↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/7

満点の転校生

人を見れば、つい点数をつけてしまう。


そんな少し変わった癖を持つ男子高校生の物語です。


百点の相手と出会えば、何かが変わるのか。

そもそも、人の魅力は数字で表せるのか。


ゆっくりと進んでいく青春と恋愛を、楽しんでいただければと思います!

通学路を歩きながら、俺は向かいから歩いてくる女子高生に目を向けた。


 顔立ち、髪型、服装、歩き方。


 それぞれを頭の中で確認し、最後に全体の印象を加味する。


 72点。


 悪くない。けれど、特別目を引くほどでもない。


 すれ違いざまにもう一度だけ視線を向けてから、俺は前を向いた。


 次に歩いてきた男子高校生は61点。イヤホンをしながら歩いているサラリーマンは58点。犬を連れたおばさんは、犬がかわいかったので人間の評価とは別に加点しておいた。


 人間を点数で評価する。


 そう言うと、性格が悪いだの失礼だのと言われるかもしれない。実際、人間顔である。企業の面接では能力が同じであれば容姿のいい方を採用するし、多少劣っていても良い方を選ぶ企業は多いだろう。学校でも顔が良ければ多少の言動は許される。


 ただ、目に入ったものを自分なりの基準で評価しているだけだ。


 顔が整っているか。清潔感があるか。雰囲気がいいか。話してみたいと思えるか。


 基準はそのときの気分によって変わる。


 我ながら、ずいぶん適当な採点方法だと思う。


 それでも、やめる気はなかった。


七海「またやってるの?」


 隣から声がした。


 桜井七海。家が近く、物心ついた頃から一緒にいる幼馴染だ。


朔「何が?」


七海「女の子の採点。今の子、何点?」


朔「83」


七海「即答じゃん。相変わらず失礼だね」


朔「口に出してないからセーフだろ」


七海「そういう問題かなあ……」


 七海は呆れたように笑った。


 俺がこの癖を持っていることも、聞けば点数を答えることも、彼女は昔から知っている。中学の頃から何度もやめろと言われているが、やめる気はなかった。


 もちろん、七海にだって点数をつけたことはある。


 ただ、その数字を本人に教えたことは一度もない。


七海「ちなみに、私は?」


朔「何が?」


七海「私の点数」


朔「……朝から面倒な質問するな」


七海「いいから。何点?」


 七海は笑っている。


 いつもの、見慣れた顔だった。


 だから俺は、その質問に答えることを少しためらった。


朔「秘密」


七海「えー、ずるい!」


朔「自分から聞いておいて、低かったら怒るだろ」


七海「高かったら怒らないよ?」


朔「その言い方が信用できない」


 七海は不満そうに頬を膨らませた。


 こういう表情も、俺にとっては見慣れたものだ。小さい頃から隣にいて、学校が変わっても、学年が上がっても、こうして一緒に登校している。


 だからだろうか。


 七海を異性として意識したことは、ほとんどなかった。


 少なくとも、俺はそう思っている。


 家を出る前に食べた朝食は、コンビニで買ったチョコデニッシュだった。両親は仕事の都合で家を空けることが多く、朝から食卓に誰かがいる生活には慣れていない。


 袋の裏に書かれたカロリーを確認しながら食べるのも、いつの間にか習慣になっていた。


 点数をつけることといい、数字を見ることが好きなのかもしれない。


七海「そういえば、明日から二年生に転入生が来るらしいよ」


 七海が思い出したように言った。


朔「へえ」


七海「興味なさそう」


朔「まだ見てもいないのに、何を話せばいいんだよ」


七海「可愛い子だったら?」


朔「採点する」


七海「最低だ……」


 七海は笑った。


 俺も軽く笑い返す。


 そのときは、本当にそれだけの話だと思っていた。


     *


 学校に着き、教室へ向かう。


 始業式だの新学期だのといった大きな節目はすでに過ぎている。二年生になってしばらく経ち、クラスにも慣れ始めた頃だった。


 教室に入ると、窓際の席に鞄を置く。


クラスメイト「おはよう、水瀬」


朔「おはよう」


 クラスメイトと挨拶を交わし、席に座った。


 しばらくすると、後ろの席の男子が椅子を寄せてくる。


クラスメイト「なあ、水瀬。お前、桜井と付き合ってんの?」


朔「は?」


クラスメイト「いや、いつも一緒にいるじゃん。朝も帰りも」


