第19話 アーンし合うなんて普通だし
「は~い。みんな私の目を見てね。校門前の事を皆は、よく憶えてる。そうだよね、白鳳学園の副会長が泣きながら土下座してるなんて、衝撃的なシーンだよね。でも、この事は内緒にして欲しいんだ。話が広まったら乃依姉ぇが可哀想だからね。あと撮った動画や写真は、女子高生の土下座や腹切り未遂のシーンなんて不適切だから、バックアップも含めてちゃんと消しておこうね」
「「「「「はい。白玉会長」」」」
私の言葉を聞いた生徒たちは、その後、静かに校舎の方へ歩いて行く。
まだ登校には早い時間だったから、そこまで目撃者が多くなかったのが幸いしたな。
「よしっ。皆分かってくれたみたい。これで、他言される事はないと思うよ乃依姉ぇ」
「ありがとうございます、白玉会長……。なんとお礼を言っていいのか」
生徒達へのお願いが済むと、ようやく冷静さを取り戻した乃依姉ぇが感謝の意を伝えてくる。
「不思議なんですよね、白玉会長のお言葉って不思議と人が惹き込まれるというか、自然と傾聴の姿勢になるというか……。一瞬鈍く光る瞳に吸い込まれる感覚と申しましょうか……」
「アハハ……。ありがとうございます走水先輩」
流石は有能メイドの走水先輩。一瞬ヒヤッとした……。
この人の前では、妖術を使うのは控えよう。
はい。今回は仕方がないので妖術を使いました。
まぁ、妖術って言っても、お願いベースで、そのお願いに正当性があるというロジックを増幅させ、自身の自発的な規範意識を高めさせることで秘密を守らせる術式だ。
私はこの術式を、全校集会の時にも度々使っている。
あ、生徒会選挙の時には使ってないよ。
ちゃんと倫理観持って妖術は使ってるから。
無論、タマモみたいに妖術を使ってるのがあからさまに分かってしまう紅玉の瞳も偽装を施しているのだが、稀に居る走水先輩みたいな人には違和感を覚えられたりする。
やっぱり妖術の使用には慎重にならないとね。
「へぇ。桃萌ってすごいんだね」
──って、妖力持ちのアンタは気付きなさいよ……。相変わらずタマモはダメっ子である。まぁ、そこが放っておけないんだけどね。
キーンコーン♪カーンコーン♪
そんなこんなでバタバタしていると、始業のチャイムが鳴り出したので、私たち一団は慌てて校門をくぐるのであった。
◇◇◇◆◇◇◇
「で、何でオコナーさんが昼休みの生徒会室に居るんですか⁉」
昼休み。
再び顔を合わせた乃依姉ぇは、すっかりいつもの調子を取り戻し、元気にタマモとケンカしていた。
「だって、お昼ご飯のお弁当は桃萌と一緒に食べないとだし」
「答えになってないです」
生徒会室の応接セットのローテーブルにお弁当を広げながらタマモが反論するが、もっともな理由で乃依姉ぇが反論する。
「ゴメンね乃依姉ぇ。朝できなかった生徒会の仕事をお昼休みにやっつけなきゃって言ったら、桃萌が『一緒に食べる!』って聞かなかったから。まぁ、先約はお弁当のが先だったし」
「ぐっ……。そこを突かれると……」
今朝のプチケンカが今の突発の昼休みの時間外勤務を生んでいるので、当事者の一人である乃依姉ぇは、あまり強く出られない。
「ついでに私もいます」
「貴女、たしか白玉会長のただの友人の芦名さんでしたっけ? ただの」
何故か、『ただの』を無駄に2回も言う乃依姉ぇ。
校正さんの赤ペンが入るぞ。
「わぁ~。火華先輩に名前憶えててもらえてて光栄ですぅ。あ、でも留年して二度目の一年生だから先輩って付けなくていいんでしたっけ?」
「お好きにどうぞ~」
全然気にしないで寛ぐ紗江と、何故か眉を吊り上げる
「桃萌……何かあの2人怖いんだけど」
「いっつも、あのくだりをやるんだよね~、あの2人。とっくに顔見知りなのに。ほら、乃依姉ぇ。仕事たまってるから手を動かす」
「はい……すいません会長」
コソコソッとこちらに寄って来たタマモが聞いてくるのを、液タブで電子ペンを走らせながら答えると、渋々
実は私の分の生徒会の仕事は既に終わってるんだけど、ちょっと外部の仕事もやらなきゃだからね。
校正作業やるには、やっぱり広い机で液タブで、手書き感覚で書き込むのが一番早いな~。
「はい、桃萌。お稲荷さんア~ン」
「ん? あんがとタマモ」
タマモのリクエストでまたしてもお稲荷さん弁当だけど、こうやって作業しながらで手がふさがってる時には便利だね。
ん、カリカリ梅の入ったお稲荷さん美味しい。
「このお稲荷さん、タマモのお弁当の分じゃない?」
「そうだよ。私からの甘やかし~。有能な玉藻様は、自分のお弁当を分け与えるんだよ」
「それだとタマモが足りなくなって、午後の授業でお腹が鳴っちゃうでしょ。ほら、私のも一個あげる。ほら、アーン」
「アーン♪ うん、美味し~。桃萌はお稲荷さんを作る天才だね。いいお嫁さんになるよ~」
「なにその、お稲荷さん限定の天才って」
まぁ、褒められて悪い気はしないけど……と思ってモグモグしていると、ふとドス黒いオーラ対面から発せられているのを感じる。
「オコナーさん、会長……。詳しく……説明してください。今、私は冷静さを欠こうとしています。出来るだけ簡潔に先ほど目の前で起こった事象について説明を」
「「ええ……」」
なんで乃依姉ぇってば、そんな激オコなの⁉
瞳孔が開いて、必死に理性で感情を押し殺して真顔なのが、余計に怖いんだけど……。
あと、詳しく説明してって言った直後に、簡潔に説明しろって、もう冷静さを欠いてるんじゃ……。
ここは、対乃依姉ぇ戦力である紗江に期待を。
「女の子が女の子にお稲荷さんを食べさせる解釈……。男のイチモツを食べさせることで、己がオス側であるという相互の主張……。だがそこは、モモ×タマ、タマ×モモ両派閥の間で血で血を洗う大論争に……。となるとやはり、2人の聖域に挟まった咎人の玉ぶ……成れの果てを食べさせる事で、モモ×タマの白さを保つ解釈の方が万人の理解を得られて……」
何だかよく分からない長文考察をブツブツ呟きながら、紗江が思考の深海へ沈む。
──あ、ダメだ……。この状態の紗江の集中力は、天才テニスプレイヤーと称される私すら凌駕する……。
紗江も白鳳学園に通っているだけあって非凡だからな~。
やっぱり、何かしらの方面において秀でているんだよな~。
──っていうか、女の子同士なんだから、こうやってアーンし合うなんて普通だし。
そう思いながら、私はどす黒くキレている乃依姉ぇと、怖がって私の背中の後ろに隠れるタマモとの間に板挟みになり途方に暮れるのであった。




