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ノストラダムス・コード2026 〜七ヶ月の戦争を止める者たち〜  作者: はまゆう


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2/7

第2話『1999年の嘘』

【巻頭詩:予言集 第10巻 第72番(改訂訳)】


*L'an mil neuf cent nonante neuf, **sans** mois,*

*Du ciel viendra un grand Roy **d'payeur**:*

*Resusciter le grand Roy d'Angolmois,*

*Avant apres Mars regner par bon heur.*


和訳(改訂版):

1999年、**月 unspecified(特定せず)**、空から**支払い人の大王**が来るだろう。

アンゴルモアの大王を蘇らせん。

その前後、マルスは幸福に支配せん。


注釈:

1999年1月1日、ユーロ決済通貨導入。7月16日、JFK Jr.墜落事故。7月23日、日本財務大臣暗殺未遂。「何も起きなかった」1999年7月は、実は最も重要な月だった——。


***


## 1


2026年4月3日、午後7時45分。


パリ、マレ地区の路地裏。神崎翔と高坂紗耶は、黒木教授のメモに書かれた住所の前に立っていた。


『フランス国立図書館・別館 地下書庫 R-26』


重厚な石造りの建物が、夕闇に浮かび上がっている。


「ここ、本当に大丈夫?」紗耶が小声で訊ねた。「なんか、怪しい雰囲気が漂ってるんだけど」


「黒木先生が『信用できる』って言った場所だ。行くぞ」


翔が鉄の扉をノックすると、小さな窓が開き、中から目が現れた。


「Nom?(名前は?)」


「神崎翔。黒木浩二からの紹介状がある」


翔が紹介状を窓に押しつけると、目はそれをじっと見つめ、そして扉が開いた。


「入って。エミリーが待っている」


中に入った翔と紗耶は、息を呑んだ。


そこは図書館ではなく、無数のモニターと書類で埋め尽くされた秘密基地のような空間だった。壁にはノストラダムスの四行詩が貼られ、赤い糸で結ばれている。中央の机には、一人の女性が座っていた。


金髪を後ろでまとめ、鋭い青い目を持つ女性。年齢は三十歳前後だ。


「神崎翔さんね。黒木から話は聞いている」


女性は流暢な日本語で話し、立ち上がった。


「私はエミリー・デュモン。フランス国立図書館司書……という表の顔と、ある組織のメンバーという裏の顔を持っている」


「組織?」翔が警戒して訊ねた。


「『予言監視委員会』。ノストラダムスの予言が、誰かによって悪用されていないかを監視する団体よ」


エミリーはモニターを指差した。そこには、1999年7月の日本の新聞記事が映し出されていた。


```

『1999年7月、恐怖の大王来臨』

『ノストラダムス予言、世界終末か』

『東京でパニック、避難民殺到』

```


「1999年、日本では大パニックが起きた。でも、何も起きなかった。なぜだと思う?」


翔は手帳を開いた。


「『7月』という文字が後から挿入されたから。そして『恐怖の大王』という誤植の訳も、誰かが意図的に広めた」


「その通り」エミリーは頷き、キーボードを叩いた。モニターが切り替わり、1999年1月1日の欧州の新聞記事が映し出された。


```

『ユーロ、決済通貨として導入』

『新通貨が世界経済を支配する』

『ECB総裁、「新時代の幕開け」』

```


「1999年1月1日、欧州でユーロが決済通貨として導入された。これが『空から支払い人の大王』の正体。でも、この真実を隠すために、誰かが『7月』と『恐怖』に改竄した」


紗耶が前に出た。


「でも、なぜ?なぜそんなことを?」


エミリーは静かに言った。


「1999年7月に、別の何かを隠すためよ」


モニターが再び切り替わる。今度は1999年7月16日のアメリカの新聞記事だった。


```

『JFK Jr.行方不明、大西洋で捜索』

『ケネディ家の悲劇、再び』

『ノストラダムス予言成就か?』

```


翔は目を丸くした。


「JFK Jr.……ジョン・F・ケネディ・ジュニア?」


「そう」エミリーは頷いた。「1999年7月16日、JFKの息子、ジョン・F・ケネディ・ジュニアと妻キャロリン・ベッセットが乗ったピパー・サラトガ型小型機が、マサチューセッツ沖の大西洋に墜落。二人は死亡しました」


