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玉藻とタマモは甘やかしたい  作者: マイヨ@貞操逆転男友達【5/29発売】


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第1話 自称タマモ様が家に来た

 玉藻前(たまものまえ)という妖怪を皆様はご存知だろうか?


 見た目は麗しい女性だけど、その正体は九尾の狐の大妖怪。


 そんな玉藻前が人間世界に潜り込んでいる理由だけど、いた男をダメ人間にするためなのだ。


 その美貌で男をメロメロにするのはもちろん、家事の一切を取り仕切り、男に金銀財宝を与えて仕事にすら行かせない。


 そして哀れ、玉藻前にかれた男は、甘やかされつくして、そのままダメ男として堕落したまま、その一生を終えるのである。


 え? どうして、急に妖怪の話をし始めたかって?


 それはね~。


「はわっ!? ここ、どこ!? って、あ、ど、どうも……。名前はアイリス・玉藻・オコナーと申します。はるばるアイスランドから参りました。その、決して怪しい者ではないんです! 信じてください!」


「はぁ、どうも」


 夜、私、白玉(しらたま)桃萌(ももも)の部屋の中に、突如として玉藻を自称する少女が現れたからだ。


 アセアセと、目の前にいる亜麻色の髪で白色の着物、いわゆる白無垢を着た少女が弁明をしつつ名乗る。


「ええと、ええと……。あっ! フフフッ、人間よ。(わらわ)の美貌に声も出な」


「いや、声出てるし。ファーストコンタクトでしくじってるのに、今更、大物ぶるのは無理があるでしょ」


「ふえっ⁉」


私の冷静なツッコミに、白無垢の少女はまたもや言葉につまる。


どうやら、事前に決めていた登場時の口上をすっ飛ばしたのを強引に軌道修正したかったようだが、テンパった自己紹介をすぐにしてしまっていた時点でおしまいである。


 さて。

本来、施錠されている家の中に音もなく知らない人が侵入していたら即通報案件だ。


 だけど。


「まぁ、落ち着いて。私は白玉桃萌っていうの、よろしく。桃萌でいいよ。立ち話も何だから、そこのベッドの上にでも腰かけなよ」


 私は、努めて冷静に彼女に、まずは落ち着くよう諭す。


 ジャパニーズ妖怪なのにアイスランド出身だったりとツッコミどころはいくつかあるけど、それは一先ず無視しよう。


「え!? あ、はい。ええと……」

「ああ。その着物姿じゃ介添えが必要だよね」


 そう言って私は手を差し伸べる。


 白無垢は、複数の着物や帯を重ねている関係で、一人で座ったり立ち上がったりするのが困難なのだ。


「あ、ありがとう……」


 目の前にいる女の子は少々困惑しながらも、私の差し伸べた手を取りベッドの上に座る。


「あの……」


「ん? なに?」


 少女がベッドの上に座るのを見届けた私は、学習机の椅子にドカッと腰を下ろしつつ、少女が言い淀んだ先を話すように促す。


「桃萌は私のことを不審に思わないの? 自分で言うのもなんだけど私、とっても怪しいよね?」


「たしかに、自分のプライベート空間に見ず知らずの他人がいるのはちょっとした恐怖だね」

「ふぇ⁉ や、やっぱりそうだよね、ごめんなさい!」


 オドオドと白無垢の少女が謝る。

 自分で自分の事を不審と言ったり、不法侵入しておいて謝ったり、変わった子だな。


「まぁ、私だから何の問題も無いよ」


 余裕を見せるために、無造作に椅子に背中を預けると、ギシッと背もたれが軋む。


「は、はぁ?」


「それに、相手は自分では自由に動くこともままならない白無垢姿の女子一人。制圧するのは容易(たやす)いしね」


「せ……制圧!? わ、私、悪い狐じゃないコンッ!」


 ビクッと身体を震わせて、必死に弁明する白無垢の少女。


 っていうか、『コンッ!』って……。

狐キャラとしてベタベタな語尾だな、おい。


「ああ、別に貴女の事をどうこうしようという訳じゃないんだよ。さて、貴女は玉藻……様との事なんだけど、何か証拠はあるの?」


「は……はぁ。理解が早くて助かるけど、何か調子くるうな……」


 白無垢の少女はまだ私の速さについていけていない様子で、困惑顔だ。


 そりゃ、こんだけ話がポンポン進めば訝しくも思うわ。

