第16話 退屈な授業
俺たちは教室に到着し、いつも通り、ホームルーム、一時間目の授業、二時間目の授業と流れ作業で進み、気がつけばもう三時間目の半ばであった。
二時間目が体育、それも持久走だった分、三時間目の古典は辛いものだ。
適度な運動なら汗を流してさっぱりできるものだが……持久走、お前はダメだ。
持久走は拷問以外の何者でもない。生徒を無理やり走らせるなどという拷問が、この令和の時代に学校で行われてもいいのだろうか。
否、いい訳がない。
よって俺は、持久走撲滅を掲げてこの間違った教育に異議を申し立てたい。
なんて思う人間がこの世の大多数であると思うが、そんな願いが叶うはずもなく、毎年のように持久走に苦しめられるのだ。
徐々に徐々にと俺の頭が机へと向かって下がっていく。起き上がろう、頭を起こそう。何度もそう思うが、体は言うことを聞かない。そんな思いに反して、額と机上のノートの距離は縮まっていく。
距離が残り二十センチを切った時、教卓から俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
「じゃあ雨宮。ここ答えろ」
「へっ⁉︎ あ、はい」
先生に指名され、勢いよく立ち上がる。俺の飛びかけていた意識は急速に回復し、まわりの風景が高画質カメラで撮った写真家のように鮮明に写る。
そんなのも束の間、俺の頭の中は真っ白になった。
問題もわからない。そもそも古典が苦手なので問題を聞いたところで何が何だかもわからないのだが。
「え、えっと……三番です?」
その瞬間、教室のあちらこちらでクスクスという声を押し殺したような笑い声が聞こえ始めた。
「今は本文中の書き抜きだ。授業を真面目に聞いてろ、雨宮」
「は、はい…………」
俺が座ると同時に、解答権は後ろの席の瑞稀に移った。見当違いどころの騒ぎではない俺の回答とは異なり、瑞稀は模範回答を提示して先生の機嫌も元に戻った。
授業中はまた同じことが起きるのは勘弁なので目を思い切り開いて死ぬ気で起き続けた。
そして何とかもう一度寝落ちせずに授業を終えることができた。
「雨宮さん。大丈夫ですか?」
「ん? 茜?」
授業後、教材を片付けていると茜が俺の机へと近づいてきた。
「何だかいつもより元気がないなと思いまして……少し上の空というか……」
「いやいや大丈夫。ちょっと夜中まで来週の試験のために勉強してて、それで寝不足なだけだから」
「そうなんですね! 試験勉強も大事ですけど、体調に気をつけてくださいね」
茜はそう言って、俺の机に栄養ドリンクを一本置いて、先生の元に質問をしに教卓へと向かった。
やっぱり茜は優しい。今の茜は気づきができて、誰にでも優しくて、聖母のような人だ。昔のガサツで、男勝りな茜とは全然違う。優しくされて嬉しい反面、茜が本当にかわってしまったのだと実感する。