モニターに、JFK Jr.とキャロリンの笑顔のツーショット写真が映し出された。新聞の見出しが次々と流れる。


```

『アメリカの王子、39歳で悲劇の死』

『2000年大統領選出馬有力候補が事故死』

『ノストラダムス『空から恐怖の大王』か?』

```


「公式には『パイロットエラー』とされていますが……」エミリーは声を潜めた。「ノストラダムス研究者の間では、これが『恐怖の大王』の最有力候補でした」


翔は息を呑んだ。


「『空から(飛行機で)来た偉大な王(ケネディ家)が、恐怖(墜落事故)で死ぬ』……確かに、完璧に当てはまりますね」


「そう」エミリーは続けた。「JFK Jr.は2000年の大統領選出馬が噂されていました。ケネディ王朝復活の象徴です。彼の死は、単なる事故ではなかった可能性があります」


紗耶が割り込んだ。


「ちょっと待って。それと日本の事件は関係あるの?」


エミリーはモニターをさらに切り替えた。1999年7月23日の日本の新聞記事。


```

『都内某所で要人暗殺未遂』

『男、逮捕されるも詳細は公表されず』

『政府、「国家安全保障」により情報統制』

```


「JFK Jr.の死からわずか1週間後の7月23日、日本で財務大臣暗殺未遂事件が起きました。犯人は『1999年7月、恐怖の大王が来る』と叫びながら銃を乱射。その事件も『国家安全保障』を理由に公表されませんでした」


翔は手帳を握りしめた。


「つまり……1999年7月は、ユーロ導入の経済支配を隠すための、完璧なカモフラージュだった?」


「その通り」エミリーの目が鋭くなった。「JFK Jr.の墜落事故で世界の注目を集め、日本での暗殺未遂で混乱を加速。そして、その裏でユーロという『支払い人の大王』が静かに世界経済を支配し始めた」


紗耶が眉をひそめた。


「でも、誰がそんな手の込んだことを?」


エミリーは壁に貼られた組織図を指差した。


「『ル・プロフェット』。予言を武器として利用する秘密結社です。彼らは、JFK Jr.暗殺を『予言成就』に見せかけ、人々の予言への信頼を高めました。そして、その信頼を、2026年の『七ヶ月の大戦争』に利用しようとしています」


その瞬間、建物の照明が点滅した。


モニターがすべて黒くなり、そして一つのメッセージが表示された。


```

『1999年の嘘を暴くなら、2026年の真実も知れ。

4月4日、午後2時、ロンドン。

チャールズ国王の戴冠式記念イベントに現れよ。

ハリー王子が真実を語る。

——預言者ル・プロフェット

```


紗耶がモニターを叩いた。


「ハッキングされた!誰か、私たちの通信を傍受してる!」


エミリーは冷静に言った。


「予想通りね。彼らは、私たちが1999年の真実にたどり着くことを知っていました」


翔はエミリーを見た。


「チャールズ国王とハリー王子?なぜ彼らが?」


エミリーは壁に貼られた四行詩を指差した。


```

*Le frère aîné sera par le cadet chassé,*

*Par le sang de la mère, le trône sera taché...*

(兄は弟によって追われ、母の血で王座は汚れる)

```


「この詩、知ってる?英国王室の確執を予言したって言われてるけど、これも2010年代に『発見』された偽物と言われているの」


翔は詩を凝視した。


「でも、もしこれが本当の予言で、2026年に何か起きるなら——」


「王室を巻き込んだ事件が、戦争の口火になる」エミリーが言った。「チャールズ国王かハリー王子、どちらかが『予言通り』に倒されれば、英国は混乱する。そして、その混乱が欧州全体に広がる」