 まぁ、私もその理由を言う訳にはいかないのだけれど。


 目の前にいる白無垢姿の少女は、たしかにこの世の物とは思えない程の美人さんだ。

 だが、それだけでは彼女が玉藻……様だという証左にはならない。


「これが証拠だよ」


 そう言って、白無垢の少女は綿帽子を取る。



「……キツネ耳」



 彼女の頭の上には人にはない物が、とがった耳があった。

それは、ピョコピョコっと意志を持ったように動いている。


「あんまり、じっくり見ないでよ。普段、他人に見せない所で恥ずかしいから……」


 目の前の少女の頬が、羞恥により朱色に染まる。


「いや。本物かどうか確かめる必要があるから」

「わひゃっ!? そんないきなり触って、ん……!」


 そんな少女の恥じらいを無視して、私は己の知的好奇心を優先して、白無垢の少女の座るベッドの横に座り、少女の耳を手で優しく包み込む。


「じっとして」

「ふわっ! はぁ……」


 頭をよじって逃げようとする少女を、私は自分の元に身体ごと引き寄せる。


「ふむ。コスプレ用のカチューシャやウィッグの類じゃなく、本当に頭部から生えてるね」


「や……、そこダメ。それ以上はダメで、あっ……」


 ちょうどケモ耳の吟味が終わったと同時に、彼女の身体から力が抜け、クタッとベッドに倒れ伏した。


「大丈夫? 起き上がれる?」

「ハァハァ……。あ、ありがと。ご、ごめんね、他人様(ひとさま)の家のベッドの上で」


 荒い息をしながら、重たそうに私の手を借りながら自分の身体を起こす白無垢の少女。

 まぁ、その格好だと身体重いよね。


「それは気にしなくていいよ。それにしても、そのキツネ耳は本物なんだね」

「うん。さっき桃萌が(まさぐ)った通りだよ」


 白無垢の少女の耳をまさぐり倒したが、明らかに人間の技術では再現不可能な温もりや血の通った動きであった。


 彼女が、妖狐であることは疑いようもない。


「うん。確かに貴女は人間ではないみたいだね」

「良かった、とりあえず信じてもらえて……。あ、それで、この家に住んでいる男性は、今は留守なの?」


「ん? この家に住んでる?」


「うん! 私がこれからとり憑く事になる男性のことだよ。桃萌のお兄さんとかかな?」


「いや、居ないけど」

「……え?」


目の前の白無垢の少女は、赤ちゃんみたいなキョトン顔を晒す。

どうやら感情が素直に表情に出る子のようだ。


「ここは私が一人暮らししてる家だし」

「え? こんな豪邸に一人暮らし?」


「うん。ちょっと家庭の事情でね」


そう言って、私は笑った。

フッと暗い影が差すのが自分でも分かった。


できれば、この感じを察して掘り下げないで欲しいんだけど……。


「え~~!? 『術式でとり憑くべき、この世界で最も優秀な人の元へ送ってやる』って、お母さんに言われてはるばるアイスランドから転送して貰ったのに……。もしかして、お母さんの転送術式が失敗した!?」


まぁ、アタフタする白無垢の少女は、それ所ではなく、そんな事には気づいてもいないみたいだけど。


──あ~、そういう事か。


この世界で最も優秀……ね……。

まぁ、そこは(あなが)ち間違っちゃいないけどね。


貴女のお母さんは、転送術式を組む時に、大事な基本情報を入れ忘れたね。

ちゃんと、性別を男に限定するチェックを入れずに、デフォルトのどちらでもいいが選択されてたな。


「じゃあ一度、家に帰ったら?」


「で、でも……。私は玉藻だから、最も有能な男の人に尽くして、ダメ男にしないといけないんだよ! 誰でも良いわけじゃないの! お母さんとの約束……なんだから……」


 帰るように促すと、ベソベソと白無垢の少女が泣き出す。


 白無垢の着物姿の女の子が泣いていると、まるで挙式当日に婚約者が来ない哀れな花嫁みたいで、妙に罪悪感に駆られるがここは心を鬼にしないと。


 私にだって事情がある。


 色々と。


「こんな時はどうすれば……。ええと、お母さんから授けられたメモによると」


 追い詰められた白無垢の少女は、そう言うと、着物の裾から巻物を取り出して、必死にめくっている。


 お母さんからのメモね……。


 わざわざ巻き物に書いているとは、また古風な。


 白無垢の着物といい、そういうイメージ戦略か? と思いながら必死顔の彼女に声を掛けられずにいた。


 すると。



(ピピピッ♪)



