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第8話 帰路

 数十分ほど電車に乗り、目的地である池袋へと到着した。

 改札を抜け、出口から外へと出ると、そこには輝かしい街と、たくさんの人々がいた。


 空は綺麗な快晴で、まるで俺達の池袋初上陸を祝福しているかのようであった。


 平日の昼間だと言うのにそこそこの人がいて、街の活気と発展具合が目に見えてわかる。


「す、すげぇ……」

「こんな高いビル見たことねぇぞ」


 そんな感嘆の声を漏らす俺たちを見てあかねが可愛らしく、「ふふっ」と笑みをこぼした。


「そんなに珍しいんですか……ふふっ」

 

 どうやら、茜のツボにハマってしまったらしい。

 そんな茜をよそに、俺達はタイムリープして現代に飛ばされた原始人のように、あたりをぐるぐると見回して言葉を失っていた。


 * * *


 その後、俺たちは思い思いに池袋を満喫し、自宅への帰路へとついていた。


 帰りの列車の車内、すっかりと外は真っ暗になり、しゅうは俺によりかかり、瑞稀みずきは茜によりかかりと疲れ果てて寝てしまっていた。


「今日は楽しかったです。私……あんまりこうやって友達と遊びに行ったりしたことなかったんです」


 茜は電車の窓から見えるきれいな夜景を眺める。


 不覚にも、そんな茜の姿に見入ってしまう。昔の茜とは違う、今でも昔の茜が大好きで誰にも代えがたい存在だ。

 

 でも、眼の前にいる俺のことを覚えてない茜にはどこか引き込まれるような魅力があった。


 数分して、俺達は目的の駅の一駅手前にいた。茜は俺達よりも二駅先で降りるみたいだ。


 とりあえず、茜と二人で瑞稀と秋を起こすことにした。肩により掛かる秋の頰をぱちんと叩く。


「おきろー秋ー」

「……」


 だが、秋に起き上がる気配はない。まるで、親の腕の中で眠る赤子のように安心しきって寝てしまっていた。

 それより……肩が辛い。数十分も秋の体重を俺の右肩が支えていたのだ。疲れて痛くなるのも当たり前であろう。


 一方で、茜の方はというと。


「瑞稀さん、起きてください」

「……? 茜さん……?」


 茜が自身の左肩に寄りかかって寝ている瑞稀を優しく揺する。

 すると、瑞稀は秋のように往生際が悪くなく、スッと起きた。

 秋にしびれを切らし、俺はとうとう行動に出ることにした。


「悪く思うなよ」


 秋の頰を更に強く、あとが残るレベルでぶっ叩くことにした。ひどいかと思うが、中学時代から秋はこうでもしないと起きないのだ。

 ちなみに、この技は秋のお母さんから教えてもらった技である。

 ……って、技ってなんだよ。ただの平手打ちじゃんか。


 俺は大きく手を振り上げ、思い切り手を振り下ろした。その手は空気を切り裂くように素早く秋の頰へと直撃し、「パチーン! 」という痛々しい音へと変化した。


「いって! なにすんだよ!」


 案の定、この衝撃のお陰で秋は眠りから目を覚ました。

 

 瑞稀は見慣れているし、自分もしたことがあるのでなんとも思わず平然な顔をしているが、茜は魔法でも見たのかというくらい驚き、目を見開いていた。


「こんな起こされ方されたくないなら、居眠りでレム睡眠に突入しないように矯正しておけ。」


 するとちょうどよいタイミングで、電車は俺達三人の借りているアパートのある最寄り駅へと到着した。

 

 自動再生のアナウンスとともに扉が開く。


「じゃあな、茜。また明日」

「はい! また明日会いましょう」


 俺達は茜に別れを告げ、車内からホームへと出てくる。

 外に出ると、もうすっかり日が沈んでいた。なにせ、もう今は午後の八時になろうとしているのだ。

 

 まぁ、暗いとは言え東京の夜は地方と比べてだいぶ明るい。ビルや住宅から漏れ出す暖かな光が、真っ暗な夜道を照らしていた。


 当然、星なんてものはそうそう見えない。実家からは毎日のように見えていた星が見えないのは悲しいが、これはこれで良いなと思うのであった。


「今日はたのしかったー!また行こうね」


 瑞稀が背伸びをして「うー!」とうなりながらそう言う。

 楽しかったは楽しかった。けれど、今回遊びに行って、俺はかすかな希望が潰されたような気がしたのだ。


 茜と話して、遊んで。けれど、茜の所作も言動も、以前のような大雑把なものでなく、一つ一つ丁寧で優しい言葉遣いであった。


 今の茜には昔の、天道茜の痕跡は一つも残っていないのだと思い知らされた。

 記憶をなくし、育ち元が変わるだけで、人とはこうも別人になってしまうのだと実感した。


 今日、遊んでみて分かった。今の茜には記憶を取り戻す鍵も、手がかりも何もない。今の茜は昔の天道茜が完全に分離してしまって別人へとなっていた。


 やっぱり、記憶を取り戻すだなんて不可能なのだろうか。あの茜と過ごした日々がなかったものになるだなんて、俺はそれが一番嫌なのだ。


 目の前で秋と瑞稀が楽しげに会話をしている。けれど、俺の頭の中は茜でいっぱいいっぱいであった。

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