紗耶が翔を見た。


「翔、どうする?ロンドンに行く?」


翔は手帳を閉じた。


「行く。黒木先生を救い出すためにも、1999年の真実を暴くためにも。JFK Jr.の死も、ただの事故じゃないかもしれない」


エミリーが立ち上がった。


「私も同行する。この組織のネットワークを使えば、王室イベントに潜入できる」


「でも、さっきのメッセージは『一人で行くこと』って——」


「無視するわ」エミリーは冷たく笑った。「彼らは私たちが来ることを知っている。なら、堂々と行けばいい」


***


## 2


2026年4月4日、午後1時50分。


ロンドン、ウェストミンスター寺院前。


チャールズ国王の戴冠式記念イベントには、数千人の群衆が集まっていた。英国国旗が翻り、王室ファンがカメラを構えている。


翔、紗耶、エミリーの三人は、群衆に紛れて寺院の正面に立っていた。


「エミリー、本当に潜入できるの?」紗耶が小声で訊ねた。


「大丈夫。私は『フランス文化省特派員』という偽の身分証を持っている」


エミリーがバッグから身分証を取り出すと、警備員が近づいてきた。


「Madame, vos papiers s'il vous plaît.(女士、身分証を)」


エミリーが身分証を渡すと、警備員はそれを読み取り機にかざし、そして頷いた。


「OK. Vous pouvez passer.(よし、通れます)」


三人は寺院の中に入った。


内部は荘厳な雰囲気で、ステンドグラスから差し込む光が床を照らしている。奥の壇上には、チャールズ国王とカミラ王妃、そしてハリー王子の姿があった。


「あそこだ」エミリーが囁いた。「ハリー王子が何かを語り始めようとしてる」


ハリー王子はマイクを持ち、群衆に向かって話し始めた。


「……本日、私はある重要な発表をいたします。それは、私の母、ダイアナ元妃が亡くなる前に、私に伝えたある『予言』についてです」


翔と紗耶が顔を見合わせた。


「予言?」


ハリーは続けた。


「母は言いました。『2026年8月、空から火が降り、七ヶ月の間、世界が燃える』と。これはノストラダムスの予言です。そして、その予言は——」


その瞬間、寺院の外で爆発音がした。


ドォン!


群衆が悲鳴を上げ、パニックに陥る。警備員たちが走り回り、国王と王子を庇おうとする。


「テロだ!」紗耶が叫んだ。


「違う」エミリーが冷静に言った。「これは陽動よ。本当の狙いは——」


エミリーが壇上を指差す。ハリー王子が倒れていた。彼の胸元には、小さな矢が突き刺さっている。


「ハリー王子!」翔が駆け寄ろうとするが、警備員に阻まれる。


「動くな!安全確保のためだ!」


チャールズ国王が叫んだ。


「医者呼べ!すぐに!」


しかし、ハリー王子は動かない。血が床に広がり、王座が赤く染まっていく。


```

『Par le sang de la mère, le trône sera taché……

(母の血で王座は汚れる)』

```


翔は詩の一節を思い出した。


「予言通り……」


紗耶が翔の袖を掴んだ。


「翔、見て!あそこ!」


紗耶が指差したのは、寺院の天井だった。そこには、小さなドローンが一台、ホバリングしていた。


ドローンが何かを投射し、それが床に落ちた。紙切れだ。


翔は周囲の混乱に乗じて、その紙切れを拾い上げた。


そこには、仏語でこう書かれていた。


```

*Le frère aîné sera par le cadet chassé,*

*Ce n'était pas une prophétie, c'était un ordre.*

(兄は弟によって追われる。これは予言ではなく、命令だった)

```


翔は息を呑んだ。


「予言じゃなくて……命令?」


エミリーが紙切れを覗き込み、顔を青ざめさせた。


「これは……『予言監視委員会』の内部文書よ。でも、なぜこれが——」


その時、翔のスマホが鳴った。


未知の番号からの通話。


翔が出ると、重厚な男性の声が聞こえた。英語だ。


「神崎翔か。私はハリーだ。死んではいない」


翔は目を丸くした。


「ハリー王子?でも、あなたが倒れたのを——」


「偽物だ。ドローンが投射したのは、血袋と矢のギミック。本物の私は、すでに安全な場所にいる」


ハリーの声は冷静だった。


「お前に真実を話そう。1999年7月、JFK Jr.暗殺と日本の財務大臣暗殺未遂事件。あの黒幕は、私の祖父、フィリップ王配だった」


「フィリップ王配?」


「ああ。フィリップは、ノストラダムスの予言を悪用する組織『ル・プロフェット』の創設者だった。1999年、ユーロ導入という真実の予言を隠し、代わりに『恐怖の大王』という嘘を広めた。そして、その混乱に乗じて、JFK Jr.を消し、日本でテロを起こした」


「JFK Jr.を……なぜ?」


「ケネディ王朝の復活を阻止するためだ。JFK Jr.は2000年大統領選出馬の有力候補だった。彼が当選すれば、中東政策が変わり、ル・プロフェットの戦争計画が頓挫する」


