彼女の姿
夜は深く、銀獣の村には霧が糸のように流れていた。 屋根の隙間を縫うように、静かに漂っている。
雪誠は村長の屋敷の隣にある石の小屋に滞在していた。 まだ観察期間中だった。
彼は逃げることも、問いかけることもせず、ただ静かに座っていた。 時折、窓の外を見つめるだけ。
部屋には石の寝台と、かすかな灯火が一つ。 隅には彼の布製の袋が置かれており、半分開いていた。
—
扉の前には少年レイズが立っていた。 手には短槍、瞳には複雑な色が宿っていた。
祖父がなぜこの人間に対する態度を変えたのか、彼には理解できなかった。 あの刻印が、なぜ人間の体に現れたのかも。
ただ——不安だった。
—
彼は部屋に入った。 雪誠は止めなかった。 ただ静かに、彼を見ていた。
レイズはしゃがみ込み、布袋を開いた。 盗むつもりではなかった。 ただ、この人間が何者なのかを知りたかった。
—
中には、いくつかの物が入っていた。
一本の折れた木剣。 柄は擦り切れ、縁には乾いた血の痕が残っていた。
そして——一枚の面具。 獣骨と樹皮で作られたそれは、輪郭が柔らかく、目元は細く、口元はわずかに微笑んでいた。
レイズは息を呑んだ。
その顔を知っていた。 面具そのものを見たことはなかった。 だが、その形は——妹リーヴと、まったく同じだった。
—
彼は震える手で面具を持ち上げ、見つめた。 まるで、忘れかけた記憶を覗き込むように。
「これは……彼女の顔だ。」
彼はほとんど聞こえない声で呟いた。
—
雪誠は目を開け、彼を見つめた。
「彼女を知っているのか?」
レイズは振り返り、瞳を揺らした。
「なぜ、彼女の面具を持っている?」
雪誠は少し黙り、そして静かに答えた。
「俺が作った。」
レイズは面具を握りしめ、瞳に炎のような光を宿した。
「なぜ、彼女の顔を作った?」
雪誠は低く言った。
「人々が、彼女を受け入れてくれるように願ったから。」
—
レイズは立ち上がり、呼吸が荒くなった。
「彼女の名前は?」
雪誠は彼を見つめ、穏やかに答えた。
「リーヴ。」
レイズは歯を食いしばり、声を震わせた。
「彼女は……俺の妹だ。」
—
部屋は沈黙に包まれた。
雪誠は彼を見つめ、瞳は静かだった。
「ここは銀獣の村か?」
レイズは頷いた。 声はかすれていた。
「そうだ。ここが彼女の故郷だ。」
—
彼は面具を見下ろし、何かを決意したようだった。
「このことを祖父に伝える。」
雪誠は止めなかった。 ただ、静かに頷いた。
—
村長の屋敷では、火盆の紫炎が揺れていた。
レイズは扉を押し開け、急いだ声で言った。
「祖父、話があります。」
村長は顔を上げ、眉をひそめた。
「彼の部屋に入ったのか?」
レイズは頷き、面具を机の上に置いた。
「彼はこれを持っていました。 それは……リーヴにそっくりです。」
村長は黙り込み、面具を見つめた。 その瞳が、わずかに揺れた。
「彼は言いました。三日前、リーヴは勇者に連れ去られた。 彼は彼女を救いに行くと。」
レイズは歯を食いしばり、声を低くした。
「彼が嘘をついているかはわかりません。 でも——真実を知りたい。」
村長はゆっくりと頷いた。 その瞳は夜のように深く、静かだった。
「ならば、彼に聞きなさい。 守衛としてではなく——兄として。」




