仕掛けの人形のように体を動かした。
剣を振るたびにメガネがずれてきてうっとしいことこの上ない。
一旦、メガネを外そうと剣を地面へと放った時に若い女性の声が光征の耳に飛び込んで来た。
「おい!道具を粗末に扱うな!戦場で足元をすくわれるぞ!」
光征を非難する言葉に面倒くさそうに振り向くとそこに居たのは、帝国騎士団の制服を来た光征と同い年位の鋭い眼光をした女の子だった。
今は、光征の事を睨みつけているので少々怖い顔つきになっているが、非常に整った顔の造形をしており、10人いれば10人が振り返るような美少女だ。
可愛いと言うよりは、綺麗という言葉があい、切れ長なエメラルドグリーンの瞳と肩口で揃えた輝く金髪が良く合っている。
「ごめんなさい。ちょっと疲れてしまって。」
金髪の少女は、光征のあまり反省の感じられない返事に顔を顰めた。
「全く、勇者様のご一行を鍛えてやってくれと言われたから来たのに、とんだ腑抜けじゃないか。今後、休憩したいからといって剣を放り投げるような事はするな。」
「すいませんね。」
少女は、光征の再度あまり誠意の感じられない言葉に、目つきを鋭くさせ溜息をついた。
「はぁ。もういい。次からは気をつけなさい。申し遅れたが、私は、今日から君の面倒をみることになったエル・クラネルだ。宜しく頼む。」
エルは、そう言って光征に一歩近づき手を差し出した。
光征としては、このまま1人にしておいて欲しかったのだが、しょうがないかとエルの手を取り軽く頭を下げた。
「山守光征です。これからよろしくお願いします。」
「ヤマカミコウセイ。ふむ。どちらが名前だ?」
「光征です。」
「そうか。分かった。では、コウセイ私がお前を一人前にしてやるからな。しっかり付いて来なさい。」
そう言って、エルはその綺麗な瞳を不敵に光らせ光征に対して笑いかけた。