朔「幼馴染だよ」


クラスメイト「それだけ?」


朔「それだけ」


 考えるまでもなかった。


 七海と付き合う。そんな想像をしたことすらない。


 相手が七海だから、というより、あまりにも当たり前にそばにいたからだ。今さら関係が変わるなんて、考えにくかった。


クラスメイト「ふーん。まあ、本人たちがそう言うならいいけど」


 男子はつまらなそうに自分の席へ戻っていった。


 俺は机に頬杖をつき、窓の外を見る。


 恋愛に興味がないわけではない。


 ただ、今のところ特別な相手がいないだけだ。


 それに、好みの相手と実際に付き合うことは、きっと別の話なのだろう。


 そんなことを考えながら、俺は朝の通学路で見かけた女子たちの点数を、頭の中でもう一度振り返っていた。


     *


 昼休み。


 スマートフォンを見ると、七海からメッセージが届いていた。


『今日、帰り一緒に帰れる?』


 いつもはわざわざ確認しなくても、帰る時間になればどちらかが声をかける。こんなふうに事前に聞いてくるのは珍しかった。


『別にいいけど』


 返信すると、すぐに既読がついた。


『じゃあ昇降口で待ってるね』


 それだけのやり取りだった。


 午後の授業を終え、昇降口へ向かう。七海は約束どおり、壁際で俺を待っていた。


朔「お待たせ」


七海「ううん。行こう」


 校門を出て、いつもの道を歩く。


 他愛のない話をしながら帰っていたが、しばらくすると七海がこちらを見上げた。


七海「ねえ、今朝の話だけど」


朔「どの話?」


七海「転入生。もしすごく可愛い子だったら、何点つける?」


朔「顔も雰囲気も好みなら、100点もあり得るんじゃないか」


七海「100点かあ……」


 七海は小さく繰り返した。


七海「そんな人、いるのかな」


朔「さあな。いたら面白いけど」


七海「そっか」


 七海は前を向いた。


 夕方の光が、その横顔を照らしていた。


 何か言いたそうに見えたが、結局、彼女は別の話題を口にした。


七海「明日も一緒に行こうね」


朔「いつもそうだろ」


七海「うん。そうだね」


 七海は笑った。


 けれど、その笑顔がいつもとまったく同じだったかどうかを、俺は考えもしなかった。


     *


 翌朝。


 俺はいつものように通学路を歩いていた。


向かいから、なにかの雑誌を抱えた女子高生が歩いてきた。少し野暮ったい髪型に、垢抜けない服装。顔立ちも平凡で、どこか芋っぽさが抜けきっていない。


 顔59点、髪型54点、雰囲気57点。

総合評価、56点。


 いつもどおりだ。


 七海と合流し、他愛のない会話をしながら学校へ向かう。教室に入っても、特に変わったことはなかった。


 ホームルームが始まる直前、担任が教室に入ってきた。


担任「今日は、みんなに紹介する人がいる」


 ざわついていた教室が、少しずつ静かになる。


担任「転入生だ。入ってきていいぞ」


 扉が開く。


 教室に入ってきたのは、黒髪の女子だった。


 背筋が伸びていて、無駄な動きがない。整った顔立ちに、どこか近寄りがたい雰囲気。教室中の視線が、自然と彼女に集まっていた。


 俺も、思わず目を奪われた。


 彼女は教壇の横に立ち、教室を見渡す。


澪「藤崎澪です。よろしくお願いします」


 淡々とした声だった。


 愛想笑いも、照れた様子もない。


 それでも、彼女が顔を上げた瞬間、俺は確信した。


 顔立ち、100点。


 髪型、100点。


 雰囲気、100点。


 今までつけてきた点数の基準が、音を立てて崩れていく。


 総合評価。


 100点。


 初めてだった。


 俺が、迷いなく満点をつけた相手は。


 そのとき、藤崎と目が合った。


 彼女はほんの一瞬だけ俺を見て、すぐに視線を外した。


 まるで、俺に興味などないと言わんばかりに。


 ……なんだよ。


 少しくらい反応してもいいだろ。


 そんなことを考えている自分に気づき、俺は小さく息を吐いた。


 採点する側の人間が、採点される側の反応を気にするなんて。


 我ながら、ずいぶん勝手な話だった。


 けれど、このときの俺はまだ知らなかった。


 満点をつけた相手が、自分の思いどおりになるとは限らないことを。


 そして、数字では測れないものが、少しずつ自分の中に増えていくことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。