翔は手帳を握りしめた。


「そして、2026年8月12日の皆既日食。その日に『七ヶ月の大戦争』を勃発させる?」


「その通り。予言が世界中に広まれば、人々はパニックになり、戦争を『予言の成就』として受け入れる。自己成就予言だ」


ハリーは一瞬、息を継いで言った。


「お前に頼みがある。ホワイトハウスに来い。トランプが、すべての真実を話そうとしている。彼は『ル・プロフェット』の元メンバーだ。そして、今、彼らから命を狙われている」


「なぜトランプが——」


「時間がない。4月5日、午後3時、ワシントンD.C.のシークレットサービス本部に来い。コードネームは『トランペット』だ」


通話は切れた。


翔は紗耶とエミリーを見た。


「ワシントンに行く。トランプに会う。1999年7月の全貌を明らかにする」


エミリーが頷いた。


「私も同行する。『ル・プロフェット』の内部事情に詳しいのは、私だけよ」


紗耶がノートPCを開いた。


「じゃあ、私は遠隔サポート。ハッキングでルート確保するから、二人は安全に移動して」


翔は倒れたハリー王子の偽物(血袋)を見つめ、そして言った。


「1999年7月、JFK Jr.の墜落事故から始まった予言の連鎖。その最後のピースが、2026年の戦争だ」


「そう」エミリーが言った。「予言は嘘でも、戦争は本物になる。それを止められるのは、私たちだけ」


三人は寺院を後にした。


背後では、まだパニックが続いていた。


```

『予言は我らが作る』

```


その言葉の真の意味が、少しずつ明らかになりつつあった。


***


## 3


2026年4月4日、午後11時30分。


ロンドン・ヒースロー空港のラウンジで、翔とエミリーはワシントン行きの飛行機を待っていた。


「エミリー、一つ訊いていいか?」翔が口を開いた。


「何?」


「JFK Jr.の墜落事故、本当に暗殺だったの?」


エミリーは窓の外を見つめ、静かに言った。


「公式記録では『パイロットエラー』。でも、FBIの極秘報告書には、気になる記述があります」


彼女はバッグから一枚の写真を取り出した。そこには、若い頃の黒木教授と、エミリー、そして見知らぬ男性が写っていた。


「この男性、知ってる?」


翔は首を振った。


「フィリップ王配よ。1999年7月23日、JFK Jr.の葬儀の前夜、彼はワシントンにいました。そして、日本で起きた財務大臣暗殺未遂事件の実行犯に、金を渡していました」


翔は写真を凝視した。


「つまり、黒木先生とフィリップ王配は……JFK Jr.暗殺の真相を知っていた?」


「知っていました」エミリーは静かに言った。「黒木は『予言を正しく伝える』道を選び、フィリップは『予言を悪用する』道を選びました」


エミリーは写真をしまい、翔の目を見つめた。


「黒木がなぜ、あなたを選んだかわかる?あなたには、黒木と同じ『真実を伝える』という意志があるからよ」


翔は手帳を開き、10-72番の詩を見た。


```

『1999年、空から支払い人の大王が来るだろう』

```


「ユーロ予言は当たった。でも、誰もそれに気づかなかった。『JFK Jr.の墜落事故』と『恐怖の大王』という派手な訳が、真実を隠したからだ」


「そう」エミリーが言った。「2026年も同じことが起きようとしている。『七ヶ月の大戦争』という派手な予言が、真実を隠す」


「真実って、何だ?」


エミリーは静かに言った。


「戦争は、予言通りに起きるんじゃない。予言を信じた人々が、戦争を起こすのよ」


翔は窓の外を見た。夜空に、一筋の飛行機雲が伸びていた。


「なら、私たちは予言の嘘を暴くしかない」


「そう。それが、唯一の道」


アナウンスが流れた。


```

『ワシントンD.C.行きの便は、まもなく搭乗を開始いたします』

```


翔とエミリーは立ち上がり、ゲートに向かった。


背後では、まだロンドンの街灯が輝いていた。


1999年7月、JFK Jr.の墜落事故。


日本の暗殺未遂事件。


そして、ユーロ導入の影。


すべては、2026年の戦争への序曲だった。


翔は手帳を握りしめ、歩き出した。



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