 白無垢の少女が、目の前にいる私そっちのけで巻物を必死に熟読しだしたのと同時に、スマホからコール音が鳴った。


「ちょっと電話出てくるね」


「ブツブツ……。転送術式の元コードは、この辺に……。ブツブツ……」


 白無垢の少女は巻物に集中しているようなので、私の言葉が耳に入っていない様子だが、電話に出るために、私は部屋の外に出てドアを閉める。



「もしもし、お母さん。どうしたの?」

『あ、桃萌? 元気にしてた~?』


 電話の相手は母親だった。


「うん、いつも通り元気にしてるよ。お母さんたちは、今はどこの国にいるんだっけ?」

『今はドバイ。こっちは今は陸に上がって買い物して、午後のカフェの時間よ~』


「娘を置いて世界一周豪華客船の旅とは恐れ入るね」

『娘が反抗期で悲しい~。家賃払うの止めようかな』


「ちょうどいいや、お母さん。聞きたいことがあるんだけど」


 お母さんの定例の脅し文句を無視して、私は自分の用件を伝える。


『なに~?』


「私に双子の妹とか、生き別れた妹とかっていない?」


 いきなり実の母親に向かって何を聞いているんだと自分でも思う。

 でも、念のために聞いておく必要があった。


 我が家は色々と特殊なのだし。


『何それ。私があの人と仲良しして胎内に宿した娘は、桃萌一人だよ~』


「思春期の娘に向けるにはあまりにキモイ表現だけど、要は居ないんだね」


「そうだよ~」


 そりゃそうだよね。

 となると、やはり今、私の部屋で必死に巻き物と格闘している彼女は……。




『それで、桃萌ちゃん。そろそろ玉藻前の次期後継者としての覚悟はついたのかな?』




 はるか彼方の海外からだが、電話口から圧が漏れ出てくる。



「……まぁ、ボチボチかな」


『有能な男の子の一人や二人、桃萌ちゃんならいくらでも落とせるから。なにせ、貴女はあの玉藻前当主の嫡女なんだから』


 適当な回答に、さらなる追い打ちで母さんは己の立場を再認識するよう促してくる。


 当代の玉藻前である母と、人間の父の間から生まれた、次期当主の自分。


 私が生まれながらに背負った家の名前と呪いから目を背けるなという母さんからのメッセージは、私の口を否応なく重くする。


「家の事は分かってるよ……。そう言えば、白玉の家って分家とかあったりするの?」


 ただ、私には至急確認しておくべき事項があった。

 玉藻前を自称する白無垢の女の子についてだ。


 母さんのイタズラという可能性もあるのだけれど。


『無いよ。かつて、分家を作ろうとした代があったらしいけど、家の内外から徹底的に潰されて以来、御法度になったよ』


「徹底的に……」


『うん。この点に関しては、人間界との協定においても重要な部分だから、当代の玉藻の私でもどうしようもないね』


 珍しくマジトーンで話す母さんの言葉に、事の重大さを徐々に理解しだす私。


「もし仮にいたら……」


『即、処分でキツネ鍋にされるね。けど、キツネの肉って臭みが強くてあんまり美味しくないんだよね~』


「そ、そう……」


 ……マズい。

 いや、キツネ鍋がじゃなくて、今の事態がだ。


 これは非常にマズいぞ。


『さっきから桃萌ちゃん、変なことばっかり聞いてくるけど、もしかして……』


「あ! 国際通話だから通話料金高いよね! 日本じゃそろそろ高校生は寝る時間だから、もう寝るね。じゃあおやすみ、お母さん!」


 そう言って通話切断をタップし、夜8時過ぎの高校生が寝るには健全的すぎる時刻を表示するスマホを眺めながら、しばし途方に暮れる。


 もし、私が白無垢の少女の事をお母さんに喋っていたら、彼女はジエンドだった。

 その事を考えると、脂汗が額に浮かぶ。


 とりあえずどうしたもんかと考えながら部屋に戻ると。


「う、うぇぇ……。桃萌ぉ……」

「な、何!? そんな泣いてどうしたの?」


 可愛い狐っ子が、顔をグシャグシャにして泣きじゃくっていた。


「この転送術式は一方通行で、帰還術式は無いみたいです」

「マジか⁉」


慌てて、転送術式について記載された巻物をひったくって見てみる。


──く……。ひどいスパゲティコードの術式……。しかも、起点の座標が近接物との任意座標!? これじゃあ本当に、元の場所が分かんないじゃない。


思わず顔を顰めてしまう。

よく、こんな拙い術式で転送事故を起こさずに私の家まで送れたな。


「あの……。桃萌は、こういう術式とかに詳しいんですか?」


「え⁉ いや、全然~。読んでも全然わかんないわーアハハー」


咄嗟に、半人半妖である事は隠して、巻物を戻す。


「じゃあさ、飛行機とかで故郷に帰ったらどうかな?」


 意気消沈する彼女をここぞとばかりに上手く誘導しようと、私は彼女に郷里に帰るように諭す。


 おめおめと故郷に帰るのが、結果的に君の命を救うんだよ。


「でも私、そんなお金持ってないの……。嫁ぐ時には、身一つ風呂敷包み一つと、お母さんから言われてたから……」


いや、娘を異国に送り出すのに、そんな緊急脱出用のお金すら持たせてないの⁉


手違いで勇者召喚に巻き込まれて、体よく城から追い出される異世界ファンタジーの主人公だって、もうちょっと路銀持たされるでしょ。


っていうか、転送術式で来てるから、パスポートの出入国の記録が無いのか。


となると、このままじゃ入国管理局送りになっちゃうから、私の方で飛行機を手配するのも、合法な方法では無理か……。


「それに、お母さんからは、『高校生の歳になったのだから、有能な男の一人や二人ダメにしてきなさい』と課題を出されてるの。それでおめおめと直ぐに帰る訳には……」


「へぇ。そこは同じなんだ」


「同じ?」

「ああ、いや。こっちの話」


 玉藻あるあるに、思わず素が出てしまった。

 危ない。


「仕方がない……。気乗りしないけど、他の有能な男の人を探す……。お邪魔しました」


 そう言って肩を落とした白無垢の少女が、部屋を出て行こうとする。

 そのしょぼくれた背中を見て、私にはとある解像度の高い未来像が見えた。


パターン1

 ドジっ子少女は、結局自分が玉藻前だと言っちゃう → 玉藻前であることが周囲に広まる → うちの母さんなどの玉藻前関係者の耳に入る → キツネ鍋(バッドエンド)


パターン2

 お金のない白無垢の少女。路上で途方に暮れる → くたびれたサラリーマンが声を掛けてくる → 世間ずれしてない白無垢の少女はホイホイついて行く → R18エンド



 アカン!


「……いいよ。しばらく、私の家に居て」


「え?」


 すごすごと家を後にしようとした白無垢の少女が、私の言葉に振り返る。


「落ち着く先が決まるまで、うちに居ればいいよ。この家は一人暮らしには広すぎるからさ~。1人同居人が増えても問題ないって」


 このまま帰したら、白無垢の少女はキツネ鍋になるか、監禁エンドの末路しかない。


 でも、私の……。

 本物の玉藻前の縁者である私の傍にいるなら、なんとかフォローできるはずだ。


 いたいけな女の子が不幸になることが分かりきってて知らんぷりするなんて、私にはできなかった。


 この子は明らかに何も知らなくて、本気で自分が玉藻前だと無邪気に信じ込んでいるだけみたいだし。


「や、やったぁぁぁあああ! ありがとう桃萌ぉ!」


 涙を流しながら、白無垢の少女が喜びを爆発させる。


「どういたしまし……。って、そんなピョンピョン跳ねたら」



 (ドテンッ!)



「イタ~ッ! お尻イタイ~!」

「まったくもう。白無垢姿ではしゃぐから」


 床に転んでしまった白無垢の少女を助け起こす。


「エヘヘッ、だって嬉しくて。私はずっと日本に来て、玉藻様になるのが夢だったから」


「そっか」


「これからよろしくね桃萌。私、ちゃんと相手をダメ男にして、立派な玉藻様になってみせるから!」


 しかし、ちゃんとダメ男にしてみせますって、凄い宣言だな。

 いや、うちの家も結局は同じことしてるんだけどね……。


「あ、私の事を呼ぶ時には、玉藻って呼んでください桃萌」

「うん。よろしくね()()()


 満開の笑顔の少女に、私は苦笑で返す。


 今後の生活がどうなるんだか……。

()()であるタマモと、跡取りになりたくない玉藻。


2人の共同生活は、こうして幕を開けたのであった。


初挑戦の百合ラブコメです。


女主人公ラブコメですがノリや舞台設定は割といつもの感じです。

続きが気になるよという方はブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。

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